軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

180 王都への引っ越し

引っ越し当日の朝。

朝食はいつも通り、焼きたてのパンとオムレツとハッシュドポテト。それにサラダ。

フリルレタスをあくまでも上品にムシャムシャと食べていると、カントリーハウスで食べる最後の食事なんだなあと、噛む回数が増えた。

王都では地産地消とはいかない。

しんみりするのはよくないと、部屋に戻って張り切って着替える。

移動中、馬車の中では、ベッド仕様に変更した座席の上でダラダラ過ごすつもりなのでパンツスタイルで出発したかったけれど、さすがに当主として出立に相応しいドレスにした。

これも一度しか着用していない、新年を迎えた日に着ていた真っ白なドレスだ。

今日の旅立ちは、きっと使用人のみんなの思い出にも残ることだしね。可愛い姿を焼き付けてもらいたい。

「どう? ローラ? おかしなところはない?」

「……はい。本当に成長されましたね、マルティーヌ様」

「うふふ。ありがとう」

そうだよねぇ。

ローラと会ってもうすぐ一年になるけれど、タウンハウスではパツパツの着古した貧相なドレスを着ていたもんね。

それにこの一年で背も伸びたし!

「じゃあ、行きましょう!」

階下に下りると、使用人たちがエントランスホールの両脇に並んでくれていた。

私が通ると次々に会釈してくれる。

ヤバい。ちょっと泣いちゃいそう。

エントランスを出ると、普段あまり表に顔を出さない下働きの使用人たちまでもがずらりと勢揃いしていた。

私に続いて、エントランスホールにいた使用人たちも外に出て来る。

え? 全員集合してる?

私――これだけの人に支えられていたんだね。

アルマを含む使用人の何人かは、既にタウンハウス入りをして私の到着を待っていると聞いた。

ここにいる中の半分近くも、私について王都に来てくれることになっている。

「みんな……世話になったわね。屋敷に残る方は、カントリーハウスの維持をよろしくね。少しの間留守にするけれど、レイモンと一緒によろしく頼むわね」

一斉に、「はい!」と元気のいい返事が返ってきて、みんなからエネルギーをもらえた。

「マルティーヌ様。タウンハウスはドニに任せておりますが、何かあれば早馬でお知らせください」

おっと。レイモンはもういい歳なんだから、休憩もせずに馬で駆け付けるようなことはしてほしくない。

「大丈夫よ、レイモン。フランクール公爵領は王都に隣接していて、公爵のお住まいのカラーリ城とうちのタウンハウスは近いもの。本当に何かあったときには公爵に助力をお願いするわ」

遠くの親戚よりも近くの他人。

でも、公爵は私の後見人だから、準親戚みたいな感じかなぁ。

「かしこまりました。ですが、ドニに申し付けて、知らせは必ずくださいね」

「もちろんよ! レイモン。領地のこと、くれぐれもお願いね。オーベルジュの運営やケチャップ製造のことで問題が発生した場合は、それこそすぐに連絡をちょうだいね」

「はい。心得ております」

馬車に乗り込むと、レイモンがドアを閉めてくれた。

ゆっくりと馬が歩き始める。

使用人たちは最後まで美しく立ったまま見送ってくれたのに、うっかり私の方が手を振ってしまった。

しばらく進むと、ポツポツと道端に領民が立っていることに気がついた。

「ねえ、ローラ。今日はやけに人が道端に立っていない?」

「気づかれましたか。レイモンさんの指示で、マルティーヌ様が本日王都へ向けて出発される旨を掲示板に掲出されたのです。オーベルジュのお客様にも使用人たちがお伝えしましたので、かなり広範囲に伝達されているようです」

そうだったの?!

「ねえ。手を振ってもいいわよね?」

だってわざわざ見送ってくれているんだもん。

「はい。よろしいのではないでしょうか」

やったー。

中心街に近づくにつれて、見送りの領民が増えていく。

マラソンの応援くらい盛り上がっているので、手が疲れてきたけれどお手振りを止める訳にはいかない。

「暑い中、ずっと立って待っていてくれたのかしら……」

さすがにあの日本の猛暑ほどの気温ではないけれど、日差しはすっかり夏だからね。

熱中症には注意してほしい。

「掲示板にはおおよその時間も書かれていたはずですので、あの待合室の前の大時計を見て集まっていると思います。ですので、それほど待たれてはいないでしょう」

「そうなのね。よかったわ」

ほらね! やっぱり時計って役に立つでしょう?

◇◇◇ ◇◇◇

あっという間に変わり映えしない自然の風景となった。もう見送りの人もいない。

はぁ。暑い。あっつい。

そうだった。こっちに来るときも熱を吸収する車体の色のせいで馬車の中が暑くなったんだった。

忘れてたよ。

窓が開かないから風も入らない。

ん? 開けられるように改造しちゃえばいいんじゃない?

でもさすがに誰かに見られたらまずいか。

冷風が出る魔道具ってないのかな?

公爵のところの魔道具工場? 工房? 今度見学させてもらいたいな。

私、アイデアなら出せると思うから、あとはこの世界の技術で便利なグッズを色々と開発してほしいなぁ。

あーでも、そういうことは学園での成績次第かもしれない。あの人、口を開けば、「勉強しろ。報告しろ」だもんね。

公爵のお小言が聞こえてきそう。

『君は何のために王都にやって来たのだ? まずは学園での学習に注力するべきだろう。それが学生の本分だ』

はいはい。お勉強が一番大事ですよ。そして社交ですね。わかっていますとも。

私の王都での護衛はリエーフとシェリルだ。

屋敷の護衛も必要ということで、ディディエとマークもタウンハウスに常駐してくれる。これは本当に心強い。

よくアレスターが、「ワシが行く!」とか言い出さなかったなと思ったら、レイモンが説得してくれたらしい。

ただ交換条件として、KOBANに住む家族が見つかるまで、『中心街の見回り』をアレスターがすることになった。

彼が馬で街中を駆け回るのかと思うと、ちょっとだけ領民たちに申し訳ない気持ちになる。

何の事件も起きていないのに、アレスター自身がお騒がせしそうだもんね。

ディディエは王都で騎士のリクルートをすると言っていた。

既に騎士の仕事に就いている人を引き抜くのはやっぱり難しいので、事情があって引退したり、他の仕事に鞍替えした人を狙うらしい。

そういう情報はやっぱり王都の方が集まるもんね。

田舎に引っ込んでもいいという人が見つかるといいなぁ。

「マルティーヌ様。タウンハウスに到着されても、あまりのんびり休憩できないでしょうから、道中は多めに休憩いたしますね」

「そ、そうね」

そうだった。なぜか我が家に公爵がやって来るのだ。

王都に戻って三日後におもてなしって非常識じゃないの?

しかもショートケーキとポテチをご所望とは。これ、公爵に出さなかったことを怒ってる?

ふふふ。でも私には、ご機嫌を伺うのにちょうどいい出来立てほやほやのケチャップとソースがある!

ソースは初出しということで溜飲を下げてもらおう。

あ。王都に入る前には馬車を元の大きさに縮小することを忘れないようにしないとね。

それにしても王立学園かぁ。どんなところかな。

社交――はまあ、ほどほどに頑張るとして、新しい友達ができたらいいなぁ。