軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40話

私とノエルは市場での買い物を充分に楽しんだ。店にある品を見ていて気付いたのだが、ビット村は田舎で物がないだけで、都会の方はかなり発展している可能性がある。元世界の道具は電気で動いていたけれど、こちらの世界の道具は魔力で動く。

私がこの村で活躍できたのは、辺境のド田舎でそういった便利な道具が少なく、植物で生活水準を上げられたからなのだろう。もしここがもっと発展していたら、もしくは私が出現したのが都市部だったら、ただの不審な植物女として捕らえられていたかもしれない。……生まれたのが辺境の山でよかった。ゴブリンに引き抜かれたりゾンビに襲われたりする危険地帯だったので、戻りたくはないが。

市場には植物の店もあったのでそこを覗いたところ、市場の取りまとめをしているイライに話しかけられた。私のためにこの植物の店の店主と協力して、珍しい植物を探してくれているらしい。

「ひとまず今回はこいつを……村では見かけなかったんで。この粒が全部種なんですがね、魔女さまなら育てられるでしょう」

(これは……トウモロコシ?)

イライが差し出してきたその植物の、黄色の粒が並んだ姿には既視感があった。

この世界の植物には元世界と同一かかなり近い物と、私のようにこちらにしかないファンタジーな植物のどちらも存在している。これは元世界のトウモロコシによく似ていた。

どんな植物でも、その一部でいいから手に入れることができれば、私が取り込んで多様化のスキルを使い量産可能だ。ニコリと笑ってトウモロコシをノエルに受け取ってもらった。あとで取り込めば名前も説明も見ることができるので、イライから詳しい説明を受ける必要はない。

「それから、これは何か使い道がありませんかねぇ」

「これ、なんですか? 食べ物じゃないですよね?」

「こいつは幸運を呼ぶと言われてる植物でさぁ。ほら、本来は葉が三枚なんですがね、たまに四枚の葉ができて、これが幸運を呼ぶって言われてるんです」

ハート形の葉が並ぶその植物は私もよく知るクローバーに近い。ただ、一般的に広く知られている四葉のクローバーは「シロツメクサ」という植物で、葉の形もハート形ではない。これは似ているけれど別物の異世界植物だろう。

「魔女さんならほら、何か……鈴蘭のように、特殊な変化や面白い使い方ができるんじゃぁないかと」

(まあ……できなくはないね)

元の世界にあったアイデアだが、品種改良で四葉ばかり生えるような株を作ったり、なんならもっと葉の数を増やしたり、巨大化して傘になりそうなほど大きな四葉を作ることも可能だろう。

私の多様化のスキルは植物の可能性、遺伝子変化を確実に起こすこともできるからだ。食べ物だって簡単に栄養豊富な品種改良ができるだろうし――よく考えてみるとかなり植物を使った商売の幅は広そうである。

(まあでもすぐにやっちゃうと不自然だよね、ちゃんと時間をかけて研究して突然変異植物ができましたってしないと、人間っぽくなさそうだし……)

私が頷けばイライは晴れやかな笑顔で手を揉んだ。私が上手く金になりそうなものを作り出すと思っているようだ。

そしていつものとおりお世辞やおべっかを使い始めた。商人とはそういうものなのだろうから、その褒め言葉を鵜呑みにはしていない。

「いやぁ、それにしても魔女さん、そのヴェールはよくお似合いで。この辺境じゃあ、おしゃれしたくても難しかったでしょう? アンタは洒落者だと思ってやしたし、気に入ったモンが見つかったようでよかったよかった」

「そうですね、魔女さまはいつも花で飾るくらいだからおしゃれも好きですよね」

私が全身に花を飾っているのは作り物の体の不自然さを誤魔化すためである。特に頭のマンドラゴラの花はどうやっても隠せないため、複数種類の花を生やし、花飾りの帽子を被っているように見せかけているのだ。

