軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人の道(梶山将太)

――嘘つきは泥棒のはじまりだ、と昔の人は言うけれど。

時には嘘が必要な瞬間だって、きっとある。

少なくとも、クラン「池袋ハンターズ」のリーダー・ 梶山(かじやま) 将太(しょうた) はそう思う。どんなに清廉潔白な人間だって、生まれてから死ぬまでに、一度くらいは大きな嘘を吐くだろうと。

なにせ、己が虚勢を張り続けない限り――

「カジさん、今が 好機(チャンス) ですよ!」

「俺たちで 頂点(テッペン) 取り戻しましょうや!」

「おうおう、見せてやろうぜ 漢気(ホンモノ) をよぉ」

「あんな牛頭、なんぼのもんじゃいッ!」

――この愛くるしくも馬鹿だらけな面々は、すぐ路頭に迷ってしまうから。

冬の寒さもいよいよ極まり、まもなく一月が終わろうという頃。

池袋ハンターズは“集会”という名の全体ミーティングを行っていた。

街はずれの廃工場に集まり、血気盛んに気炎を上げる。

そんな仲間たちの様子を梶山は冷めた目つきで見ていた。廃材の上に腰を下ろし、足を組んで頬杖をつきながら。

(力押しで何とかなンなら、誰も苦労しないっつーの)

言ったところで士気が下がるだけなので、溜め息とともにしまい込む。

梶山率いる「池袋ハンターズ」は、東京摩天楼で活動する探索者集団の中でも、トップクランに数えられる精鋭たちだ。未攻略フロアの最速突破記録を幾つも持っている。自衛隊の「攻略班」や「サンライト」たちと常に鎬を削ってきた。

それゆえ、実力以上のプライドがついてしまったように梶山は思う。

(……俺、間違ったかなぁ)

もともと、かれらは何者でもなかった。

家庭環境だったり、交友関係や不幸な事故から、一般社会に居場所がなくなった不良の集まりだった。学校をサボってやることといったら、日がな親への愚痴をこぼしたり、アウトローへの歪んだ憧れを語ったり。

地面に座り込んで、ただ羨ましそうに空を見上げるだけ。

梶山が彼らの 頭(リーダー) を張ることになったのは、彼が一番年上であったことと、彫りの深い老け顔だったからだ。冗談のように聞こえるかもしれないが、見た目というファクターは不良少年たちが持てる精いっぱいの虚勢だった。

実際、梶山が池袋ハンターズを立ち上げて以来、無精ひげを伸ばすようになったのは、周りからナメられないようにするためだ。

おかげで、まだ19歳なのに10歳以上年上に見られることも珍しくない。荒くれ者どもをつれダンジョンへ潜る彼は、時に“山賊の頭領”だとも揶揄される。

「へっへ、しかしラッキーでしたね。なんちゃら風邪が流行って。おかげで今、ダンジョンは 伽藍洞(スッカラカン) ですよ!」

「馬鹿、ヒルタ熱な」

「ま、どいつもこいつもビビっちまって、本当にラッキーだぁな」

「運が俺たちに味方してんだろ~」

違いない、と笑う男たち。

一方で梶山の顔には影が落ちたまま、くすりともしない。

――同じだ、 あ(・) の(・) 時(・) と。

トップクランと呼ばれるようになって。一端の人間になったつもりでいた。しかし、他人の不幸を幸運とのたまうような仲間たちの様子を見るに、勘違いだったらしい。

猿山はどこまでいっても猿山ということなのか。

そんなはずがないだろうと、足掻くように口を開いた。

「協会から……」

梶山が声をあげた途端、ぴたりと会話が止む。

秩序だった統制のもと、ボスの言葉を誰もが静かに待った。

「マンドラゴラの収穫依頼が出ているのを、知ってるか」

先日、全世界のダンジョンにおいて、緑化現象としか呼べない異常が起きた。その異変は未だ収まらず、梶山たちが攻略に勤しむ東京摩天楼でも、第二十一層より下は緑に覆われているような状況だ。

原因は分からない。ただ自衛隊の調査によって、緑化現象と共に発生したマンドラゴラというモンスターの倒し方、そして活用方法についての周知が為された。

万病に効く薬の素になる――かもしれないマンドラゴラを集めるよう、協会が探索者に呼びかけ始めたのは、つい昨日のことだ。

梶山たちが現在攻略しているのが、唯一、緑化現象に侵されていない第二十一層であることに加え、そもそもニュースを見ない仲間たちは、何のことやらと首を捻った。ただ一人、参謀役の青年だけが眼鏡を光らせる。

