軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174 マルティーヌのお茶会⑨

ソフィアを見送って馬車に乗り、早速ローラにリエーフのことを聞いてみた。

「ねえ、ローラ。あなたもさっき聞いていたでしょう? リエーフのことをよく思っていないような発言」

さすがのローラもハッと目を見開いた。

「……はい。やはり王都にお住まいの方には馴染みがないので驚かれたのでしょう。私も最初にリエーフに会ったときは子どもの頃に聞いた話を思い出して、『本当にいたんだ』って思いましたから」

「その白髪赤瞳の民族について教えてちょうだい。私はお母様から聞いたことがないの」

「私もなんとなく聞いたことがあるという程度なのですが。その昔、モンテンセン伯爵領の西にある大森林に白髪赤瞳の一族が隠れ住んでいたそうなのです。あるとき、どこかの国の王様が、『赤い瞳など気味が悪い』と言って、自分の国の近くに住んでいた彼らを追い出して、それ以来その一族は散り散りになったとか。今では『流浪の民』と呼ばれています。でも実際にそんなことがあったのかどうかすらわからないのです。単に珍しい色の髪と瞳をもつ民族というだけな気がしますが。それでも親から子へと代々語り継がれてきたせいか、関わり合いになりたくないと嫌っている人がいるのです」

随分な話だ。真偽のほどもわからないのに、昔偉い人が嫌っていたっていうだけで、何で自分まで嫌う必要があるのだろう。

理不尽極まりない。

……そっか。リエーフはそういう偏見で嫌な思いをしてきたんだな。

「本当かどうかわからないから、『おとぎ話』って言われているのね」

「はい」

ルシアナママはそんな怪しい噂話を持ち出してどうしたかったのかな?

私が『お目汚し』を詫びるべきだとでも考えていたのかな? だとしたらムカつく。

リエーフは絶対に私が守るからね!

あー。振り返れば、サッシュバル夫人も公爵もパトリックもダルシーさんも、私の味方になってくれた人は誰一人リエーフの外見に触れなかったな。

噂に惑わされない人たちで本当によかった。

色々と思い返すと……ちょっと泣いちゃいそう。

「ありがとう、ローラ。リエーフは私にとってもカントリーハウスのみんなにとっても家族のようなものだもの。絶対に私が守るわ」

「……マルティーヌ様!」

「もし喧嘩を売られたら全部買い取って返り討ちにしてやるわ!」

「え? いや、それは……」

私、伯爵でよかった! 後見人に公爵がついてくれてよかった!

◇◇◇ ◇◇◇

翌朝。

招待客の見送りのために、十時過ぎにオーベルジュまで出向いた。

ソフィアには十時に到着することを伝えておいたので、私が着いたときにはレストランでお茶を飲んで待っていてくれた。

今日も貸し切りなので客は来ない。

親友と二人きりで話せるのが嬉しい。

「ソフィア!」

「マルティーヌ。すごいわ。時間ピッタリね!」

「うふふふ。カントリーハウスとオーベルジュの間は何十回と往復しているから、何時に出ればいいかわかるのよ。おば様はまだお部屋でお休みされているの?」

「もう荷物は片付け終わったのだけれど、昨日のハーブティーが気に入ったらしくて、ちょうど今頃部屋で飲んでいると思うわ」

「そうだったんだ。オホン。それで――どうだった? 私のお茶会は?」

「くぅぅぅ。あのマルティーヌがお茶会を開くなんてねー。それだけでもすごい成長だと思うけれど。えっへっへっ。このソフィア様が採点してあげましょう!」

「うんうん!」

早く! 早く! もう何度かお茶会を経験しているソフィアの感想を聞きたい!

「ジャジャーン! 合格ぅ!!」

「本当?」

「もちろん! すっごく楽しいお茶会だったもの! お母様も褒めていたわ。『とにかく料理とお菓子が美味しい』って。あ! 後で話題に出ると思うけれど、やっぱり『ショートケーキ』と、あと、あの赤い――何だっけ?」

「ケチャップ!」

「そう、それ! 昨夜の夕食で説明を聞いたときは、正直口に入れるのを躊躇してしまったけれど、フランクール公爵も召し上がったと聞いて思い切って食べてみたら、すっごく美味しかったわ! とにかく食事を楽しみに来るだけの価値は大いにあるわね!」

やったー!! 狙い通りだ!!

ぐふふふ。公爵のときには間に合わなかったけれどシュークリーム以来の傑作を世に出すことができた。

満を持して投入した『生クリームのショートケーキ』は大成功だね!

