軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42話

「その鳥……今の鳴き声は……悲鳴鳥、ですね。人間の声を真似して喋るんです」

(あ、そうなんだ。なんだ良かった、人間の言葉が分かるわけじゃないんだ)

ノエルは私の指示通りこちらには近づかないまま、後ろから声をかけてきた。彼の説明によるとこの鳥は獲物の真似をしておびき寄せるタイプの魔物らしい。どうやら魔物に転生した人間ではなかったようで、そこは安心した。

この鳥は「助けて」とか「お母さん」とか、そのような言葉を発して人間をおびき寄せ、危険な場所に誘いこむ。他の魔物などに襲わせ、死肉をあさるそうだ。

(なんて害悪! 人間の真似をして油断を誘うなんて怖い!)

そんな鳥が何故、人間の村で畑を荒らすような真似をしていたのかは知らないが。……放っておいたら畑の被害に遭った人間が、村の外の魔物の元までおびき出されて殺されていたのかもしれない。そうならなくて良かった、村人を守れなければ魔女の存在意義が疑われる。私は出来る限り平和に暮らしたいのだ。

(私の平穏を脅かそうとしたわけだね、この鳥は……)

人の真似をして、知能が高く、呪いにも毒にも耐性があるような魔物だ。私のように善良ならともかく、普通の魔物は危険だし排除するべきだろう。

(じゃあどうやって食べようかな?)

せっかく捕まえた獲物だ、どのように調理するべきか。ノエルに食べさせて問題がないのか、問題がありそうなら私が吸ってしまおうと考えている間、鳥は動けぬまま「タスケテェ!」と何度も悲鳴を上げていた。

しかし所詮人間の鳴き真似、相手は魔物である。その程度で獲物認定から外れられるはずがない。

「なんだか可哀想……」

「でも、魔物だし危ないぞ」

「……そうだよね……」

――と、思っていたらエリーがこの鳥に同情し始めてしまった。まだ幼い子だし、感情を優先させてしまうところがあるのは仕方がない。こういう人間を騙すために人語を真似する能力があるのだ。

同情する必要はないと伝えようと振り返ったら彼女はとても悲しそうな顔をしており、その目の前で鳥を〆るのは善良な魔女らしくない行いに思えてきた。

(うーん優しい魔女ならしないかも。見てなかったら殺るけどなぁ……)

人目があれば、魔物だと疑われないためにも善人の魔女としての行動をとるべきだ。もう一度鳥を見下ろして、これを無害化する方法を考えた。

(じゃあ、見えないところで始末できるようにしておこうかな。この鳥の体に種を埋め込んで……)

少し前にレオハルトにも似たようなことをしたので要領は分かっている。多様化で作り出し、分身で意識を分けた植物は私の元を離れても私の意思で動くので、この鳥の体にマンドラゴラの種を植えるのだ。

植えられた種は私の意思次第でいつでもこの鳥を栄養源として吸い、育つことができる。呪いも毒も効かずとも、マンドラゴラ一体が育つだけの栄養を吸われれば助かりはしないだろう。エリーの見ていないところで吸わせて、新しいマンドラゴラを作るのもいいかもしれない。

「ヤメテェエエ……!!」

鳥の体に種を寄生させると悲痛な声で鳴き始めた。しかしこれも嫌がっているのではなくただの人間の物真似だろう。……いや、実際に嫌がっているかもしれないが。

しばらくすると鳥が大人しくなり、叫びもしなくなった。その時目の前に『【 僕(しもべ) 】を獲得』という文字が浮かび、びっくりして軽く叫んだ。……ステータス表示の能力のことをすっかり忘れていた。

(しもべ……? ……使い魔みたいなものかな?)

他人のステータスを見るのは【鑑定】というスキルなので私にはできないが、自分や自分に関連するものならそのステータスを表示できる。僕とは一体なんなのか、確認してみた。

【種族】悲鳴鳥(眷属)

【レベル】26

【体力】C

【魔力】B

【スキル】声真似 高知能

【進化ポイント】0

【説明】

強者の魔物の体の一部を埋め込まれ、隷属状態にある悲鳴鳥。命を握る強者の意思に従う従順な僕。

心臓に寄生した分身体を通じて、どこにいても主人の命令が伝わる。周囲に脅威的な存在が確認できずとも安心してはならない。どのような命令が下るかは主人次第。

高い知能を持つよう進化しているため、高度な指示にも従える。主人の意思によっては人を危険な場所へ誘い込み、罠にはめることも可能。助けを求める声を聞いても近寄るべからず。

(怖っ……! なんで説明文がいつも脅し風味なの! ちゃんと人間を攻撃しない、迷惑かけないように命令するよ!)

それで無害化できるのは子株たちで証明済みだ。どうやらマンドラゴラの種を埋め込んだことで眷属化したようなので、声を掛けずとも命令は伝わる。

まさか私の種を植えこむだけで魔物を隷属させるとは思わなかったが、これなら厄介な魔物が現れた時にも使えそうだ。種さえ植えれば命令に従う部下をいくらでも増やせるということである。

(……うん? ……私、レオハルトさんにも種を植えて……ヒィッ!!)

