軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

164 足裏マッサージ②

「ええと。さすがにいきなりで訳がわからないわよね。あのね、書物で読んだことがあるのだけれど、足を温めると血流がよくなって体全体が温まるらしいの。なんでも、足の裏を揉むことで内臓の働きがよくなるらしいわ。誰かに優しくマッサージされるだけで気持ちが落ち着く効果が期待できるのですって。だからお客様へのちょっとしたサービスとして取り入れてみたいの」

誰も何も言わない……。

でも、くどくどと喋っていてもお湯が冷めていくばかり……。

ええいっ!

「ローラ。悪いけれど実験台になってちょうだい。私の言うマッサージを受けてお客様が喜ばれるかどうか試してみたいの」

最初に出迎えてくれた従業員二人もお湯を持って来てくれた従業員も全員女性。だから、今、この部屋には私も含めて女性しかいない。

「慣れないことだし、恥ずかしいのはわかるけれど、率直な意見を聞かせてほしいの。それに、これは希望される方だけに提供するサービスだから、もしかしたらそれほど望まれないかもしれないし。でもまずはどういったものなのか、接客する側が説明できないといけないから、今いる三人にはしっかり覚えてもらって、後で従業員同士で互いにマッサージしあってもらうつもりよ」

私の意思が固いことを理解したローラは諦めたようで、椅子に座って靴を脱ぎ始めた。

よしよし。

「まずは裸足になって盥のお湯に足をつけてね」

「はい」

観念したローラがチャポンと両足を揃えてお湯の中に入れる。

「四、五分つけておくとあったまると思うの。ええと五分と言うのは――この大きなポットいっぱいのお湯を沸かす時間くらいかしら」

まあぶっちゃけ二分でも三分でもいいと思う。

「…………あ」

ローラの強張っていた表情がようやくほぐれた。あったまってきたんだね。

「今日のところは五分経ったことにしてマッサージをやってみましょう。ええと、じゃあ、あなた。私の言う通りにやってみて」

とりあえず一番近くにいた従業員を指名する。

「お客様の正面に膝をついて中腰になって――そうね。袖が濡れないように捲ってね。そうそう。じゃあ、あなたの手を盥に付けて手のひらを開いて少しそのまま温めて――くれぐれも冷たい手でお客様の足を触らないようにね」

ものすごく真剣な表情だけど、まあ表情は最後でいいか。まずはマッサージね。

「では右足からいきましょうか。あなたの左手の手のひらの上に足を乗せて、あ、お湯から出ないように気をつけてね。できるだけお湯の中でやってね。じゃあ、くるぶしの周りを親指で優しくなぞってみて。そうそう。ゆっくりね。手を換えて内側と外側の両方よ。五、六回くらいでいいわ。次は手を踵の奥に持っていって、アキレス腱をそっと挟むようにして上下になぞってちょうだい」

すごい。私のイメージ通りだ。

「とっても上手よ。力は入れなくてもいいから優しくさするようにね。ローラ、もし痛かったらすぐに言ってね」

「はい。あの――とても気持ちいいです」

「そうでしょう! ふふふ。じゃあ、次はかかとね。かかと全体を指の裏でつまんでみて、ええと。こんな感じで」

さすがにわからなかったみたいなので、エアーマッサージをしてみせる。

「いい感じね。じゃあいったん手を離して、右手をぎゅっと握ってちょうだい。そう。人差し指の出っ張ったところで、今度は足の裏をかかとから指先までぎゅーっと擦るように往復して、そうそう。ここは少しだけ力を入れてみて」

この加減は互いにやってみてもらうしかないんだけど。

「ローラ。我慢しないで痛かったら言ってね」

「はい。今のところ全く痛くないです」

「あまりぐりぐりやると痛がる方がいるので、マッサージに慣れていない方には優しくね。何度もサービスを受けられた常連になれば、もう少し力を入れてほしいと言われるかもしれないわ」

私がそうだった。

「はい。じゃあ最後は指の付け根をつまんで小さく揺らしてみて。こんな感じで。足指の間に手を入れるだけでもマッサージになるから、揺らさなくてもいいかもね。はい。そこまで。同じように左足をやったら、片足ずつ丁寧に拭いておしまいよ」

されるがままに足を拭かれているローラは初めての体験にパチパチと瞬きするだけで、押し黙っている。

あれ……?

「ええと……ローラ? 無理強いしちゃったかな? その……ごめんなさいね……もっとちゃんと説明してあなたの意思を確認するべきだったわ。喜んでもらえるかも……って……」

「……でした」

え? 何? 何?

「すごく気持ちよかったです」

「本当?」

「はい。このように誰かに丁寧にマッサージ……ですか? そんなことをしていただいた経験がないので。初めてのことで戸惑いはしましたが、マルティーヌ様のおっしゃるようにお客様に喜んでいただけると思います」

やっぱり?

平民って、私たち貴族と違って、誰かに体を洗ってもらったりしないもんね。

人に優しくマッサージされるだけで、体だけでなく気持ちも一緒にほぐれるよねぇ。

「よかったわ。じゃあ、あなたたちはお部屋にお湯を運ぶところから練習しておいてね。あ、そうそう。マッサージが終わったらお茶をお持ちしてね。隣でハーブティーのブレンドを体験された方ならそのお茶をお入れしてもいいでしょうし」

「はい。ご教示いただきました内容を皆で習得いたします」

三人の従業員の中で、一番背の高い女性が代表して答えてくれた。

「ちゃんと勤務時間の中で予定を組んでね?」

「はい。もちろんです」

定時上がりの癖をつけようね。まあ、それはさておき。

オーベルジュに関しては、これで当初の構想通りのメニューが揃ったね。

宿泊の受け入れも大丈夫みたいだし、本格稼働まであと少しだ!