幸い、マンドラゴラの花の部分は美しいので飾りとしても機能する。これがラフレシアのように悪臭を放っていたり、サボテンのように棘が生えていたりして「何故それを頭飾りにしたのか」と思われるようなものでなくて本当によかった。

(っていうか、そっか。人間ならおしゃれもするか……全然興味なくて頭から抜けてた)

相変わらず布の店は繁盛しているようだし、変態デザイナークエリの店ではなんとリッターが店主の彼女と話している。この世界の人間は男女ともに洒落好きが多いのかもしれない。

私もこれだけ花で飾っているのだから、オシャレに興味がない様子だと奇妙に見える可能性がある。もっとちゃんと人間らしく振る舞うため、服や装飾品にももっと気を遣った方がよさそうだ。

「この様子だとこの村ではしばらく服飾の流行が起きそうですねぇ。魔女さんを見てればそりゃ、みんな興味持ちまさぁ」

(え、私? ……なんで?)

「次の市も企画しますんで、楽しみにしててください。定期開催でもいけそうですねぇ」

店が並ぶ広場の賑わいに目を向けたイライは、にっこりと――ではなくにんまりと、頭の中でそろばんでも弾いていそうな顔をしていた。

イライからもらったトウモロコシとクローバーのような二種の植物は取り込んでどのような植物か確認してから畑に生やした。

ちなみにトウモロコシの名前は日本でも使われる「トウキビ」だったのに、別名「甘蛙の卵」と呼ばれているらしく微妙な気持ちになった。食べ物にそんな別称付けない方がいいと思う、異世界人はおかしい。マンドラゴラになってしまったとしても私の方がまだまともな感覚を持っていると言えるだろう。……蛙の卵は、マンドラゴラとしては美味しいけれど。

クローバーの方は「 三葉(みつば) 」である。日本に同じ名前で呼ばれる香草はあるが別物だ。こちらの世界の三葉は完全に観賞用であり、白やピンク、淡い黄色の花を咲かせる。丸いポンポンのような小さな花が可愛らしいため、花冠を作る遊び方もされているようだ。

(三葉は……思った通り四葉だらけの株と、巨大な四葉はできそう。だけどすぐに作ったら変だからね、しばらくは普通のを育てておかなきゃ)

ノエルは畑に増えた新しい植物の前で尻尾を振っていた。私が育てれば植物は季節を問わず、いつでも収穫できるまで成長する。ノエルはこれを収穫してどう料理するかを考えているのだろう。

「イライさんに調理法を色々聞いたんですけど、どれもおいしそうでした。スープだったら魔女さまも食べますよね、楽しみにしててください!」

(うん、ありがとう。人間の味覚じゃないけど……これは栄養豊富だろうし、私も美味しいかもしれないね)

「でも最近、鳥が畑に悪さするので……明日こそ捕まえます。せっかく魔女さまが育ててくれた野菜を盗られたくないですからね」

(……鳥が?)

話を聞くと最近この辺りに狡猾で素早い鳥が住み着いたらしく、畑の作物を荒らすらしい。しかも誰も居ない時を狙うのではなく、わざわざ目の前で盗っていくという性格の悪さなのだという。

(変なの。誰も居ない時を狙った方が安全なのになぁ)

ノエルはその鳥にいつもおちょくられていると感じているようで憤慨していた。獣人である彼の身体能力でも捕らえられず、罠は破壊する知能があって、非常に厄介らしい。

(じゃあ、明日は私も一緒にその鳥を捕まえるよ)

「……え、魔女さまが自ら……? そんな、魔女さまの手を煩わせるなんて……従者として申し訳ないです」

(そんなことないよ、ノエルは頑張ってるよ)

畑と自分を指差すことで私の意図を察したノエルは、実力不足だとしょんぼりしてしまった。まだ子供なのだし、出来ないことだってあるだろう。無理をすることはない。ノエルを励ますように肩を叩いた。たまには畑の番をするのも悪くない。なぜなら――。

(鳥を狩って、ついでに光合成もできる。まさに一石二鳥ってやつだね!)