軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

天使さま、遺跡に行く

古代アセト文明。

それは銀河連邦が出来るより前、神族が神族と呼ばれるよりももっと昔――気の遠くなるような過去に栄えていたとされる文明だ。

どんな種族がいて、どんな生活を送っていたのか。

何せ大昔に滅んでしまったので、いずれも推測の域を出ない。

ただあちこちに点在する遺跡群から、銀河連邦よりもさらに広く、この宇宙を掌握するほどの規模を誇っていたらしい。

「明かりが勝手に?」

「ふむ。非常用電源が生きているみたいだね」

俺はそんな古代アセト文明の遺跡に、ゼル爺と二人で乗り込んでいた。

きょろきょろと辺りを見回す。

無機質な鋼色の回廊がどこまでも続き、床と壁に光るラインが走っている。

「まさかこの星にこんな場所があるなんて……」

今、俺がいる場所。

それは マ(・) リ(・) ア(・) ナ(・) 海(・) 溝(・) ――水深一万メートルをも超す海の底だ。

――“古代アセト文明”の遺構。この星にもあるでしょ?

そうゼル爺に言われて、フクレに星全体を 調査(スキャン) させた結果……。深い深い海の底に、岩盤に偽装した遺跡が隠れていたのだ。この星で17年生きてきて、まさかこんなものが眠っているなんて思いもしなかった。

材質も分からない、つるりとした壁を撫でてみる。

「ここまで綺麗な形で残ってるのは珍しいね。早速調べてみようか」

「は、はい! 防衛術は……」

「とりあえず〈障壁〉だけでいいよ。変に傷つけても困るし、それに……たぶんこの施設、警備機能が作動していない」

慣れた足取りで行くゼル爺。

その背中を追いかけていると、まるで半年前に戻ったみたいだ。

俺はゼル爺に“冒険者”としての心得を一年間みっちり叩きこまれた。その際、こうして遺跡の探索に駆り出されることもあったのだ。

何せこの宇宙には滅んだ文明が ご(・) ま(・) ん(・) とある。

その遺構を放置しておいても良いものか、あるいは何か使えるものがないか調査するのも冒険者――という名の便利屋の役目だった。

ただし古代アセト文明の遺跡は初めて見るが。

正直、遺跡というよりも宇宙船か何かの船内を歩いているようだ。

何より。

「……霊子の流れを感じます」

中に入ってようやく分かった。

この建造物はまだ生きている。

いや、生かされているといった方が正しいか。

「うん。最低限、建物が崩れないようにしてたみたいだね」

「霊子による固定化、ですか。機構自体は珍しくもありませんが、人の力無しで半永久的に稼働させるとなれば……古代アセト人は私たちのような霊子の感応器官を持っていたんでしょうか」

