軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103 強化合宿①

昨夜は歓迎の晩餐とかがあるのかなぁとビクビクしていたけれど、ここでの暮らしに慣れるまでは食事は一人で取っていいと言われた。

公爵とダルシーさんとの卓に同席しなくてよいと伝えられたのだ。

ふぅ。助かった。

「テーブルマナーを覚えるまでは同じテーブルには着けないのですよ」と、何も知らない子ども扱いをされたようにも感じられたけど、全然オッケー。

プライドなんかより、楽なのが一番だもんねー。

ダルシーさんは私と喋りたそうにしていたけど、マナーを気にしながらだと無理だと考えてくれたのかな?

田舎貴族の、しかも本来ならば幼少の頃からみっちり仕込まれているはずの礼儀作法を未習得の幼い女伯爵に同情したのかもしれない。

いや、単に「お楽しみは後で」と考えたのか……。

まあとにかく、昨夜はいくつあるのかわからないダイニングルームの一室でのんびり夕食を取った後、与えられた部屋に戻り、ひとまずローラと慰め合って少しだけくつろいで過ごすことができた。

朝食後も同じように部屋に戻り、そろそろ誰かしら呼びに来るかなぁと身構えていたら、公爵ではなくダルシーさんの使いの人がやって来た。

ただ「付いてくるように」とだけ言われたので、そのまま付いて行くと、ダルシーさんの私室に案内された。

そこは画像でしか見たことのない五つ星の高級ホテルのロビーと言ってもいいくらいの広さとゴージャスさを兼ね備えた部屋だった。

落ち着いたシックな色で統一されているけれど、何気に金の装飾が施されていたりするから高価な物しかないのは一目瞭然。

ローラは目をバッキバキにして、部屋の壁の前に立った。まあすぐ隣に夫人の侍女らしき女性が二人も立っているから無理もない。

ダルシーさんは三人掛けのソファーの真ん中に優雅に座っていて、私はその真ん前に立たされた。ひぇぇっ。

今はそんな、脇汗が止まらない状況。

そして、互いに簡単な挨拶をした後、いきなりこう言われた。

「さあ、マルティーヌ。『ダルシー』って呼んでちょうだい」

「……! は、はい。だ、ダルシー様」

「あらあら。固いわね。さ、もう一度呼んでちょうだい」

「はい。ダルシー様」

ちゃんと噛まずに笑顔で言えたと思うんだけど、ダルシーさんは、「うーん」と悩ましげな表情をしている。

「ねえ、マルティーヌ。リュドビクが後見人ということは、フランクール公爵家がそのままあなたのバックについたということなのよ? つまり私はあなたの母親代わりのようなものよ?」

……え? さすがに違うのでは?

「だから、もっと親しみを込めて呼んでほしいの。ほら、『お母様』という感じで呼んでみて」

「はい」

どう呼べば満足してくれるのかな? ふぅー。

「ダルシー様」

「それじゃあ駄目よ」

え? 何なの? それにしてもこのやりとり……。何だか覚えがあるんだけど。

『さ、呼んで!』

あー、パトリックのときと一緒だ。そういやダルシーさんはパトリックの妹さんだったっけ。

はぁぁ、もう似た者兄妹め……。

「リュドビクには相当慣れた感じだったのに。私にも同じように気安く接してくれていいのよ?」

「はい」

軽く頬に手を当てて悩まし気にため息をつくダルシーさんは、もう、それだけで絵になる。

とても大きな子どもがいるようには見えない。

「まあ、そのうち慣れるわね。それにしてもマルティーヌって本当に小さくて可愛いのね」

「可愛いのね」の「ね」を言うときに、ダルシーさんがほんのちょっと目を細めた。

もう、それだけでズキュン! とハートを撃ち抜かれてしまった。きっと男性ならひとたまりもないね。

「あら? 何をそんなに驚いているの? もしかして今まで『可愛い』と言われたことがないの? だとすれば、それは大問題よ。リュドビクを後で叱っておくわ」

え? えぇっ?

「あの。リュドビク様には褒めていただいたことがございます」

確か、収穫祭のときにそれらしきことを言われた覚えがある。

「あら、そうなの? じゃあこれからはもっと慣れないといけないわね。褒められたら、ほんの少し顔を傾けてから、ゆっくりと視線を向ければいいのよ」

え? 流し目テク?

それって、男性を籠絡するテクニックなんじゃ……私、いったい何を教わるの?

初っ端の授業がそれなの?

「もしもお相手が上位貴族の場合、そ、そのようなことをして不敬にはならないのでしょうか?」

「まあっ。うふふふ。そうね……社交界では、殿方よりもご婦人の方が目ざとくて、やっかみを言ってくることがあるわね。でも、そういうときは、『あまりに気恥ずかしくて目が泳いでしまっただけですのに。私の無作法がそのように映っていたとは驚きですわ』とでも言っておけばいいのよ」

それっ、悪役令嬢の敵役のピンク頭の性悪聖女が言うやつ!

あっ! そういえば、サッシュバル夫人が不穏なことを言っていなかった? 学園に君臨していたとかいないとか。

もしや……私もそうなることを期待されているの?

気合を入れ直そうと思ったところへ、気忙しいノック音が聞こえた。

ダルシーさんと揃ってドアの方を見たら、ムスッとした公爵が入ってきた。

「母上。何をなさっておいでなのです?」

サンキュー! 公爵! 助かったよ。もうほとんど絡まれていただけだから。

あ、お前もいるのかギヨーム。このニヤニヤ男め――と思って見たけどニヤニヤしていない。あれ?

「マルティーヌ嬢の学習については私に一任してくださるとおっしゃっていたではありませんか」

「あら。少しお話をしていただけじゃない」

「何が少しですか。私よりも早くマルティーヌ嬢を捕まえようと動かれていたことくらい知っているのですよ」

「まあ、随分ね。でもそれじゃあ、今日からマルティーヌの教育を始めるのね?」

「ええ、もちろん。スケジュールはみっちり組んでありますから」

あー、そういえば公爵はカリキュラムをきっちり作る人だった……。それはそれで頭が痛い。