「ヒルタ熱の特効薬になるかもしれない。だから、何本でもいいから集めてくれ、という内容でしたね。一本あたりの金額が安いので、正直こなす意味もないと思いますが。それがどうかしたんですか?」

安いといっても、それはトップクランにとっての話だ。一般の探索者からすれば十分に価値がある。それほどまでに前人未到の階層を探索するというのは益があった。もっとも稼げる分、出ていく金額も大きくなるのだが。

装備や回復薬の補充など、生産職が一人もいない池袋ハンターズは、トップクランの中でも特に出費の大きい集団だった。

参謀役という名の金庫番が、何かにつけ金の話をするのも分かる。

そのうえで梶山は、自らの考えをはっきりと口に出すことにした。

「俺は、協力すべきだと思っている」

途端、わっと廃工場内が騒がしくなった。

普段どんなに喧嘩していても、梶山が口を開けば誰もが押し黙るような集団だ。それを考えれば、いかに混乱しているかが分かる。

「カジさん!? な、なんで……?」

「攻略じゃなく、草むしりしろってんですか!? 俺らに!」

「そんな……そんな人気取りみてぇなこと! サンライト(あいつら) にやらせときゃいいでしょう!」

「このチャンスを逃すんすか!?」

世間が新型の感染症に混乱し、探索者までもがその波に呑まれている現状は、池袋ハンターズから見れば確かに“チャンス”と言える。下がまごついている間に、どんどん上へ上へと昇っていくのだ。後からどうしようもない差が出来るくらい。

自分たちこそが一番になるんだ――と若い気概を抱いているかれらの主張は、至極まっとうで。

そして、どうしようもなく間違っている。

梶山が池袋ハンターズを立ち上げた理由は一番に成りたいからじゃない。

燻り、日陰にいた仲間たちを、日の当たる方へ進ませるために創ったのだ。

「…………」

かつてダンジョンが出来る前。ただの不良の集まりだった梶山たちは、日々、社会への恨みを募らせていた。とはいっても、やることと言えば気心の合う仲間たちとつるんで、ただ愚痴を零すだけ。

しかし一人では何もできない気弱な人間も、数が集まると大胆になっていく。

簡単にハイになれんだぜ――と 薬物の過剰摂取(オーバードーズ) を勧める少年が現れた時、梶山は本気で相手を殴った。

後にも先にも、彼が仲間に手をあげたのはその時だけだ。

こんなものを許していては、その内ゲートウェイドラッグにも手を出すに違いない。そして犯罪者へと堕ちていく。何者にも成れない誰かから、明確な落伍者へと。

しかし暴力で――恐怖で心を縛るなんて選択、梶山には選べなかった。その選択肢は彼が最も忌避するものであり、たった一度の拳ですら、いつまでも嫌な感触が拭えない。どうする、どうする、どうする、どうする……。

そんな時、ダンジョンが現れた。

遥か遠くからでも見えるほど、天高く聳える塔。

梶山はこれだ、と思った。

感情の行き場を持て余した血の気の多い仲間たちを放り込むには、うってつけの場所だ。モンスター相手ならどんなに暴れたって怒られない。むしろ“英雄”とさえ呼ばれるかもしれない。

