軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話

花の魔女殿かとそう尋ねられて私は頷いた。村人たちから「花の魔女さま」もしくは「魔女さま」と呼ばれているのは事実だから。実際はマンドラゴラとはいえ、人間から認識されている私は花の魔女に違いない。

「私の名はレオハルト。あちらはリッター。聖騎士団から派遣されてまいりました」

(聖騎士団……そういえば、ダオンさんが元々聖騎士だった、みたいな話を聞いたような?)

村長であるダオンは他の村人とは少し雰囲気が違う。エリーによると彼は村長になるまで聖騎士として働いていたらしい。子供の情報なので聖騎士が何をする職業なのか詳しくないが、その口ぶりから人々の憧れの的であることだけは分かった。

騎士というのだからきっと人々を守ってくれる仕事だろう。元の世界の警察官に近く、それでいてもっと親しみやすい存在なのかもしれない。

「ご存じかと思いますが、あちらの山には現在新しい魔境ができています。その影響がこちらまで及ぶかもしれませんので、私たちはしばらくビット村に滞在し、調査や村人の安全確保などをする予定です。今日は、近くに住んでいらっしゃる魔女殿にもご挨拶へ伺ったのですが……その、大変失礼を」

(それはどうも、ご丁寧に。別に気にしてないからいいよ)

にこりと笑いながら首を振った。どうやらあるべきものがない、という部分は見られていないようだし、私の体の異常には気付かれていない。

全裸を見られても恥ずかしくないのは、私の体がそもそも根っこだからである。むしろ頭部分にある花の中のおしべとめしべを見られる方が恥ずかしい。つぼみのように閉じている花弁の中にあるのだけれど、ここを見られたら思い切り叫ぶ自信がある。

「……お許しをありがとうございます。ところで魔女殿は……以前、その……」

レオハルトと名乗った青年はどこか戸惑った様子だ。どうかしたのか、と少し考えて彼の死にかけていた姿を思い出した。彼もあの時のことを覚えていて、どう話を切り出したものかと悩んでいるのかもしれない。

傷があった胸のあたりを指さして軽く首を傾げると、彼は軽く目を瞠ったあとに微笑んだ。

「やはり、あの時助けてくださったのは貴女でしたか。……ありがとうございます、貴女のおかげでこうして無事に騎士を続けております」

(そっか、それはよかった。一応気にはなっていたしね)

完全回復薬で傷は治したが、その後の行方は知らなかった。こうして元気な姿を見ればちゃんと助けられたのだと安心する。……同時に、口からだばっと出さなくてよかったなとも思う。死にかけでぼんやりしていたが、それでも私の顔を覚えていたようなので、口や鼻から出していたらいったいどんな印象になったことか。

「魔女さま! 収穫が終わり……誰だ?」

そこへ籠いっぱいにベリーや妖精飴といった果実を摘んだノエルがやってきて、見慣れない人間を前にピンと尻尾を立てて警戒するように軽く睨んだ。

レオハルトはノエルにも丁寧なあいさつをしていたが、ノエルはそれでも不審そうに二人を見ながら私の前に立つ。

「魔女さまに何か用か?」

「ええ、魔女殿から少しお話をお伺いしようかと」

「魔女さまは声を失くしているから、話せない。話なら俺が聞く」

「……声を?」

(そういえばこの人には声を聞かれてたんだった……!!)

人に話しかける練習をしている時にレオハルトが倒れているのを見つけたのだ。何故か彼は死ななかったが、普通はこの声で人を死なせてしまうのである。ずっと喋れない体で誤魔化してきたが、この人に「話せるはずだ」と証言されては困る。

内心冷や汗だらだらで叫ぶ私だが、叫べば叫ぶほど笑ってしまうのがこの体なので、驚いたようにこちらを見るレオハルトには私の素晴らしいほどの笑顔が見えていることだろう。

「この魔女さまは、村も俺も救ってくれた。悪人でも詐欺師でもない。聖騎士相手だって渡さないからな」

(え……私を捕まえに来たの? いい魔女をしてたはずなのにどうして……)

不安に思いながら私の前に立つノエルの肩に手を置いて、レオハルトの様子を窺った。子供でも間に立ってくれているだけでちょっと心強い。このまま動かないでほしい。

「たしかに魔女殿についての噂はありますが、あくまで噂です。この段階で捕縛するということはありません」

「この魔女さまは本物だ……!」

「はい。……それも含めて、疑いを晴らすための調査でもあります。どうか、ご協力を。私はこちらの魔女殿が二人目の生き残りであることを証明するお手伝いをさせていただきたいと思っています」

レオハルトはノエルの前に膝をつき、目線を合わせて優しく語り掛けている。非常に丁寧でとてつもない好青年に見えた。そんな彼を前にノエルも多少たじろいでいる。

(やっぱり突然出てきた魔女だし、偽物だっていう噂が立ったんだね。まあ実際偽物だしマンドラゴラなんだけど……うう、疑われてるのかぁ……)

ここまで村人とはうまくやってきた私だが、その外からの信用はまだないということだ。噂になっている魔女が本物かどうか調べるために調査にやってきた彼らからも信用されれば、私は安泰になるかもしれない。

「滞在する間はもちろん、聖騎士として村の周囲に現れる魔物も討伐し、村やここに住む人々を必ず守ります。魔物の脅威から人々を守るのが我々の本分であり、人を傷つけることは本意ではありません。どうか、信じてください」

(ん……? この人たち、魔物を討伐するのが仕事なの?)

彼らは私が本物の魔女であるかどうかを調べに来た。もし偽物であると判断されれば捕まってしまうのかもしれない。でもそれは、あくまでも人間の詐欺師と判断された場合だ。だがもしも――魔物だとバレてしまった場合はどうなるのか。

(もしかして……魔物ってばれたら討伐されちゃう……!? ひええええええ……!!)

絶対にばれてはいけない。それでいて、詐欺師だと思われないように、善良な魔女としての能力も証明していかねばならない。……難易度、高くない?