軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35 ケチャップの開発は任せた

「ねえケイト。あなた、スパイスの調合は得意かしら?」

「スパイスですか? 使うことはありますが、調合? はしたことがありません」

「まぁ普通はそうよね。アルマはいろんな組み合わせを試してみたりしていたわよね?」

「はい。色々と試すことが好きでして――」

アルマはおかしなことなのかと、周りの顔色を窺っているけど、いいのよ、いいの。実験は大いに結構。

「じゃあ、これはやっぱりアルマ向けね。アルマにはちょっと頼みたいことがあるから、他の皆さんは仕事に戻ってちょうだい。アルマ。ええと、そちらで話をしましょう」

カントリーハウスの厨房は夜会の準備ができるように、タウンハウスの厨房の三倍くらいの設備がある。

調理台となるテーブルも大中小と三つあったので、一番小さなテーブルにアルマと移動する。

「ねえアルマ。あなたはトマトを食べたことあるかしら?」

「い、いいえ。扱った経験もありませんし、食べたこともありません」

あら。そんなしゅんと落ち込まなくていいのに。この世界じゃポピュラーな食材じゃないみたいだから。

「じゃあ、今、食べてみましょう。これを洗ってからヘタを取って、くし形に切ってちょうだい。あ、薄くていいから」

「かしこまりました」

アルマはトマトを一センチくらいの薄いくし形に切ってくれた。ご丁寧にお皿に載せてフォークを添えてくれる。あっぶな。そのままつまんじゃうところだった。

アルマも私の前だと手掴みはまずいと思ったのか、同じようにお皿に載せたものをフォークで口に運んだ。

……酸っぱい。

これはちょっと、いや、かなり酸っぱい。うん。アルマも同じ感想みたい。

「生食向けでないことはわかったわね」

「はい」

「でも煮詰めて調理すれば美味しくなると思うの」

「はい……え?」

「これ、かなり酸っぱいでしょう?」

「はい。食用とは思えませんが――」

そうきたか!

「まあ。そうね。そうかもしれないけれど、これを食べている人たちがいることは事実だから食用で間違いないのよ? でもこのままだと美味しくないから、味付けをしようと思うの。煮詰めてドロドロの状態にしてね。まず酸味を和らげるために砂糖を入れないといけないわね。それに味付けといえば塩と胡椒。もちろん入れましょう。まずはここまでやってみてくれる?」

「はい」

アルマは思考を放棄して作業に集中することにしたらしい。

ドロドロというヒントから、彼女はザクザクと小さく切ったトマトを裏ごしして鍋で煮始めた。

素晴らしい!

そして塩と胡椒と砂糖を控えめに入れた。

私がうんうんとうなずくと味見をして、さらに砂糖と塩を入れた。うんうん。どんな感じ?

「マルティーヌ様。これは――これはなかなか面白いです。確かに煮て味を付けると美味しくなりそうです」

アルマがキラキラと目を輝かせている。

「私にも味見をさせて」

「はい。ただいま」

今度は小皿にスプーンを載せて渡してくれた。

お行儀よくサラリとしたスープを飲んでみる。うん。トマトピューレよりはケチャップに近いか? いや、まだだな。

まだまだ薄いトマトのスープといったところだけど、これは期待できるかも。

全然、味がまとまっていないけど、もっともっと煮詰めて、これにスパイスでキリッと味を引き締めれば出来るんじゃない?

「いい感じね。このままトロトロに煮詰めてね。さっきスパイスの話をしたのは、これを煮詰めたものに、いろんなスパイスを少しずつ入れて、味の変化を調べてほしいからよ」

「これにスパイスを入れるのですか?」

「ええ、そうよ。色々と試して、これはと思うものが出来たら教えてちょうだい。そのときの配合割合も控えておいてね。たぶんローリエあたりは入れていいと思うんだけど、他にもこれに合いそうなスパイスがあったら遠慮せずに色々試してみてね」

「試してよろしいのですか?」

スパイスは高価なものだから、おいそれとは使えない。しかも、どんな味になるか試すために使えって言われると驚くよね。

「私がほしいのは、甘い中にも、ほのかに酸味を感じられるソースなの」

「ソース? ソースとはどのようなものでしょうか?」

しまったー! ソースそのものがなかったわ。

「あ、あのね。王都で見た文献に載っていたのだけれど、食材を煮詰めたトロリとしたものを『ソース』と呼ぶらしいの。それでまずは、生食に向かない食材を煮詰めて味を付けてソースができないか試そうと思ったのよ」

「さようでございますか……」

「そうなの。だから、これが一つ目のソースよ。これが完成したら他の食材でも試そうと思うの。まずはトマトのソース作りを頑張りましょう」

「はい。ではお言葉に甘えて、スパイスをいくつか調合して加えてみます」

「よろしくね。特に期限は決めていないから、色々と試してちょうだい。時々は私にも味見をさせてね?」

「はい。もちろんでございます」

よぉっし! これで後は待つだけだ。頼んだよ、アルマ!