居場所をなくし、指でお手玉を弾くように、社会からつま弾きにされたかれらを守ってやることが出来るかもしれない。

だからこそ。

「カジさん……。もしかして、ビビってるんですか……?」

たとえ弱気だと思われても、意見を翻すわけにはいかない。

それで自身への求心力が落ちるなら、それまでの男だったということだ。

一度目を閉じ、覚悟を決め。

梶山はゆっくりと語り出した。

「この中で、身内がヒルタ熱にかかってるやつ。手を挙げろ」

不意の質問に対し、はじめ、誰も反応が出来なかった。

困惑したようにお互いの顔を見回し、小さく言葉を交わす。

それから重たい沈黙がやってきた。

「もう一度言うぞ。この中で家族がヒルタ熱にかかってるやつ、いるか」

いくら問えども 応(いら) えはない。

手を挙げる人間がいないということは、誰一人病魔と縁がないのかもしれない。それならそれで、素晴らしいことだ。

もっとも、そんなの希望的観測に過ぎないが。

ねばつくような静寂の中――すっと一本の腕が挙がる。

それは他ならない、梶山の腕だった。

「そうか、俺だけか」

「カジさん……?」

「 珂奈(かな) がヒルタ熱になった。学校でもらってきたらしい」

梶山珂奈。将太にとって義理の妹だ。

父が再婚した際、連れ子としてやって来た。梶山将太の父親は昔から気の短い男で、家庭内暴力が絶えず、それに耐えきれなかった将太の母は子どもを置いて一人で逃げた。さすがに父親も懲りたのか、再婚してすぐは優しい顔を見せていたのだが、だんだんとまた本性を現し……。

その拳がまだ幼い妹にも振るわれようとした時、将太が庇って以来、二人は本当の意味で兄妹となった。

妹はよく兄に懐き、兄もまたそんな妹を慈しむ。

このたまり場にも時々顔を出すので、池袋ハンターズの面々にとって知らない名前ではなかった。

「カナちゃんが!?」

「マジかよ……」

「……実は、うちの親もかかってて」

「お前も? その、俺んとこもそうなんだよな……」

「あの……僕も……」

梶山の告白を呼び水にして、ぱらぱらと手が挙がりはじめる。

結局数えてみれば、半分ほどの人間が身内に罹患者がいることが分かった。何となく恥ずかしくて言い出せなかったのだろう。

「俺たちはみんな、大なり小なり、家に居づらくて飛び出してきた馬鹿野郎どもだ。親や兄弟が重病にかかろうが、なんだろうが、知ったこっちゃないってヤツがほとんどだろう。だから珂奈を――テメェの妹を救いたいというこの想いは、俺のエゴでしかない。けどよ……」

人として正しい生き方だとか、道徳だとか、そんなものを説いても仲間たちには届かない。そんな“お説教”が嫌で集まったような関係なのだから。

ゆえに、梶山はかれらなりの矜持に響く言葉を探す。

「憎らしい人間でも助けてやんのが、 ホ(・) ン(・) モ(・) ノ(・) なんじゃねーか?」

たとえば父親が急に余命いくばくもない状態になったとして。

おそらく梶山は「ざまあみろ」と思う。散々弱い者いじめをして、威張り散らしてきたバチが当たったんだと。

けれどもし、己の手に助ける力があったなら。

「テメェには関係ないと見過ごして通り過ぎる。そんなもん、カッコイイか? 俺たちの嫌いな“大人”とどこが違う? 同じだろうが……!」

ただでさえ探索者というのは社会から色眼鏡で見られる。

特に池袋ハンターズはサンライトのように露出が多くない。愚直に、ただ真っすぐにダンジョンの深層を目指している。パブリックイメージはゼロに等しく、むしろ荒くれ者の集まりとしてマイナスまであるかもしれない。

リーダーとして、梶山はかれらを導く義務がある。

たとえどんなにしょうもない悪童だとしても、一人一人、大切な仲間なのだから。

「他のクランがお前らの言う“草むしり”にせっせと精を出してる間に、俺らだけ先に進んだとして……。評価されると思うか? 第一ダサすぎるだろう、それは。ズルして勝って何が面白いってンだよ。自分の胸に手を当てて聞いてみろや。誇れるか?」

『…………!!』

なまじっか探索者として上手くいってしまったばかりに、かれらは「先へ先へ」という思いが強くなりすぎた。それは他のクランに負けたくないという気持ちに変わって、いつしか 眼(まなこ) を曇らせてしまった。

強ければ何をしていいわけでもないし。

先へ進めば無条件に偉いなんてこともない。

はじまりは単純な想いだったはずだ。

――何者にもなれなかった自分たちの居場所が欲しい。

だから、ようやく出来た居場所に固執する気持ちも分かる。

痛いほどに分かってしまう。

そのうえで伝えなくてはならない。

「忘れるな。クランを結成したあの日、俺たちは誓っただろう――“カッコイイ大人”になンだって! 周りのヤツらが困ってて、俺たちにどうにか出来る手段があるなら、鼻歌交じりに助けてやろうじゃねーかよ、なぁ?!」