卵に空気を含ませてよく泡立てるだけで、ふわふわに膨らんだスポンジになるなんてね。

原材料と出来上がりの姿が劇的に変化するのもお菓子作りの面白いところなんだよね。

卵と砂糖とバターと小麦粉が、あんなスポンジケーキになるなんて、ほんと魔法みたいだよね。

ケチャップも美味しさが伝わってよかったー!

「ビックリした?」

「ビックリした!」

「ショートケーキもケチャップも、レシピは門外不出で、うちの目玉商品にするつもりなの」

「どっちも毎日食べたいくらいなのに、王都に帰ると食べられないのが残念だわ。ねえ、王都にも店を出しなさいよ」

「え? えぇぇぇ。それはまあ、うーん。出せたらいいけど……」

ソフィアとキャッキャキャッキャと話をしていたら、表の方にルシアナ母娘の姿が見えた。

そしてすぐにソフィアママの姿も。お互いに侍女を使って動向を見張らせているの?

「私たちも行ったほうがよさそうね」

ソフィアがよそ行きの顔でそう言ったので、内緒話はここまでとなった。

「皆様おはようございます。昨晩はごゆっくりお過ごしいただけましたでしょうか」

ホステスモードで賛辞を待つ。ここはお客様からお褒めいただく場面だもんね。

ソフィアママが褒めてくれると思ったら、意外にもルシアナママが評価してくれた。

「とても素晴らしかったわ。昨夜の夕食といい、今朝の朝食といい、確かにマルティーヌ様のおっしゃる通り、食事を楽しむことだけを目的に訪れてもよいと思いましたわ」

ちょっと、ルシアナママ! 意外だけど最高の褒め言葉だよ!

「あの『ショートケーキ』とは何ですの?! あんなにふわふわとした食感……いったいどうやって?!」

おおう? まさかのルシアナも陥落? 遠回しに嫌味の一つでも言ってくるかと思ったら絶賛じゃん。

「特別な材料は使っていないと聞きましたけれど、本当ですの?! フランクール公爵経由で特別な物を入手したのではなくって?」

何、その怪しい感じ。変なものを入れる訳ないでしょ。

「焼き菓子に使用する材料で作りましたの。レシピはお教えできませんが」

「本当に?」

くどいぞ、ルシアナ!

「ええ。本当に」

なぜに悔しそうな顔?

ソフィアママまで、「レシピはどうしても教えていただけないのかしら?」と茶目っけたっぷりに聞いてくる始末。

「お母様。『ショートケーキ』はここの目玉商品なのですって。しかも宿泊しないと食べられないそうです。そうなるともう泊まるしかないわね。よく考えたものだわ。次の予約をしておきたいくらいよ」

ソフィアは母親に再訪をおねだりしてくれている。

「それに今朝食べた『ホットサンド』も美味しかったわ! あれも面白いわよね。可愛い焼き目を付けようなんて、よく思いついたわね、マルティーヌ!」

「本当にマルティーヌちゃんはすごいわ。それに『ケチャップ』! あの調味料もマルティーヌちゃんが開発したんですってね」

「私が開発したなんて大袈裟ですわ。うちの料理人の努力の賜物ですもの」

「あっ。そういえばお土産にケチャップを少しだけ持って帰れるって聞いたんだったわ」

「はい。昨日ご紹介した観光案内所で販売している物になります。今日は私から皆様へのお土産としてご用意しております」

「まあ!」

レストランの従業員が二組分のお土産セットを持ってきてくれた。

中身はケチャップと焼き菓子だ。その中に、成形魔法で作ったスライサーで作った『ポテトチップス』が入っている。

「ケチャップとは別にもう一つ瓶が入っているのですが、そちらのお菓子はパリッとした食感が楽しめる『ポテトチップス』という少々変わった焼き菓子になります。時間の経過と共に食感が失われますので、できるだけ早めにお召し上がりください」

四人が一斉に、その瞳をくわっと見開いた。

え? 何? そんなにわかりやすい人たちだっけ?

まあ期待を裏切らない自信があるけどね!

「きっとご満足いただけると思います」

二台の馬車を見送ると、どっと疲れが出てきた。

「マルティーヌ様。レストランは今日一日休業ですし、中でお茶を召し上がってはいかがでしょうか」

サンキュー、ローラ。

「そうね。『ポテトチップス』も残っていたら食べたいわ」

「かしこまりました」

ポテチは揚げたてを渡したいからと、朝食後に作ってもらったのだ。

絶対に残っているよね?

作る度に試食していた私が見送りに来ることは知っているはずだから、絶対に多めに作っているよね?

心配いらなかった。

レストランに入ると、ほとんど待たされることなくお茶が運ばれてきた。

ちゃんと私の分のポテチがあった。ふふん。