軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話

誰もが寝静まった夜のこと。私はハンモックから静かに降り立ち、家の外へと出た。

(ノエルもしっかり眠ってるし……睡眠香の効果はあるみたいだね)

今日は家の周辺の数多の植物の中に眠り香を放つ花を交ぜておいた。私を監視する人間がいるかもしれないと踏んでいたので、こうして仕掛けておいたのだ。この香りがあればノエルも目が覚めて私を探すようなことはないだろう。……子供の安眠のための香りを漂わせているだけなので私は何も悪くないし怪しくない。

(さて、人に声を聞かれないところまで離れないとね)

そして村の方向ではなく、山の方へと向かって歩く。自分の歩く道に牧草のような、草食動物が好む草を生やしながらだ。これにうっすらと意識を分けて分身としておけば、人が通った瞬間に分かる。

追跡防止かつ、帰りには分身を解けば野生動物の餌になる。一石二鳥というわけだ。

今日は満月なので月明かりが美しい。村の方もすっかり明かりが消えているので、皆寝静まっているようだった。

(さすがに人がいるところでマンドラゴラは栽培できないからね。……うん、誰もついてきてないし、大丈夫)

浄花の咲いている川沿いを上っていく。この白い花は月光を浴びると花弁が輝きを増して見えて美しい。川の周辺では浄花の影響か、雑草が増えているようだが、それを食べにくる草食動物もいるようで、出会った鹿の魔物が私を見て完全に固まっていた。……草食系の動物と魔物は私を見ると固まって動かなくなるか、逃げ出すかのどちらかである。

(ちょうどいいか……いでよ、マンドラゴラ!)

地面にぽとりとマンドラゴラの種を落とし、一気に育てる。浄花で肥えた土地なので、育てるのに必要な魔力も少なくて済む。そして鹿が姿をくらませる前にその株を引き抜いた。

「キャアアアア!!」

(驚かせてごめん。……レベル上がったなら走れるように進化できるかな?)

視界の端で鹿が倒れていったので、レベルは上がったはずだ。私が命じると、マンドラゴラの手足に見える細い根の先が太くなった。

(動ける? あ、できるだけ無害そうに可愛くね。人間に無害アピールするのは大事だよ!)

立たせて歩けるか、命じてみると丸い体を揺らしながらぽてぽてと周囲を歩くことができた。

分身のスキルで意識を移せば私の意思で自由に動き回ることもでき、もちろんその視界も共有できる。

2つの体を同時に動かすのは練習がいりそうだが、視界の共有だけなら難しくはない。二画面の監視カメラーのモニターでも見ているようだ。

(監視カメラみたいに使うこともできるし、何体か居たら便利かも)

私が意識を同調するのをやめるとマンドラゴラは座り込んで休憩を始める。それなりに自分の意思もあり、単純な思考くらいなら持っているようだ。現在、このマンドラゴラは自分が可愛いと思う行動をしているようである。……あざとい気もするけどこれくらいの方が人間の警戒心は解けるかもしれない。

(よし、多様化で作った魔物ならレベルアップもできるし、進化の方向性も選べて、コントローラーで操作するみたいに動かせるね……普段は自分の意思で動いてもらって、必要な時だけ私が動かすこともできる感じ?)

これならできることはかなり多い。そのまま分身マンドラゴラを走らせて、鹿を吸収したら戻ってくるように命じる。その通りに行動して足元まで帰ってきたマンドラゴラを両手で持ち上げた。

(でもこれを村に連れて行って、叫んで人を死なせる訳にはいかないんだよね。さっきの鹿が少し強ければ、レベルが2個くらい上がってたりしないかな……進化ポイント残ってたら、声の蓋を作ってみて)

手の中のマンドラゴラが短い手を挙げて了解の意を表す。これで不意に叫ぶことはないだろう。あとは自分の意思でも叫ばないように命じる必要がある。

ところで最近、私は人の村に住んでいるので一切声を使っていない。そろそろ発声を忘れそうだし、いざという時に叫べなくなっていては困ると思い、せっかく人から離れた今なら、小声で話すくらいいいのではないかと思いついた。ちょっとした発声練習だ。

「これからは声を発してはだめ。絶対に人を傷つけてもだめ。それ以外は自由にしていいから」

「!」

またしてもマンドラゴラは手を挙げて答えた。ハニワ顔でコロコロと丸いので、何となくゆるキャラのような風情を感じる。声も封じて無害化したので、もう人間に危険は及ぼさないだろう。

あとは吸収攻撃をさせないように、このマンドラゴラにも蔦で服を作って着せた。私と違って目以外はこれで覆ってしまう。これでそう人には害を及ぼすことはあるまい。

私からちぎった服の蔦はこの分身のマンドラゴラへとつなげた。接木のようなものだ。これでこの服が枯れることもない。

(あ。……そうだ、これ私の分身なんだからステータス表示できるんじゃない?)

試してみると視界に文字が現れた。進化ポイントまで見えるので、初めからこれを見ながら命令すればよかったなと思う。

【種族】マンドラゴラ(眷属)

【レベル】3

【体力】D

【魔力】B

【スキル】なし

【進化ポイント】1

【説明】

浄花の栄養で育ったマンドラゴラ。眷属個体のため、主人の命令を忠実に守っている。

動き回れるという特殊な進化をしているが、下された命により、声の即死攻撃を封じられ、また人を傷つけることもできない。現在の危険度は低く、良質な薬の素材となる。

捕獲は容易だが、その主人を怒らせる可能性がある。主人の命が下ればいつでも攻撃態勢へと変わる可能性があるため、彼の者を刺激する行為はお勧めしない。もし命令が解除されれば、たちまち呪いの声を上げながら走り回る死の兵器となるだろう。

やっぱりどこか妙な説明文だがちゃんと無害なマンドラゴラになっていることも確認出来て満足だ。しかし、それにしても。

(でもおかしいなぁ……なんで私の説明文って厄災扱いなんだろう。私だって人を傷つけないのになぁ)

私だって無害なマンドラゴラでもおかしくないはずだが、私の説明文はかなり危険な魔物扱いなのだ。人の役に立つように行動してきたけれど、あの説明文には変化がない。いつか善良なマンドラゴラと説明文に明記させたいものである。

そんなことを考えていた時だった。ぱきりと枝を踏むような音がして、私は顔を上げた。

月明かりに照らされた白金の髪は、日の下で見るよりも青みがかって銀色にも見える。片方だけの金色の瞳でしっかりと私を捉えながら、その手は腰の剣を握っていた。

(な、なんでェ……? 誰もあと、ついてきてなかったよねぇ……!?)

私はちゃんと背後を確認したのに、何故こんなところにレオハルトがいるのか。というか、彼は私が来た道とは逆方向から現れた。ついてきたのではなく、最初からここにいた可能性がある。

もし声を聞かれていたらと思ったが、彼はピンピンしている。マンドラゴラが叫んだり私が話したりしているのに無事ということは、何も聞かれていない可能性だって――。

「魔女殿、貴女はやはり話せるのですね」

――なかった。彼は以前も私の声を聞いて無事だったので、マンドラゴラの声を無効とする何らかの対策を持っているのだろう。

私、終わったかもしれない。体内で盛大に叫んだ。そして腕の中のマンドラゴラも叫んだのか、プルプルと震えていた。