「それは間違いないかな。下手をすれば、僕らよりも優れていたかもしれないよ」

ゼル爺をしてそう言わしめるのは驚きだ。

「……何故、そんな文明が滅んだんでしょう」

神族が栄えるよりも前の神族。

こんな 辺(・) 境(・) の(・) 星(・) にさえ拠点を持つほど広く生息していた旧人類。

そんな紛うことなき神様のような存在がどうして消えてしまったのか。

つい気になって口に出すと、ゼル爺が小さく笑った。

「何かおかしなことを聞きました?」

「……いや、ごめん。ちょっと懐かしくてね」

「懐かしい……?」

俺たちが一歩踏み出すたび、床が淡く光る。

今見ているのが夢か現か少しだけ曖昧になるような、そんな光景。

「昔そんな話を仲間たちとしたなぁって」

ゼル爺はいつも超然としていて、大樹のように揺らがない人だ。

けれどこの時ばかりは、その水面に波紋が浮かんでいる気がした。

思わず手を伸ばそうとして、止める。

……ゼル爺はあまり昔話をしたがらない。

いつでも俺の話を聞きたがる。でも今日くらいは。

「……どんな人たちだったんですか?」

勇気を出して口にした言葉は、静かな回廊に響いて消えた。

少しの間があって、ゼル爺が前を向いたまま答える。

「一言でいえば賑やか、かな。君ほどじゃないけどね」

「……そこはかとない悪意を感じます」

「お、扉だ」

「もうっ、誤魔化さないでくださ――」

気がつけば無限に思えた回廊に変化が訪れていた。

一切つなぎ目のない綺麗な壁。そこに走る光の軌跡が長方形を象っている。ゼル爺がいう通り、まるで扉でもあるかのようだ。

「この仕掛けは前に見たことがあるね。確か……」

ゼル爺が手をかざす。

すると壁の一部が消えて、ぽっかりと口を開けたようになった。

幻――ではなく、物理的に消えたんだろう。

たぶん用が済めばまた勝手に 生(・) え(・) て(・) くるはず。

たかだか自動ドア一つに手の込んだ仕掛けを使うもんだな。

物質の分解と再構成は霊子工学の中でも高位の技術だ。しかし、ハーヴェンからしてみれば普遍的な技術でもある。

すたすたと中に入っていくゼル爺の後を追った。

「これは……カプセル? 何かの実験施設ですか?」

「いや、全部寝台だと思うよ」

「えぇ……。趣味が悪いですね」

無機質な部屋の中、透明なカバーに覆われた機械がずらりと並んでいる。

俺のイメージに一番近いものでたとえると、あれだ。コールドスリープや仮想世界へ旅立つための装置に思えた。

「一つ一つの大きさから察するに、僕らとそう変わらない体格だったのかもね」

「確かに……。この大きさじゃ 鬼人種(オーガ) は入りきらなそうです」

「そこはまぁ、詰めればなんとかなるんじゃない?」

「……絵面が最悪過ぎません?」

ごつい鬼が真空パックみたいに詰め込まれてるのは、ちょっと見たくないかな……。

想像しただけで夢に出そうだ。

「他も見てみようか」

というゼル爺の一言で探索を再開する。

それからレストランと思しき場所や、広々とした会議室、シアター、体を動かすための器具やコースなどが設営された空間を見つけた。明らかに人が暮らしていた痕跡。けれどどこを見ても人影は見当たらない。

まるである日忽然と、この場所から人だけいなくなってしまったような……。

まぁ気の遠くなるほど昔に栄えた文明なら、仮にこの場所で死んだ人がいたとしても全部塵に変わっているだろうが。

「レジャーもあるなんて、まるで宿泊施設ですね」

「宿泊施設……ね。言い得て妙かな。確かにこの施設は人が泊まれるように作られている。それも長期間にわたって。その答えは恐らく――」

遺跡の一番奥。

入り口から考えれば不自然なほど距離を歩かされた先に、それはあった。

今まで見てきた中でもひと際大きな空間。

幾百も並べられたコンソールとモニターの群れ。

その奥に巨大で透明な球体が浮かんでいるが、中は空っぽでがらんどうだ。

「見てごらん、レグ」

呆気に取られている俺を他所に、ゼル爺はコンソールを触っていた。

モニターに光が灯る。

「僅かに残った霊子の残滓。データがほとんど飛んでて画像くらいしか残ってないけど、彼らは こ(・) れ(・) を創っていたんだ」

果たして、そこに映っていたのは。

「ドラゴン……?」

縦長の瞳孔、鱗に覆われた体、黒く輝く爪と牙。

広げた翼はその巨体と比べてもあまりも大きい。

まさに“ドラゴン”としか呼べない存在が投影されていた。

ゲームやアニメでお馴染みの存在。

だが、ここは現実だ。まして、俺が作り出したダンジョンの中でもない。

「おや? 見覚えがあるのかい」

「いえ……その。創作だと定番の 敵(モンスター) と言いますか……」

「なるほど。前世の記憶ってやつか。一瞬僕が耄碌したのかと思ったよ。さすがに君をこれと戦わせたことはないはずだからね」

「え゛。現実にいるんですか、これ……?」

考えてみれば、俺は冒険者時代にいろんな生物と戦っている。中にはドラゴンっぽいのもいなかったわけじゃない。まぁあれはどっちかというと 翼竜(ワイバーン) だったけど……。あとは 火蜥蜴(サラマンダー) なんかもいたな。

ちなみに、ダンジョンに配置しているモンスターの一部は、そんな旅先で出会った生物を基にデザインしていたりもする。閑話休題。

「僕は 星獣(アステラ) と呼んでいるけど、たぶん、今この宇宙で暴れている敵対生物のいくつかは、この竜みたいに、古代アセト文明が作り出した人造生物の 成(・) れ(・) 果(・) て(・) なんじゃないかな」