ニヤリ、と梶山は笑った。

精いっぱい仲間を鼓舞するための笑みは、生憎と人相のせいで凶悪な笑いに変わった。この場に赤ん坊がいたら、きっと泣き出していただろう。

「それに――や、なんでもない」

言いかけて 頭(かぶり) を振る。

なんだかんだで、家族が心配な者もいるに違いない。別段、家庭に問題がなくても、コンプレックスのせいで逃げ出した少年もいれば、学業に押しつぶされてしまった青年もいる。かれらは内心、特効薬の登場に期待していたはずだ。

それを自分が口にしてしまえばメンバー間の亀裂を生む。

だから胸の中に秘することにした。

果たして、梶山の檄を受けた池袋ハンターズの男たちは――

「俺たちが……助ける……?」

「そうだ、何で忘れてたんだ……俺たちは……!」

「同じになろうとしてたのか……あのクソヤローどもと……」

「ああ、ダセェ。……ダセェな、俺ら!」

――俯き、拳を握りしめて震えていた。

中には涙を流す者もいるほど。

自分たちが仰ぎ見るリーダーの何と立派なことか。

そんな風に心を新たにして。

一方で。

(……むさくるしいなぁ)

むせび泣く男たちの姿に、梶山は虚飾を脱ぎ捨て心の中で苦笑するのだった。

本来の彼は争いを好まない、平穏な人間なのだ。

気の合う仲間たちと静かに暮らせればそれで良い。

それでも、神様から渡された配役に今更不満を漏らすことはなかった。

(単純というか。だからこそ可愛くもあるんだが……。俺が守ってやらないと。こいつらを嫌われ者にしないためにも――)

梶山将太は今日も今日とて嘘をつく。

それは必要な嘘だから。

いかめしい、荒くれ者どものリーダーという仮面をつけて。

「俺の意見に反対だってヤツ、いたら前に出てこい。今なら拳で決着をつけてやるぞ」

幸いというべきか。

その誘いに乗ってくる者は一人としていないのであった。

◇ ◇ ◇

通常、ダンジョンを探索する際は少人数が推奨される。

大所帯の場合、モンスターを倒した時に貰える一人当たりの経験値量が少なくなって、とても効率が悪くなるからだ。検証の果て、今では理想のパーティー編成は五人までと言われていた。

各階層の最後に待ち受ける 番人(ボス) も人数によって強化されることから、ダンジョンといえば少数精鋭で攻略するもの、という雰囲気が出来て久しい。

そんな中にあって、池袋ハンターズの面々が誰一人欠けることなく、フルメンバーで東京摩天楼の第十六層に転移したのは、目的が攻略のためでなく、素材収拾――マンドラゴラの討伐にあったからだ。

三十人を超す男たちが一斉に沼地へ降り立つ。

さあ、今から“草むしり”の始まりだ――というところで。

「あ」

「……!」

かれらは同じくクラン総出でダンジョンへ来ていたサンライトと鉢合わせてしまった。考えてみれば当然で、サンライトはメディア戦略にも気を使っている集団だ。新型ウィルスの流行という未曽有の危機に、のんびりと探索を進めるわけがない。

きっとマンドラゴラ狩りに来たのだろう。

あちらもメンバー総出らしく、緑茂り鬱蒼とした畔に人間が大集合していた。

「考えることは一緒ってわけか」

「チッ、先を越されたな」

「どーすんだ、追い出すか?」

池袋ハンターズがそう口にすれば。

「あーあー、面倒なのが来ちゃったね」

「え、と? ど、どうすればいいんでしょう、これ!」

「……予想外だ」

「もしかして、また喧嘩っスかぁ?」

サンライトも剣呑な空気を醸し出す。

二つのクランはつい先日、第二十層のボス部屋へどちらが先に入るかで諍いを起こしたばかり。一触即発の雰囲気に武器へ手を伸ばす者もいる。

だが――

「先の件、すまなかった」

梶山が真っ先に頭を下げたことで、それどころではなくなってしまった。

驚愕の声があがり、サンライトのリーダー・ 真久利(まくり) 瑛太(えいた) も思わず目を丸くする。

「先の件っていうと……二十層でのこと?」

「ああ」

「うーん……俺は別に気にしてないんだけど」

ちら、と瑛太は後ろを振り返る。

そこでは〈錬金術師〉の天裡が歯をむきだして威嚇していた。

「い゛―!」

分かりやすいのが彼女というだけで、他の面々も訝しむように梶山を見ている。先日とは打って変わった対応に驚いているのだろう。

事実、梶山の仲間たちですら衝撃を受けていた。

「カ、カジさん……! アンタが謝る必要なんて!」

「そうだぜ! 悪いのはアイツらで――」

「あれは正しいケンカだった!!」

擁護の声に対し、梶山はただただ首を振る。

あの時の池袋ハンターズはサンライトへのコンプレックスが積み重なっていた。俺は軟派なアイツらとは違う。ダンジョンを攻略するのは俺たちだ。そんな気持ちが今にも爆発しそうで、だから梶山も退くことが出来なかった。