鎧だけでなく、毒に侵されているレオハルトの体にも浄花の根を這わせて吸収させたことを思い出した。

隷属させる条件はどうやらマンドラゴラの種を植えることのようなので、レオハルトの毒の治療をしたのはセーフだったようだ。……別種の種でも可能だったら危ないところだった、全く無自覚にレオハルトを眷属にするかもしれなかったと思うと、思い出し恐怖で悲鳴しかでない。

「あれ……その鳥、大人しくなりました?」

「ほんとだ。……もう危なくない?」

「もしかして、力の差を理解したのかも。頭がいい鳥だったし……魔女さまからあふれ出るオーラが分かったんですよ、きっと」

(え、なんか出てる……? 光合成してるから酸素なら出てるかもしれないけど……)

眷属の悲鳴鳥は大人しく手の中に収まり、もう鳴き声も発していない。私に従って大人しくなっているならと解毒薬を手袋の蔦を通して与えておいた。自由に動けるようになった鳥は、地面に降り立つと何かを咥え、私の元に戻ってくる。

雫型のガラス細工が連なった、何かの飾りのようだ。空を飛ぶ鳥がキラリと光って見えたのはこれのせいらしい。

「わあ、綺麗。鳥さんからのプレゼント?」

「ちゃんと魔女さまに従うつもりがあるみたいですね。……俺の方が先輩だからな」

「じゃあこれはごめんなさいって意味なのかな。……髪飾りだよね?」

「たぶん……でも軸が折れてるからつけられない」

(壊れた髪飾りか……綺麗だけど、これじゃ使えないもんね。捨ててあったのかな?)

それともこの鳥が人から奪って壊したのだろうか。じっと鳥を見つめると「ヒィ!」と悲鳴のような声で応えた。……種族が違うせいか、子株たちのようにその思考がなんとなく分かるということもない。これは「疑わないで」の悲鳴なのか「そうですごめんなさい」の悲鳴なのか、どっちだろう。

「こういうのを売ってるのはクエリさんですよね。そういえば、完成したものが気に入らないとへし折ったり破ったりして捨てるって言ってました」

「ええー! もったいない!」

(それはもったいないね……でも芸術家っぽいなぁ。でもそういうことしそうな人だったな……)

これまで村でこの髪飾りを使っている人間は見たことがないし、市で訪れたデザイナーのクエリの作品だろうと予想はできる。彼女は市を開いている間もデザインをスケッチしたり、何かしら作っていたため、そうして出来上がったものの一つだろう。こんなに綺麗なのに気に食わなかったとは芸術家の感覚は分からないものだ。

(捨てるくらいなら私がリメイクして使っちゃおう。ちょうど装飾品をつけて人間らしくしたいと思ってたところだし……)

軸がなくて使えないなら作ればいいのである。残っている短い軸から蔦を伸ばして棒状にしたうえで頭に挿した。なお、髪に当たる部分は蔦なので落とさないように絡めて留めておくことも可能だ。頭の花の近くに飾っておけば馴染みそうなデザインだし、ちょうどいい。

「魔女さま、きれい!」

「魔女さまによく似合いますね。……なるほど、こんなに綺麗に使ってる姿を見ればクエリさんも、この髪飾りもいい作品だったって自信を取り戻すかも。さすが魔女さま!」

……そんなことは考えていなかったが、ノエルが納得する理由だったようなのでよし。

さて、残る問題は悲鳴鳥の方だが、貢物を献上して受け取ったにもかかわらず処分というのは人道的ではない。まあ私はそもそも魔物なので人の道を歩いてはいないが、眷属となって命令も聞くし、人間に迷惑を掛けないならば逃がしてもいい。

(でもステータスの説明文から私が魔物だってバレそうだから、人前には出てこないで。ニコラウスさんは他人のステータス見られるみたいだし……多分また来るもんね……)

私のステータスはニコラウスにも見えないようだが、悲鳴鳥は見えてしまうかもしれない。人前、というかニコラウスの前には特に出てこないでほしいので、村には近づかないように念じておいた。

(うーん、せっかくだからこの鳥にも何かしてもらおうかな。そうだ、珍しい植物でもあったら持ってきて)

人に危害を加えない、人の前に姿を現さない、珍しい植物を持ち帰る。この三つの命令を与えた鳥を空に放った。鳥は私たちの上を一度旋回した後、山の方へと飛んで行く。……とりあえず村から離れるなら問題は解決だ。

「あんな迷惑な鳥の魔物も従わせるなんて、魔女さまはさすがです」

「魔女さまってもしかして、動物ともお話しできる? だからヒカリちゃんたちとも仲良くなれるのかなぁ……すごいなぁ」

鳥が村や我が家の畑を荒らすことはなくなったはずだ。ノエルもエリーも何も疑っていない様子だし、これにて一件落着である。

そうしてすっかり頭から鳥のことが抜けた数日後、レオハルトが訪ねてきて、私の髪飾りに驚いたように目を見開いた。

「魔女殿、その髪飾りは……」

マンドラゴラを寄生させて眷属にした鳥からの献上品を指摘され、一歩間違えればレオハルトにも同じことをしていたかもしれない私は思い出し悲鳴を上げたが、それは笑顔となって伝わることはなかった。

……人間を支配していたら、善良じゃなくて害悪な魔物になってしまうからね、気を付けよう。