軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

129 春の大運動会④

屋敷に戻ると、パトリックにつかまった。

朝食で顔を合わせたときに、「九時前に部屋に呼びに行く」って言ったよね?

なんでエントランスホールでプラプラしてんの?

「あっ、マルティーヌ! 一人だけ抜け駆けして見てきたんだね? ずるいなー」

は? 何を子どもみたいなこと言ってんの。

「私は主催者ですから、全て滞りなく運んでいるのか確認する責任がありますので」

「そんなこと言って。本当は待ちきれないだけだろ?」

図星だけど。認めないもんね。

「コホン。それよりも。本当にお一人で大丈夫だったのですか? お知り合いの絵師の方の旅費も負担すると申し上げましたのに」

さすがにド素人の、しかも年端もいかない子どもに、アシスタント無しで一人で教えるのって無理だと思ったから、助っ人の紹介をお願いしたのに。

「大丈夫だよ。絵心のある子どもを選べばいいんだよね? 天才なら誰に教わらなくとも絵が描けるはずだけど、まあ今日のところは、目で見た物を正しく描き写した子を選ぶつもりだよ。鉛筆の使い方も絵心がある子なら、自分で最適な使い方を見つけられるからね」

へぇー。そういうものなの?

「そうなのですね? それでは大変恐れ多いですが、よろしくお願いします」

そうだった。公爵からはパトリックのことを一番きつく叱られたんだよね。

「公爵家のおぼっちゃまに平民の子どもの相手をさせるとは何事だっ!」みたいなことを延々と言われた。

さすがに前世に引っ張られ過ぎて、今世の常識を忘れていた。反省。反省。

「マルティーヌ様。その。皆様お揃いでございます」

え?

レイモンが申し訳なさそうに口を挟んだので振り返ると、来賓たちが揃っていた。

もしかして……みんなも待ちきれなかった?

「マルティーヌ様。何やら楽しそうな声が聞こえてきましたので、つい時間前に来てしまいましたわ」

「サッシュバル夫人。皆様も。申し訳ございません。これではゆっくりお過ごしいただけませんね」

確かに、子どもたちのキャッキャという声がよーく聞こえる。

「じきに九時になるだろう。こうして揃ったのだから始めてもよいのではないか?」

「リュドビク様。そう言っていただけると助かります。それではお席にご案内いたします」

レイモンにチラリと視線をやると、彼は軽く会釈をしてからエントランスへ向かった。

「公爵様ご一行のおなーりー」っていう呼び込みをしてもらう必要があるからね。

ドニもいつの間にかエントランスに来ていた。

さすが来賓の接待係。抜かりないね。

わかりやすく静かになったので、私を先頭に公爵、パトリック、ジュリアンさん、サッシュバル夫人の順で外に出た。

ギヨームが夫人の後ろにくっついて来るけど、まあ仕方がない。きっとドニが公爵の後ろに椅子でも用意するだろう。

運動会の会場となった訓練場へ行くと、全員が立って拍手をして出迎えてくれた。よしよし。

私はそのまま司会者席に残り、公爵たちはウッドデッキのテーブルに着いた。

マイクがないので、私が大きな声で開会を宣言する。一応公爵に開会宣言をお願いしてみたけど「君の好きにすればよい」と投げやりな感じで断られた。

「皆さん。今日は集まってくれてありがとう。世話係の方から色々と難しいお話をされたかもしれませんが、少しだけお行儀よくしてくれればよいのです。面白い催しをたくさん企画していますので、楽しみながら参加してもらえると嬉しいです。見てわかるように、普段は会えない集落の人たちが一堂に会しています。よい機会ですから、たくさんお友達を作ってくださいね」

ニコッと微笑みかけると、「わー!」っとか、「きゃー」とか、何を言っているのかよく聞き取れない歓声が上がった。

てっきり、全員が声を合わせて、「はーい」と返してくれるとばかり思っていた。

そうか。保育園とか幼稚園に通った経験がないから、コールアンドレスポンスが出来ないんだ。

残念。

「コホン。それでは来賓の皆様をご紹介します。まず、中央においでの方が私の後見人を務めてくださっているリュドビク・フランクール公爵です。収穫祭にもお越しいただいたので、お顔を知っている人もいるでしょう。そしてその右隣にいらっしゃるのが絵師のパトリック卿です。フランクール公爵の左隣の方は薬師のジュリアン卿です。ジュリアン卿のお隣にいらっしゃるのが私の家庭教師のサッシュバル夫人です」

小さい子は、そろそろ飽きてくる頃かな。この辺にしておいた方がよさそうだな。

来賓席にお菓子とお茶が並んだようなので頃合いだろう。

「はい。皆さん席に着いてください。さっそく最初の催しを始めるとしましょう。これから皆さんに紙と鉛筆を配ります。そしてテーブルに一つずつ花を置いていきますが触らないでくださいね」

使用人たちが総出で各テーブルに必要な物を配布していく。

子どもたちは興味津々といった様子で自分の前に置かれた紙や鉛筆を見ている。

そうだよね。紙や鉛筆を触ったことのない子もいるかもしれない。どっちも高級文具だもんね。

いや紙は文具じゃなく貴重品か。

配布し終えた使用人たちが最後列に整列した。どれどれ? 行き渡ったかな?

「これから皆さんには絵を描いてもらいます」