軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114 【リュドビク視点】母上とマルティーヌ嬢

国王陛下から、王宮で毎年開催される新年祝賀パーティーにマルティーヌ嬢を連れてくるようにと言われたときは、さすがに閉口してしまった。

「領主なのだから」という理由は屁理屈にしか聞こえない。正式に私が後見人として立ったというのに。どうせ王妃陛下の意向なのだろう。

サッシュバル夫人のお陰でマルティーヌ嬢の学習は順調に進んでいたが、考えていることがすぐに顔に出る癖はなかなか直らなかった。

仕方がないので、王都で評判の教師に付け焼き刃のマナー講習を依頼することにしたのだが、そうなると今度は別の心配をしなければならなくなった。

私には魔女にしか見えない母上――前フランクール公爵夫人は、男女問わず、いまだに多くの崇拝者を抱えている。

地位と金と人望があれば、ままならないことなどない。そのためか、母上は他人を振り回して楽しんでいるように見えることがある。

本人は否定するに決まっているので、あえて指摘したことはないが。

マルティーヌ嬢を半ば強制的に連れてきた手前、母上におもちゃにされないよう気をつけていたつもりだが、力及ばず、彼女の毒牙にかかってしまった。

母上は隙あらばマルティーヌ嬢を捕まえて遊んでいた。

いや、果たしてその解釈で合っているのだろうか? マルティーヌ嬢のあの顔は逆に面白がっていたようにも見えた……。

「おや、珍しいですね。リュドビク様がため息をつかれているなんて。マルティーヌ様なら無事に特訓を終えられ、それなりの成果を収められたのでは?」

「まあ、そうだが」

「アレ? もしかして……? マルティーヌ様が今の純朴さを失って、その辺の令嬢と同じようになっていく様を憂いているとか?」

「何を言っているのだ。その辺の令嬢並になっているなら心配はない。だいたい幼いからといって純朴とは限らないだろう。最初に会ったときから彼女を純朴だと思ったことはない。今だって、必要なとき以外は相変わらず感情が表に出ている。それなのに自分では完璧に制御できるようになったと悦に 入(い) っているようで先が思いやれられる」

「あっはっはっ。そうですね。確かにおっしゃる通りですね。いやあ、マルティーヌ様は本当に面白いなー」

「全くもって笑えない」

「まだ心配を? ああ、ダンスの方ですか? 出発前にダンスも一曲踊られていたではありませんか。いやあ、あれには私も驚かされました。ちゃんと人並みに踊れるようになっていましたねー」

表情の件はさておき、一番の悩みの種だったダンスは、まあ合格点をやってもよいと思えるところまで到達していた。

マルティーヌ嬢はデビュー前の未成年なので、新年祝賀パーティーでは私がエスコートしダンス相手を務めることになる。

そのため、私が彼女に合わせて一曲踊り切れば問題はない。

夜会の女王だった母上が合格と認めたのなら心配はないと思ったが、念のためマルティーヌ嬢の 出(・) 来(・) を確かめて驚いた。

私のリードに難なくついてきた。相当練習したのだろうが、ダンス中の貼り付けた笑顔の奥に、「どうだ」と言わんばかりの自信をのぞかせていた。

素の彼女を知っている私だから気がついただけかもしれないが、やはり心配だ。

「それにしても王妃陛下がそこまでマルティーヌ様に会いたいと思われるのはどうしてなんでしょうね? パトリック様の絵では満足されなかったのでしょうか?」

伯父上の姿絵か……。

美人に描こうが不美人に描こうが、やはり実物を見るまで納得できないのだろうな。

あとはマルティーヌ嬢が王妃陛下の琴線に触れないことを祈るしかない。

凡庸な少女として、取り繕った顔で挨拶さえしてくれればよいのだが。

「そうらしい。本人に会って食指が動かないことがわかれば忘れてくださるだろう」

「うーん。あのマルティーヌ様ですからねー。この私ですら食指が動きましたよ?」

「お前が変わり者という面もあるがな。だが確かに注意は必要だ」

パーティーを乗り切るのに、表情の作り方とダンスだけでよかったのだろうか。何か見落としているような気がしてならない。この不安はいったいどこから来るのだろう?

……わかった。あのマルティーヌ嬢のニマニマした顔のせいだ。人目を気にしない時の緊張感のないあの顔。

確かに私の求める水準には達していたが、持続力は大丈夫なのか? 王族への挨拶とダンスが終わればパーティーを抜けるつもりだが、それまで持つのだろうか。

あの王妃陛下と母上が顔を合わせることを考えただけでも頭痛がするというのに。

いや――マルティーヌ嬢を連れていることで、いい具合に王妃陛下の興味を散らせて、いつもの二人のピリピリしたやりとりが始まらないかもしれない。

「王妃陛下と母上がやり合う前に挨拶を済ませて下がれば何とかなるだろう」

「うわあ。そういえばそうでしたね。ダルシー様はへりくだった物言いをしてもなぜか尊大に見えるお方ですからねー。何も知らないマルティーヌ様は幸せですね」

「ああ」

こうしてあれこれと思い悩んだところでどうなるわけでもない。

「マルティーヌ嬢はアドリブで喋りだすとボロが出るだろうから、とにかく余計なことは言わないように言い聞かせておくことにする」

年が明けてマルティーヌ嬢に会ったときは、注意事項をよくよく彼女の頭に叩き込むとしよう。