軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122 そんな口の塞ぎ方ってあり?

「母上ならば心配不要だ」

ですよねー。

と安心した直後、公爵から痛いところを突かれた。

「さっきのは何だ? 何かあったのか?」

「あ、いえ。緊張してしまい、少し眩暈がしたもので……」

嘘だけど。脱げた靴を足で引き寄せていたなんて言えない。

「そうか。今は大丈夫なのか?」

「はい。王族方が見えなくなると治りました」

「では今のうちに何か飲むといい。挨拶が終わるとバーカウンターが混み合うからな」

「はい」

「温かいものの方がいいだろう」と、公爵が紅茶を頼んでくれた。彼も私に付き合って紅茶を飲むらしい。

給仕からティーカップを受け取って一口飲むと、喉が渇いていたんだと気がついた。

緊張していたし、さっきのやり取りでエネルギーを消費したからね。

しばらく黙ったままチビチビ紅茶を飲んでいたら、徐々に周りに人が集まってきた。

順調に挨拶が終わっているらしい。

「母上ではないが、少しくらいなら菓子をつまんでもいい」

え?

公爵はそう言うと、軽食や菓子が並んでいるビュッフェ台の方へ向かった。

あれ? 欲しくなっちゃった? 私にかこつけて自分が食べる気だな。

ビュッフェ台の周囲にも人が大勢いる。ちゃんと『微笑』をセットしていることを意識しつつ公爵について行く。

…………おぉぉ!

女性たちのうっとりとした視線が公爵に降り注いでいる!

歩く公爵を女性たちの視線が追いかけている!

うわぁー。すごいなー。今更だけど公爵はものすごいイケメンだもんねー。

そんな公爵のファン(?)たちを押し除けるようにして一人の男性がこっちに歩いて来る。

ん? もしや狙いは私たち?

「ローリーボー伯爵だ。頭に入っているな?」

頭上から公爵の小声が聞こえた。

あっ! あの童顔はロリ坊やだ!

「あ、はい」

「君はその調子で黙っていれば問題ない。話しかけられるかもしれないが、極力黙っているように」

「はい」

私は近づいて来るローリーボー伯爵と目が合わないように、手元のティーカップに視線を落としていた。

でも視界の隅には入るから、真ん前で立ち止まった伯爵に気がつかないふりはできない。

おそるおそる顔を上げると、伯爵はまず高位の公爵に挨拶した。

「フランクール公爵。お久しぶりですな。貴殿は新年祝賀パーティーだけは欠かさず出席なさるので、ほら、この通り、ご婦人方の出席率が異常に高まっておりますよ。ご令嬢もデビューした暁にはこのパーティーに参加できるとあって、近年デビュタントの低年齢化が激しいそうではないですか」

「随分と面白い噂話を聞かれたのですね」

へぇー。ミーハーな令嬢は、公爵に会いたいがために早々にデビューして、このパーティーに参加するんだ……。

「ははは。まあそれだけ貴殿は噂の的ということでしょうなあ。おや、そちらのご令嬢は――」

何かわざとらしい気がつき方だけど、そういうものなの?

「ええ。私が後見人を務めておりますモンテンセン伯爵です。デビュー前の未成年ですが、家督を継いだので国王陛下に挨拶をと思いまして」

「ほう……」

ちょっと。そんなにジロジロ見ないでください。私の『微笑』が揺らぐので!

「確か十二歳とお聞きしましたが、この秋に王立学園に入学されるのでしょうか?」

「ええ」

「おおっ! ではうちの次男と同学年になるわけですな。どうでしょう、同じ伯爵家同士、今後も懇意にさせていただきたいですなあ」

ロリ坊やの坊やか。やっぱり童顔なのかな。

「モンテンセン伯爵。学園入学前にぜひ我が領地に遊びにいらしてください。他にも数人招きますので、入学前に同学年の友人を作っておかれてはいかがかな? 茶会などという堅苦しい場にするつもりはないので、どうか気軽に――」

急にローリーボー伯爵にロックオンされて熱いお誘いを受けてしまった。

同い年の友人を作るという提案は惹かれるけど、検討する間もなく公爵がバッサリ会話を断ち切った。

「ありがたいお誘いですが、モンテンセン伯爵の社交には後見人の私が常に同行することにしておるのです。あいにくと私は忙しい身でして、そうそう簡単にどこかに出かけたりはできないのです」

「さ、さようですか……」

おいおい! よく言うよ。しょっちゅう出かけてるじゃん。月に何回うちに来てる?

「で、では、私どもがモンテンセン伯爵領にお邪魔するというのは――」

「私は 社(・) 交(・) と言ったのです。場所がどこかは関係ありません」

今、絶対、公爵の顔は無機物と化している……。感情の無い顔から鋭いビームを発射しているに違いない……。

「も、申し訳ありません。それでは学園入学後に、我が愚息もモンテンセン伯爵の知己を得られましたら幸いです。ああ、お詫びに我が領地の特産であるフルーツなどをお送りしたいと思いますが――」

フルーツ! 欲しい! めっちゃ欲しい!

「では――」

うぐっ! うぐぐぐぐ。

「ありがたく頂戴します」と言いたくて口を開いた途端、公爵に何かを口に突っ込まれた。

喋ろうと思ったタイミングで固形物を口の中へ押し込められたら息ができないよ!

あっぶな。そのままうっかり飲み込みそうになったじゃないの!

舌からの情報で甘いクッキーとわかったから、目を白黒させることなく、口をモゾモゾ動かして咀嚼することができた。

死ぬかと思った。もうっ!

クッキーに口の中の水分を全部持っていかれたから、カラカラになってしまった。

……あれ? 周囲から若干くぐもったような、でも確かに「キャー」っていう悲鳴が聞こえた気がするんですけど? 何事?

それにしても、ちょっと、公爵!

大口開けて、クッキーを割ることなく丸々一枚口に入れるなんて、お上品とはかけ離れた行為なのでは?

私の評判は大丈夫なの?

つい非難めいた視線を公爵にやったら、逆にギロリと睨まれた。

あ、圧が、公爵の圧がすごい。

なんだかヤバそうだぞと察したのか、ローリーボー伯爵は「何も見ていませんから」という顔でそっとこの場を離れて行った。

やっと、ごっくんと飲み込めたので、「紅茶が欲しい」と訴えようとしたら、誰かが先に公爵に話しかけた。