軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184 制服の採寸

結局、公爵とギヨームがパトリックの馬車で一緒に帰って行き、ダルシーさんは乗ってきた豪華な馬車で、私は自分の家の馬車で、ドレスメーカーに行くことになった。

場所柄、護衛はリエーフではなくシェリルになった。

彼女も馬ではなく、私とローラと一緒に馬車で移動だ。

シェリルに聞きたいことがあったので、ちょうどよかった。

「ねえ、シェリル。王立学園って、制服があったのね」

貴族の子弟が通う学園だから、着飾ったドレスで通学するのかと思っていたんだよね。

だから支度が大変なんだと。

「はい。元々は専門コースだけに導入されていたのですが……。専門コースに平民の編入が許されてすぐのことです。なんでも、あまりに服装が違い過ぎるからという理由で――まあ本当は、平民の質素な服装が貴族の方のお目汚しになるからという理由で導入されたそうですが」

あぁぁ。納得。

王都で生活するだけでもお金がかかるもんね。

削るとしたら住居費、そして食費の前に洋服代だよね。

「制服の運用が始まると、教養コースにも導入してほしいという嘆願が寄せられたそうです。貴族の中にも、できるだけ出費を抑えたいと考える方はいらっしゃいますから」

あー分かる。兄弟が多かったり、そもそも土地持ちじゃない家とか、事情は様々だよね。

ドレスって、ほんと、バカ高いよね。

いや、お金だけじゃないかも。

OLが通勤服に悩むみたいに、貴族だって悩むのかもね。

一週間コーデとか着回し術とか、情報交換をしていそうだな。

「教養コースに制服が導入されたのは、ちょうど私が入学した年なのです。専門コースに比べると、教養コースの女子向けの制服はとても可愛らしいですよ」

楽しい学園生活の記憶が蘇ったのか、シェリルが満面の笑みで教えてくれる。

「基本はシンプルなグレーのAラインのワンピースです。中には一年中この格好の方もいらっしゃいますが、普通は気候によってボレロやジャケットを組み合わせますね。一応コートもあるのですが、教室内では着ないので、高位貴族の方々は、さすがに皆様コートは仕立てられますね」

費用面で制服のコートを着ていても、「制服だから」というのはいい言い訳になる。

本当に有難いよね。

「あ。見えてきました」

見覚えのあるドレスメーカーの看板が目に入った。

街並みも何となく記憶にある。

◇◇◇ ◇◇◇

店先で馬車が停まったので、ダルシーさんに遅れまいと急いで降りる。

フランクール公爵家の御者は従者も兼ねているようで、一人が、ダルシーさんの来訪を告げるために店内に入って行った。

「昔の風刺画かよ!」ってツッコみたくなる盛り盛りのポンパドールのマダムが優雅に出てきた。

あー‼︎ めちゃくちゃ覚えてるー‼︎

そうだ、あの人だ。この店のオーナー‼︎

オーナーはダルシーさんの前で低く腰を落として恭しくカーテシーをし、「ようこそおいでくださいました」と挨拶をした。

「こちらがモンテンセン伯爵よ。よろしく頼むわね」

「はい。お久しぶりですモンテンセン伯爵閣下」

うげっ。「閣下」なんてやめてほしい。

でも言えない。相手は平民だし、私と関係性がある訳じゃないし。

くぅ。我慢我慢。

「今日はよろしく」

「はい。ではどうぞ。色々と取り揃えておりますので」

取り揃える? 何を? 制服だからデザインは決まっているよね?

採寸だけじゃないの?

◇◇◇ ◇◇◇

採寸のために用意された部屋は、初めて入る部屋だった。

伯爵夫人とかが来店した際に使用する特別室らしい。

お母様はここに通されていたのかな……。

部屋の奥にマネキンが四体並べられ、シェリルが言っていたワンピース、ボレロ、ジャケット、コートが着せられていた。

淡いグレーのワンピースやジャケットには、胸元や袖、裾に、アクセントとなる模様が白色で入っていた。

私は巨大な姿見の前に立たされ、ダルシーさんはその横に三人がけのソファーを置かせて腰掛けた。

「まずは採寸を済ませてしまいましょう」

オーナーがそう言うと、控えていたお針子が二人、私の体のあちこちを測っては記録していく。

一通り測り終えると、ここからが本番だと言わんばかりに、お針子たちが、色見本と数種類の生地をテーブルの上に並べた。

「後ろにございますのが教養コースの制服になりますが、ワンピースの胸元、ウエスト部分、それと袖口、裾に、お好きなお色でアクセントを入れることができます。コホン。基本的にデザインは決まっておりますが、こだわりのあるデザインをご所望でしたら、私どもでご提案することも可能でございます」

へぇ。みんなカスタマイズしてるんだ。

「マルティーヌちゃん。何色にする? ピンクなんか可愛いいんじゃない?」

ピンクかぁ。ソフィアがピンクを入れそうな気がするなぁ。

被るのはナシだよねぇ。

黄色はルシアナが使うよね……

「ダルシー様。ピンクは友人と被りそうなので、他の色にしようと思います」

「あら? お友達に譲りたいの? まあ、あなたがそれでいいならいいのだけれど。じゃあ、何色がいいかしら?」

うーん。何色がいいかな……?

これだけ薄いグレーなら、どんな色とも合うよね。

うーん……。

「コホン。ピンクと申しましても、赤に近いものから青に近いものまで、色味や濃淡で様々なお色がございます」

オーナーがそう言って色見本を広げて見せてくれた。

すごっ。こんなに色んな色を出せるんだ。すごいね!

「どうぞお手に取ってご覧ください」

「ありがとう」

三センチ角の薄い布切れが貼ってある見本は、色がイメージしやすい。

「どの色もとても綺麗ね」

「はい。モンテンセン伯爵閣下は、瞳の色に合わせて、こちらの緑や黄色などもお似合いかと存じますが」

黄緑だと幼さ全開な気がするんだけど。

……あ。

この、こっくりしたピンク色、とっても綺麗!

「そちらはルビーピンクですね。キリリと引き締まった大人っぽい仕上がりになるかと存じます」

「あら! いいじゃないの。それにすれば?」

ダルシーさんも賛成なら、これにしちゃおうかな。

ソフィアは絶対、薄いピンクにすると思うんだよね。

これだけ濃ければ被らないし、いいよね。

「はい。これに決めます」

ダルシーさんも満足気でよかった。

「決まりね! ああ、裾のラインは二本入れてちょうだい」

「かしこまりました」

うわぁ。どこまでカスタマイズするんだろう。

「では、モンテンセン伯爵はルビーピンクを入れるので、それに近い濃い目のピンクは留め色にするわ」

「かしこまりました。すぐに通達いたします」

……は?

『留め色』――とは? 通達?

「心配しないで。マルティーヌちゃん。貴族が使うドレスメーカーは決まっているの。この店から全店に通達してもらうから、あなたと同じ色を使う新入生はいないわよ?」

……へ?

つまり、私と同じ色の使用禁止を通達するってこと?

えぇぇ‼︎

もしかして公爵家の特権か何か? 怖っ!

「じゃあ、次はデザインね」

も、もう、全部ダルシーさんにお任せしていいですか?

「ダルシー様。お勧めのデザインがございましたらご教示いただけますでしょうか」

「まあ、任せてちょうだい!」

ダルシーさんとオーナーが、ああだこうだと議論を始めたので、そうっと姿見の前から壁際へと移動した。

ずっと控えていたローラとシェリルは苦笑いを噛み殺している。

ドレスメーカーでダルシーさんと別れた私たちは、シェリルの案内で、王立学園の前を通って帰ることにした。