軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

天使さま、ライブへ行く

うーむ。まさか当たってしまうとは。

我ながら自分の運が恐ろしい。

いや、これくらいツイてなきゃ、そもそも転生なんてしてないか。

「……さて、どうしたものでしょう」

ロゼリア号にて。おやつの豆大福にかぶりつきながら、俺は空いたもう片方の手で『それ』を弄ぶ。ぴらぴらと音が鳴った。

『オヤ、レグ様。その紙切れは?』

ちょうどお茶を注ぎに来てくれたフクレがこてん、と首を傾げる。

俺は待ってましたとばかりに、それ――長方形の紙を差し出した。

「ライブコンサートのチケットです」

『…… 演奏会(コンサート) 、デスか?』

「そう。ミーちゃんさん……前、一緒に配信を見たじゃないですか。大阪ダンジョンで活躍する〈吟遊詩人〉の探索者。その方が本業のソロライブを開催するというので、せっかくだから一般抽選に応募してみたのですが」

意図しないデストラップに、記念すべき切り抜き第一号。

ミーちゃんさんにはちょっぴし負担をかけてしまったから、お詫びの意味も籠めて、チケットの抽選販売に参加した。俺みたいなのでも賑やかしになればいいな、と思って。そしたらとんでもない。

開催地は関西のアリーナ。2万人のキャパに対して、チケット倍率はなんと20倍を超えたらしい。

さすが、今を時めく「迷宮時代の歌姫」だ。

こりゃ当たらないだろうな、とすっかり忘れていたんだが。

「物欲センサー……でしょうかね」

俺は再び、チケットをぱたぱたと見せびらかす。

「思いがけず、引き当ててしまいました」

『さすがはレグ様デス!』

「……どうも」

何でもかんでもヨイショすればいいってわけじゃないんだぞ、フクレ。

まるで俺が運だけ人間みたいだろ。

「ただ困ったことに、これ――ペアチケットなんですよね」

『フム』

「とりあえずフクレを連れていくのは確定として」

『エッ!?』

「それじゃ座席が埋まりませんから、誰を誘おうか迷っていました」

会場へは当然変装して行くつもりだ。この格好で向かったらイベントがおじゃんになってしまう。あくまで一観客として混ざり込むのだ。となればフクレは鞄の中。〈迷彩〉の 操霊術(エーテリア) をかけたうえで、人形のフリをしてもらう。

俺とフクレ。ペアと言えばペアなのだが、実際は一人分。折角のチケットが無駄になるのは多方面に申し訳ない。

だから数少ない交友関係を必死で思い返していた。

「…………」

まず父さんと母さんは駄目だ。どちらか一人しか誘えない。どうやったって角が立つ。 山戸(やまと) 家は旅行に行くなら家族全員で、というのが昔からのやり方だ。あと、単純に二人っきりというのが気まずい。いやまぁフクレもいるけどさ。

次に 龍二(りゅうじ) 。なかなか現実的なラインだ。アイツなら「おい、行こうぜ」だけで済む。済むんだが……店があるからなぁ。さすがの俺も、遊びたいから臨時休業してくれよとは口が裂けても言えなかった。

友人といえばハルもそうだ。

ただ、あの子が地球のライブを楽しんでくれるかどうかは、ちょっと自信がない。たぶん面白がってくれるとは思うんだけど、 論理的(ロジカル) な見方してきそうなんだよな……。ビートが速い曲は精神の高揚に寄与する、とかなんとか。

と、いうわけで。

「……業腹ですが、あの人に声をかけるほかないでしょう」

消去法で、仕方なくだ。

別に俺が一緒に行きたいわけでも、会いたいわけでもない。

仕方なーく、頭に載せた小冠を触る。

母星を旅立つ時に渡されたそれは、いつでも惑星ハーヴェンと、そこで霊樹を見守る『あの人』と繋がっている。だから明確に座標を計算しなくても、ぱっと〈念話〉を繋げることが出来た。

「もしもし、ゼル爺。今少し大丈夫でしょうか?」

どうせ年中暇してるんだから、俺が外に連れ出してやらなくちゃ。

まぁ、一応……世話になりっぱなしは趣味じゃないし……。

◇ ◇ ◇

迎えたライブ当日。

夕日で輝くアリーナの前には、長蛇の列が出来ていた。春前のまだ肌寒い風が、ポールに飾りつけられたペナントをはためかせる。あちこち看板が立って、どこを見てもミーちゃんさん一色だ。

「おぉー……」

思わず感嘆の声が漏れてしまう。あんまりキョロキョロしたら おのぼりさん(・・・・・・) って思われちゃうかな。気をつけないと。

前世、俺はライブどころか、こういう大型イベントとまるで縁が無かった。

地方住まいだし、興味があっても遠出しなければならなかったのと、バイトで稼いだお金は全部ゲームソフトに使ってしまい、いつも素寒貧だったのだ。発売カレンダーと睨めっこして、どのタイトルを買うか悩んでばかりいたから、下手すれば移動代だけでソフト一本分消える趣味は兼任出来なかった。

たとえば歴史あるゲームの周年フェスとか。

ゲーム音楽をメインにしたクラシックコンサートとか。

あと新作ゲームのお披露目会とか。

いつか大人になって、たくさんお金が使えるようになったら、一度くらい行ってみたいなぁと考えたものだ。

まぁ俺は――山戸耕助少年は、大人になることが出来ず、死んでしまったわけだが。それが何の因果か、今こうして 有翼人種(ハーヴェン) 族のレグ・ナとなり、立派な 興行施設(アリーナ) を見上げているんだから、不思議なものだ。

