作品タイトル不明
186 学園入学前のあれこれ
王立学園の入学まで、まだ一ヶ月以上あるけれど、その間は絵画と音楽の勉強をさせられるらしい。
音楽に関しては中二までピアノを習っていたから、まあまあ自信があったんだけど、必要なスキルは、『演奏』じゃなくて『鑑賞』だった。絵画もそう。
なんだかガッカリ。
「マルティーヌちゃんもいつかは夜会を開くことになるのよ? 楽団の力量については食前酒をいただきながら話題にすることが多いの。伯爵家でも自慢の音楽家を召し抱えている家は多いわ。音楽家たちは定期的に演奏会を開いているから、成人するまでにできるだけたくさん聞きに行くことね。忙しければ、信頼のおける者を派遣して、めぼしい人物を屋敷に呼ぶといいわ」
ダルシーさんは軽い雑談のような話ぶりだったけれど、後からドニに、「いくつか演奏会の候補をいただいております」と言われて焦った。
行けってことだよね。はぁ。
それにしても、専属の音楽家のスキルを競ってマウントの取り合いをするのか。
あ、そういえば、話の中で息子なのに公爵をポンコツ扱いしていたな。
「リュドビクはねぇ……。あまりに興味を持たな過ぎて、裏では少し舐められているのよね。マルティーヌちゃん、学園の卒業まではあっという間だから、くれぐれも悪い見本を真似しないでね」
公爵って――私には『社交に励め』って言うくせに、実は公爵自身はあんまり社交が得意じゃないとか?
ムムム!
絵画の方はもう少しで画廊を紹介されそうになったけれど、そこはなんとかパトリックで手を打ってもらった。
「パトリック兄様ねぇ」と、ダルシーさんは乗り気じゃなかったけれど、あんなのでもその界隈では一目置かれた存在であることは事実らしく、オッケーが出た!
これで絵画は遊び半分でいけるな。
◇◇◇ ◇◇◇
制服の二回目の仮縫いをしたり、ソフィアと一緒に出かけたり、あれやこれやを楽しんでいると、あっという間に月日は過ぎていった。
今日は、王都の初等科に通わせていた子どもたち五人が領地に帰る日だ。
ドニの采配なのか、普段は屋敷の中ですれ違うこともなく顔を見ないままだったから、最後くらいは挨拶したいと呼んでもらった。
応接室に私一人が座って、五人が並んで立っている。
なんだか距離を感じるけれど、もう領地で羽を伸ばしている私じゃないからなぁ。
五人の成績は全員申し分なかったとドニから聞いている。
使用人を褒めちぎることはしないだろうから、おそらく相当良い成績だったんだと思う。
みんな頑張ってくれたんだね。嬉しい‼︎
一人一人じっくり話を聞いて労いたいところだけれど、出発時間を遅らせる訳にはいかない。
ここで私が時間を取ると道中の休憩時間が削られるもんね。
それでもちゃんと顔を見て送り出したい。
まずは最年長のフィルだ。
フィルは馬手見習いとしてタウンハウスに残ってもらう予定だ。
「フィル。小さい子の面倒を見ながら勉強を頑張ったと聞いているわ。これからはここタウンハウスで実地訓練を受けてもらうので、引き続きよろしくね」
十六歳のフィルは、初等科でも最年長だったと聞いた。
学び始めるのが遅かった分、苦労したはず。
「はい。お屋敷で働かせていただけるなんて本当に幸せです。両親も喜んでいました。早く一人前になれるようがんばります」
「よろしくね」
いいねえ。やる気に満ち溢れている。いい顔しているなぁ。
じゃあ、次。
「シムズ。あなたも庭師見習いとして、ここでブルースの指導を受けてもらうわ。そのうちカントリーハウスにも行く機会があると思うから、グレンとも仲良く助け合ってね」
「はい!」
十二歳って、前世なら小六だよね。
こっちの世界の子どもは早く大人になるから、「お母さんに会いたい」とか言わないのが偉いね。
でもなるべく里帰りできるようにしてあげよう。
残る三人は帰郷組だ。
まずは騎士見習いの二人から。
「ヒース。ニーナ。あなたたちのことはディディエに頼んであるわ。しばらくはカントリーハウスで訓練に励んでもらうことになるから、頑張ってね。もしかしたらアレスターが無茶を言うかもしれないけれど、そのときは必ずレイモンに相談してね」
騎士の交代について丸投げするんじゃなかった。
ディディエとアレスターは常に一緒の方がいいかも。
ニーナなんて十一歳の女の子なんだよ?
「ニーナも私も剣術の訓練を楽しみにしています」
ヒースがそう答えると、隣で小さなニーナがブンブンと首を縦に振っている。
「ヒースは再来年、王立学園の騎士コースに編入する予定だから、それまで体を鍛えておいてね」
「はい!」
うん。かなりやる気だね。
「ニーナ。あなたはまだ成長途中だから、剣術の前に体力をつけることを優先してね。もちろん、あなたも十六歳になったら騎士コースに編入してもらうから、ヒースからも色々と教わるといいわ」
「はい。そのつもりです」
おお。元気がいいね。
最後は最年少のイアン十歳だ。
今思い出しても、あの謎解きは見事だった。
「イアン。あなたも十六歳になったら文官コースに編入してもらうけれど、それまではレイモンやマルコムの下で勉強を続けてちょうだい」
「はい。貴族の皆様についていけるよう、準備をがんばります」
体はまだまだ小さいのに、なんか大人っぽくなってる!
「期待しているわ。さあ、三人はもう行かなくっちゃね。ヒース。領地まで二人をお願いね」
「はい! かしこまりました」
今日という日が五人の素敵な門出になりますように‼︎