「なんとまぁ迷惑な……」

外来生物を野に放つ……のとはちょっと違うか。

言うなれば、実験生物が檻の外へ逃げ出してしまったようなものだろう。

「そもそも、何故こんな生物を創っていたんでしょう?」

「さてね。何かと戦っていたのか、知的好奇心か、はたまた可愛いペットが欲しかったのかもしれないよ」

「……ペットにしては、ごつすぎません?」

もしこれを“可愛い”と思っていたなら、俺は古代アセト人の感性を疑う。

まぁ美醜の価値観なんて星どころか国によっても全く違うが。

ともかくゼル爺の言葉を借りれば、ここは星獣を創るための研究施設だったわけだ。だから研究員たちが快適に過ごせるよう、宿泊設備が整っていたと。

「さっきの話だけど」

推定ドラゴンの画像とにらめっこしていた俺は、その声でゼル爺の方を向いた。

「どうして古代アセト文明が滅んだのか、って話」

「ああ、はい」

「内紛、実験による事故、次元遷移。いろんな説がある中で、僕の一押しは“神罰”かな」

不自然なほど埃一つ積もっていないデスク。

その上に指を走らせながら、ゼル爺が呟く。

「――創世神ア・ロアの眠りを妨げ、夢から醒めてしまったのだと」

この世界はア・ロアが見る泡沫の夢。

何人たりともその眠りを妨げるべからず。

この宇宙で広く信じられている創世神話。

「神の如き力を手にしたアセト人たちは、自分たちこそが本当の神になるべくア・ロアに挑んだ。そして、泡のように弾けてしまった。……という説。この後に大抵、だから汝、己が領分を越えることなかれ、という教戒がつくんだけど、まぁ蛇足かな」

随分オカルトめいた話だ。

そんなことを言ったら、転生だって十分オカルトか。

実際、この遺跡はある日突然人がいなくなってしまったような、そう、“空っぽ”という表現がよく合う。だから神罰が下ったのだと言われても、どこか納得してしまいそうな自分がいた。

それはそれとして――

「もしそれが本当だとしたら、神様も気の毒ですね。だって、気持ちよく寝ていたところを叩き起こされたようなものなんですから」

ゲームが佳境に入ると夜更かししてギリギリまで遊んでいた俺だ。貴重な睡眠時間を奪うやつは万死に値する。

神様だろうが人間だろうが、そこに変わりはないだろう。

なんて冗談めかして答えたら、

「……ふ、くくっ。あは、あはは! そっか、気の毒か。そりゃあそうだよね」

ゼル爺が本当に可笑しそうに、くつくつと笑った。

目尻に涙まで浮かべて。

「やっぱり君は面白いや、レグ」

「……それ、褒めてるんですか?」

「もちろん。僕が贈れる最大の賛辞だよ」

嘘つけ。どうせ反論したって無駄だから、ジト目で返してやる。

じとー。

さておき……。

「ゼル爺、質問なんですけど……その画像データって取り出せます?」

「うん? そうだね、他は全部消えちゃってるけど、これだけなら何とかコピーできるよ」

「だったら、私にください」

ここで飼育されていたドラゴン様が今どこの星海を羽ばたいてるかしらないが、見ていて閃くものがあった。

定番も定番。ザ・ボスといわんばかりの風格。

せっかくこんな辺鄙なところまで来たんだ。

何か一つくらい“お土産”を持ち帰ったって罰は当たらないだろう。

文明レベル5に至った神族からすれば、今更吸収するべき技術もないが、アイデアだったら話は別だ。

「ありがたいことに、最近のダンジョンは軌道に乗って安定してきました。ただ、安定というのはいつだって 旧態依然(マンネリズム) と隣り合わせです。だからそろそろ、刺激になるようなものを開催したいなと思っていたんです。たとえば、そう――」

腰に手を当て、誰に見せるでもなく胸を張った。

それからにやりと笑って言葉を紡ぐ。

「 大規模戦闘(レイドバトル) とか」

ここらで一つ、ビッグイベントといこうじゃないか。