ある意味、前世の夢を一つ叶えたと言えるかもしれない。

「良い活気だね。得てして、未開拓惑星とはそういうものだけど」

感傷に浸る俺の横で、同行者がぽつり。

冬の装いに身を包んだゼル爺が、上から目線で言う。上からというか、もはや大気圏外レベルだ。シックなコートにマフラー。もちろん羽は畳んで見えない。恰好だけなら、周囲によく溶け込めていると言えそうだ。

問題は、それを着ているのがとびきり眉目秀麗な人だということ。

黄金の髪に、海のような瞳。

もう目立って目立ってしょうがない。

「ちょっとゼル爺。今日は完全オフで来てるんですよ。そういう仕事を思い出させるような言葉、使わないでください」

対して俺はいつものお忍びセットだ。

前世使っていた男物のコートに、キャスケット帽とサングラス。俺がお忍びスタイルなら、ゼル爺は貴人の外遊スタイルって感じかな。飛行機のタラップから降りてくる様子なんかがばっちり似合いそう。

「フクレもそう思うでしょう?」

『エ、ええと』

俺の肩掛け鞄から、フクレが触腕を二本出して擦り合わせる。

『回答は差し控えさせていただきたく……』

ちょっといじわるな質問だったかな。

鞄の隙間から覗くクラゲ頭を、ぽよんとひと撫で。

そんな俺たちは、周りからさぞ浮いた存在だろう。だからそこにいることだけは分かるけど、何となく見過ごしてしまう――そんな目くらましの 操霊術(エーテリア) を発動していた。これがなきゃ街中なんて歩けない。

「なんだ。僕はてっきり視察に呼ばれたのかと思っていたよ」

「どこの世界に保護者同伴で出張する人がいるんですか」

「ははは。だって君、同行してくださいとしか言わなかっただろう」

「それは……」

しょうがないだろ、誘い方が分からなかったんだから!

ゼル爺相手に「遊びにいこう」って言うのもなんか変だし……「今度の週末、暇?」も違うだろうし……。

「とにかく! 早いとこ並びましょう。開演時間に遅れたら大変です」

「そうだね、そうしようか」

嫌にニコニコしているのが気に食わないが、ゼル爺を引っ張って歩き出す。

本当は開演まであと45分くらいあって、つっこまれなかったことにほっとする。

物販――ライブ限定のグッズが欲しければ、もっと前から待機しないといけないだろうが、俺は歌だけ聞きに来たので、この時間になった。

一本の川を築く人々の群れ。

俺もその流れに混ざろうと近づいて。

「――ねぇ、アナタ」

ふと、声をかけられた気がした。

もちろん、今の俺は〈迷彩〉の操霊術をかけている。

誰かに見とがめられるわけがない。

「そう、そこの綺麗な銀の御髪の……アナタ」

まさか術が解けたのかと思ったが、違う。

俺は弾かれたように振り返った。そうせずにはいられなかった。

「ああ、やっぱり! どうしてアナタが奏のステージに――いえ、詮索はよしましょう。あの子の歌が天まで届いた、と。そう言うことなんでしょう。光栄の至りね。ああ、ダメダメ。抑えなきゃ、ワタシ……!」

柔らかな物腰に、艶やかな黒髪。

上品な色合いのストールを巻いた男性が、俺の目の前で身もだえする。

「ふぅ、よし。御使い様。万に一つ、世界が取りたくなったらココに連絡してちょうだい。ワタシの全てを賭けて、アナタを光り輝かせてみせるわ! ……それじゃ、今日はきっと最高のライブになるから。ぜひ、最後まで楽しんで」

煌めくネイルで差し出された名刺。

思わず受け取ると、その人は軽く手を挙げていなくなってしまう。

正に一瞬、嵐のような出来事だった。

俺はぱちぱちと目を瞬く。

「……ええと。なんだったんでしょう、今の」

まさか俺にしか見えない幽霊、じゃないよな。困惑しつつ、貰ったというか押しつけられた名刺を見る。なになに、「ホワイトホースプロダクジョン」? え、芸能事務所――もしかして今、スカウトされてたの!?

そんな、そんなの……俺が攻略対象キャラになって「プロデューサー。」とか言っちゃうやつじゃん! 無口系クールキャラでニッチな人気を博すやつだこれ! いや落ち着け、思考がゲームに支配されてる。

そもそも、なんで目くらましの術が効かなかったんだ。

「君の熱烈なファンか何かじゃないのかい。それにしたって、ああも簡単に看破されるとは詰めが甘いねぇ、レグ。また一から修行をつけてあげようか」

「うっ。もしかして赤点ですか……?」

「いや。君の術は完璧じゃないけど、不完全でもなかった。まあ補講ギリギリの出来だよ。補講ギリギリ」

「なんで二回言ったんですか!?」

異議を申し立てる。絶対必要なかったろ。

「時々いるんだよ。ああいう『目』を持った人間は。独特の審美眼を持って、惑わされない。さておき――帰ったらテストだね」

「あ、あー、早く並ばないとー」

『レグ様、こちらお預かりします』

鞄からしゅっと触腕が伸びて、名刺を預かってくれる。

俺はゼル爺の台詞を聞かなかったことにし、両手を振って駆けだした。

しっかし、ああいうスカウトって本当にあるんだなぁ。フィクションの中だけかと思ってた。まぁ今の俺はガワだけなら超絶美少女だし。声をかけたくなるのも無理はない。さすがにダンジョンマスターをやめて、急にアイドル目指したりはしないけど。

今度、龍二のやつに自慢してやろう。

……いや、もし双子ちゃんに聞かれたら面倒くさいことになりそうだから、やめとくか。テレビ出るの? とか言われたら困るし。