もし簡単に先を譲れば仲間たちが暴走してしまうだろうと。

「今俺たちがやってンのは攻略勝負じゃないだろ。角突き合わせたって何の意味がある。それにお前ら、素材集め ド(・) 下(・) 手(・) く(・) そ(・) だろ。いい機会だ、見て学べ」

「それは……俺たちと協力したい、ってことでいいのかな」

「ああ」

なにせ第十五層より上に足を踏み入れられる探索者は限られている。場所の取り合いなんて必要ない。そんなことに力を入れるくらいなら、頭を下げて、池袋ハンターズが苦手な分野を教えてもらった方が圧倒的に役に立つ、という判断だった。

「なんじゃそれ!? いくらなんでも都合よすぎでしょ! この間のこと、ボクはまだ許してないからね!」

「先輩、抑えて……! せっかくいい感じにまとまりそうなんスからっ」

自分の頭一つで蟠りが解けるとは思っていない。

クランの未来のため、なんとか言葉を重ねようと梶山が口を開いた時。

「ハンターズのリーダーさんってさ、今いくつ?」

「は……?」

瑛太が顎に手を当てながら、のんきな質問を繰り出した。

予想だにしなかった切り口。

梶山は後頭部を殴られたような衝撃で、しばしぽかんとする。

それから小さく答えを絞り出した。

「……19、だが」

「あー、やっぱり」

ぽん、と丸めた拳を手の平に打ち付ける瑛太。

ただし平静でいられたのは彼だけだ。他のサンライトの面々は、驚きも隠さず思い思いの感想を口にする。

「19!? 35じゃなくて!?」

「ふ、ふけっ……! あ、いや、貫禄が凄すぎるんだけど……!?」

「私より年下……?」

「……親近感」

梶山の老け顔は持って生まれたもので、昔から小学生料金で入場しようとしては疑われ、中学生に上がれば友達から代わりにR-18コーナーに入ってくれと頼まれ、兄妹で歩いていると親子に間違われてきた。

だから慣れたものだが、それでも傷つかないわけじゃない。

「……悪かったな、老け顔で」

思わず眉を下げてしまうのも、むべなるかなというものだ。

「19って……そんなんもう 赤ちゃん(エケチェン) じゃん! ボク、ワンチャン産めちゃうじゃん! う、嘘でしょ!?」

「そうだぞ、天裡。お前の年齢を言ってみろ」

「う……33、です」

「つまり、お前は一回りも年下の子に対して“いじわる”してたわけだ。いい大人が恥ずかしくないのか?」

「ぐ、ぐぁあああああ! めっっっっっっちゃハズい!!」

ごろごろと地面をのたうち回る年上の女性を見て、梶山は混乱が隠せなかった。

彼にとって“大人”といえば自分たちの邪魔ばかりする存在で。

こんな風に非を認めることも――

「はぁ……。ごめんなさい、ボクも謝るよ。いろいろ失礼なこといって、本当にごめんね」

「あ、あぁ……」

ましてや頭を下げるなんてこともしなくて。

「よし、それじゃあこれにて一件落着ということで。ハンターズさん、そっちの目的もゴラ狩りでよかったよね? 俺たちでよければ協力するよ!」

もしかしたら、かれらは自分の知っている“大人”とは少しだけ違うのかもしれない。

今はまだ分からないけれど。

そんなことを考えながら、梶山は差し出された手をおずおずと握り返したのだった。

――なお、この様子はサンライト側が配信をつけていたため全て世間に筒抜けで。

池袋ハンターズのリーダーが実は老け顔で苦労していそうなことや、硬派を気取るメンバーがサンライトの〈司教〉に治療される際、顔を赤くしてぶっきらぼうにお礼を言う様が配信され……。

ちょっとだけ池袋ハンターズの対外イメージが向上するのだが。

それは完全なる余談だろう。