軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36.5話 ニコラウス前編

「……品質が足りないな」

鑑定の結果、高品質と出た魔力回復薬を手にニコラウスは呟いた。自分が育てていたマンドラゴラを材料にしたものだ。

このマンドラゴラは数年飼っていたが、特に変わった変化もしなかったので消費することにしたのである。花の魔女を名乗る女の眷属を見ればこちらに興味が無くなるのも致し方ないだろう。

(材料としてはかなりいいものだったと思うけどそれでも足りないか。あの女は魔法で調合してるみたいだし、普通に調合するんじゃ敵わないんだろうな……)

王城には薬草を育てる施設があり、マンドラゴラはそこでも飼育されている。そちらはニコラウスのように試行錯誤して特別に栄養を与えたり、わざとストレスを与えて成長を促したりといった工夫はされず、ただ一般的な育成をされているので品質としてはそこそこだ。

一応そちらのマンドラゴラでも試してみたが、出来上がった魔力回復薬は予想通り並の品質となった。

(品質が違えば回復量も味も違う。薬草の扱いじゃ敵わない。……まあ……むこうは僕より長い経験積んでる上に専門家なんだから当然か)

植物に特化した魔法を扱う魔女は、薬草を使う薬術にも精通しているという訳だ。全く手が届きそうにない存在に、悔しさだけでなく喜びを覚えるのは何故だろう。

……子ども扱いをされて回復薬を渡されたのだ。次に行く時は必ずこの薬を見せてやらねば。

「ニコラウス殿、魔女について貴殿の見解を聞きたいんだが……父、いや王も気にしておられる。こんなに短い期間でまた様子を見に行きたがるということは、やはり不審な動きでも?」

ビット村へ行くため申請したところ、王太子セドリックから訝し気な表情で問われ、ニコラウスは軽く顔をしかめた。

(本当に魔女かどうかは、まあ、確信はできない。……怪しいと言えば怪しいけど。お人よしすぎるし)

しかし王太子や国王が気にしているのはそういう問題ではない。彼らの言う「不審」は国に対して何か不利益があるかどうか、ということだ。……つまり魔女に敵対する意思があるかどうかを尋ねられている。

「別に。何も変なことはしてないんじゃない」

「……ではなぜ様子を見に行くと?」

「魔境が気になるからだよ。騎士の報告じゃ信用できないし、自分の目でも確かめる。ついでに怪しい魔女も見てくるだけ。……何もおかしくないだろ。ついでに有事の際の協力の意思でも確認してくれば満足か?」

「そうか、それならば申請を許可する。……前回のように無理矢理いなくなるのはやめていただきたいが」

「……分かってるよ」

セドリックは生真面目で 小煩(こうるさ) い。これ以上小言を続けられると面倒なので、さっさと研究室へ戻った。

ビット村へ行く許可は下りたため数日中にはあの魔女に会うだろう。その時に何を持っていくかを考えた。

(魔力回復薬の他には……絵版でもあったら便利かも)

紙とペンでは嵩張るし、雑談をすればするだけゴミが出る。そこで使えそうな、何度も書けて何度も消せる絵版というアイテムを思い出した。魔力を消費して色を出すペンを子供に使わせ、絵や文字を書いて遊びながら魔力の成長を促せるという教材でもある。

王都ではありふれた品でもビット村のような辺境ではあまり出回っていないだろう。

(……まあ、買っていってやるか。僕とは古代文字で話せるんだから)

筆談くらいはできた方が便利だ。あの魔女が望むなら現代文字を教えてやってもいいだろう。

ニコラウスは街へと出て、大人の女性が使っていても不自然にならない絵版を探した。元々は貴族の子供向けの教材として売られたアイテムのため、子供が好みそうなデザインも多い。しかしメモ書きとして役に立ち大人も使えるということで、最近はシンプルなデザインも出てきたのだ。

(……これなら使えそうだな……)

板もペンもガラスのように透き通った、シンプルなデザインを選んだ。これなら子供っぽくはないし、あの魔女が使っていても不自然ではない。

この絵版の価格は大銀貨二枚。平民の大人が一ヶ月暮らすのに必要な金はおおよそ大銀貨十枚で、それを考えれば安い品ではないが、ニコラウスにとっては大した出費でもない。

そうした準備を済ませ、いざビット村へと向かう。遠目から見た魔境はまだ、目に見えてあやしい変化をしている様子ではない。ただ川沿いに「浄花」が咲き誇っているくらいだ。

花の魔女が村人たちを魔物の毒から守っている証である。あれがなければこの辺りはとっくに人間も動物も住めない場所になっているだろう。

(あの鏡はちゃんと届いたか、確認しておくか。さて、何に化ければ不意をつけるか……)

幻術の魔法を使って姿を変え魔女の家を訪ねるつもりだった。何に変化するか考えて、ふと思いついたのは魔女と親し気だった眼帯の騎士の姿。

(……あれに化けるか)

眼帯の騎士は人好きのする性格を装っており、周囲の心証はニコラウスと正反対といえる。あの魔女も騎士を気に入っているのではないだろうか。……もし騎士の姿で現れたら、何か特別な反応を見せるのか。

(……これは、あれだ。あの騎士がもしかするとあの女と共謀してて、周囲を誤魔化す協力をしてるかもしれないし。騎士の姿だったら油断するかもしれないからで……)

騎士団の調査報告書が明らかに魔女寄りであったことからも、あの騎士と魔女が特別な関係である可能性は否定しきれない。それを確認するために必要だと、何故か自分に言い訳しながら眼帯の騎士の姿へと魔法で変化した。

魔女の家を訪ねると、以前と少し変わっていた。扉の前に立つと心地よい鈴の音が響く。どうやら美しい音色を響かせる植物をドアベルのようなものとして使っているようだ。

来訪を報せる音を聞いて、魔女の従者をしている獣人の子供ノエルが扉を開けた。玄関先から見えるテーブルに座った魔女の横顔も見える。その目はちらりとこちらを見たものの、カップを口元に運ぶ彼女の表情に変化はない。

しかし、玄関が映るように設置された鏡へとゆっくりと目を向けた魔女は、鏡の中のニコラウスの姿を見るとはっきりと笑みを浮かべた。

(……喜ぶなんて馬鹿だな)

ニコラウスが贈った鏡もちゃんと有効活用しているらしい。気に入ってくれたのだろう。……ほんと、こんなことで喜ぶなんて馬鹿だと思った。