軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48話

「そもそもマンドラゴラの根に触れて、何故魔力を吸われるのかは知ってる?」

「え? それって元々そういう仕組みというか、種族なのでは」

「確かにそうなんだけど、これは絶対じゃない。マンドラゴラ側の魔力が強いとそちらに引き寄せられるだけで、その差が逆転してしまえば吸われることはなくなる」

非常に興味深い講義が始まったため、花籠を抜け出してちゃんと聞きに行こうとしていたところ、私に気づいたレオハルトが外に出してくれた。

その後床に降ろしてくれたので、ぺこりと頭を下げておく。子株の愛らしいイメージを守るため、私も愛想をよくしておかなくてはいけない。魔物講義を受けるなら対面にちょこんと座っているのがかわいいはずだし、リッターの隣にでも並ぼうとニコラウスの横を通り過ぎた時だった。

「例えば僕であれば、このマンドラゴラを触ったところでなんともない」

(ンギャァアアアアーーーー!!??)

足元の私をむんずと掴んで持ち上げたニコラウスは、子株の布の隙間から手を突っ込んできた。あまりの出来事に大絶叫した私だが、蓋があるため声は出ない。

ニコラウスを吸ったら人殺しになると慌てて暴れたものの、茎を持ち上げてぶら下がっただけの状態では短い手足がバタバタとむなしい抵抗をするだけである。

「何をなさってるんですか!」

「っ……」

飛んできたレオハルトに勢いよく腕をつかまれたニコラウスは、軽く顔をしかめながらパッと子株を離した。当然、私は重力に従って落下するし中では「アアアアア!?」と叫んでいた訳だが、地面に落ちる前にレオハルトによって確保され、しっかり抱えられたので無事に済んだ。

(こ、こわああ……! 良かった全然吸ってないね……)

私が同期していることで、子株の魔力にも変化があり、私よりは魔力の少ないニコラウスを吸ったらどうしようかと心配したがそれは杞憂に終わったようだ。なるほど、マンドラゴラの吸引力は本当に魔力の差らしい。……まあ、死亡事故が起きなかったのはよかったのだが。

(でも怖すぎてちょっと……漏らしちゃった……)

なお、マンドラゴラには人間と同じ排泄機能があるわけではないので、私が漏らしたのはマンドラゴラの汁であり、出たのは目の穴である。人間からすれば泣いているように見えるだろう。……実際はビビりまくったせいでちびったという情けない状態だが。

(たまにこうなってるの見るけど子株の体は容量が少ないからすぐ出ちゃうってことか……)

漏らしたとはいえ出るのはほんの少し回復効果のあるマンドラゴラの汁だ。汚いものではないので許してほしい。

「馬鹿力で掴むなよ……まったく……」

「あ……申し訳ございません。魔女殿の大事なものでしたので、慌てて力の加減を誤りました……魔導士殿、お怪我は……?」

「……これくらいなんともない」

ニコラウスはしかめっ面で掴まれた腕を軽く擦っており、私を抱えるレオハルトは片目を隠していても分かるほど非常に申し訳なさそうな顔をしていた。泣きながら暴れる私を助けようとして慌てるあまりに強く腕を掴みすぎたらしい。

「魔導士殿、ちょっと腕を見せてください。レオハルトは騎士の中でも膂力ありますし、さっきのは結構強かったですよ。騎士同士ならともかく、魔族は人族より体強くないですし」

「……おい、さりげなく僕を貧弱扱いするな。お前たちが鍛えすぎなだけで一般人とは変わらない。魔族は魔力が増えやすい分筋肉が付きにくいだけ、分かった?」

「分かりましたから、腕を見せてくださいって」

不満そうな顔をしたニコラウスが袖をたくし上げると、日に焼けていない白い肌にくっきりと赤い手形が残っていた。それを見て本人も少し驚いたのか片眉を上げていたし、リッターも「あー」と小さく声を上げている。……これは痛かったに違いない。

「骨にヒビでも入ってるんじゃと思ってましたけど……一応大丈夫そうですね」

「だからそこまで 軟(やわ) じゃないと言ってるだろ」

「いや、レオハルトは本当に力強いんですよ。咄嗟とはいえそれなりに加減はできてたか……」

「それでも跡が残るほど強く掴むつもりはありませんでした。……自分の未熟さを非常に申し訳なく思います」

先ほどまで険悪だった空気が今度は沈み始めた。レオハルトが心底申し訳なさそうにしており、ニコラウスは仏頂面だ。リッターの肩に紫株が乗った奇妙な光景があっても打破できない空気感である。

(あの赤い部分を治したらちょっとはマシな空気にならないかな……あ、そうだ)

私はレオハルトの腕をちょんちょんとつついて、こちらを見た彼と目が合った後、ニコラウスの方へと手を伸ばした。二人とも私の意図がわからないのか、それぞれ困惑気味の様子を見せている。

「魔導士殿に不満がある、とかでしょうか」

「いや、これ多分そっちに近づけてほしいんだと思うぞ。俺の紫ちゃんもよくやる」

その助言でレオハルトは私をそっと差し出すようにニコラウスへと近づけ、赤くなっている部分が手が届く距離までやってきた。私は自分の目元を拭い、なんならちょっと目の空洞に手を突っ込んで、先ほど漏らした汁の残りを手先の布に染み込ませる。そしてマンドラゴラの汁で濡れた手を、赤い跡にぺちぺちと塗り込んでおいた。

「……これは何をしているんですか?」

「……たぶん、治療かな。マンドラゴラの汁には少しだけ回復効果がある。……ほら、赤みが引いただろ」

「ああ……本当ですね。……よかった。しかし、本当に申し訳ございません」

「別に、僕もお前を責める気はない。このマンドラゴラがここまで意思が強くて嫌がるとも思ってなかったし……お前が驚いて手を出したのも分かる」

とりあえず二人の和解にはなったようだ。私がこの結果に満足していると、ニコラウスがこちらをじっと見つめているのに気づく。……なんだろう、あんまり見つめられると怖いのだけれど。

「このマンドラゴラ、あの魔女によく似てるな」

――それは、もしかして私が緑株の中に居るのがバレてる……ってコト……!?