軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

032 発車のベルが鳴る

セレスティーヌは、待合室の時計に目をやる。もうすぐ、次の汽車がホームに入ってくる時間だった。

エヴァルド様がいなくても、アルバート様なら何とかしてくれると思っていた。

しかし待合室で待ちながら落ち着いて来ると、流石に王宮からの指示を回避するのは難しいだろうなと思い始めた。

何より、時間もそんなに無かった。セレスティーヌが乗って来た列車から、二時間程しか間が空いていない。

二時間の間に、王宮に問い合わせて解除を願うなんて無理だろうと推測する。

ここで夜を明かす訳にはいかないし、やはり一度インファート王国に帰るしかないだろうと時計を見ながら考えていた。

セレスティーヌは、さっきから溜息が止まらない。やっと自分の気持ちを自覚して、それを伝える覚悟を決めたのに……。

上手く行かないなとがっかりする。

こう言う星の下に生まれてしまったのかしら? と自分に呆れる。

でも、仕方ないと席を立ちボストンバックを持つと待合室から出る。さっき買い直した切符を手に、ホームに降り立ち列車が来るのをただ待っていた。

空は、インファート王国を出て来た時と変わらずに良く晴れた青だった。天気が良いのだけは、救われる思いだ。

これで雨が降っていて暗くどんよりとした天気なら、セレスティーヌは泣いてしまったかも知れない。

それくらい、エヴァルドに会えない事が残念で寂しかった。

エヴァルドから渡された、指輪を胸元から出す。無くさない様に、チェーンに通してネックレスとしてずっと肌身離さず持っていた。

これを渡された時に、会えない理由が出来ても必ず会いに行くと言ってくれた。まさか本当にそうなるとは思っていなかった……。

セレスティーヌは、これがあれば必ずまた会えるよねと指輪を握り締める。

遠くから、シュッシュと言う汽車の音が聞こえる。段々と近づいて来た汽車は、ガタンと大きな音を立ててセレスティーヌの前に停まる。

乗客が下りて来るのを黙って待っていた。人の波が引くとセレスティーヌが、一番近くの扉の前に行き汽車に乗る。

すぐに客室に行く気になれず、ボストンバックを扉の脇に置き、手すりにつかまりながら発車するのをその場所で待っていた。

ああ、何でだろう。何で会えずに帰らなくちゃいけないの……。

セレスティーヌが、込み上げてくる涙を堪えながらホームの改札をじっと見つめていた。

ジリリリリリリーン

発車のベルが鳴り響く。

その時――――。

「セレスティーヌ!!」

改札からエヴァルドが、セレスティーヌの名前を叫びながらホームに走り出て来た。それを目にしたセレスティーヌが、大きな声でエヴァルドを呼んだ。

「エヴァルド様ー!!」

エヴァルドに、セレスティーヌの声が聞こえセレスティーヌの方を見る。

その瞬間、エヴァルドとセレスティーヌの目が合った。

セレスティーヌを見止めたエヴァルドは、全速力でセレスティーヌの元に走って来る。その間も、発車のベルがずっと鳴り響いたまま。

セレスティーヌは、どうしようとオロオロする。降りるべきなのか、このまま乗って行くべきなのか……。

そうこうしている間に、ゆっくり扉が閉まり出す。

そしてエヴァルドが、閉まり出す扉に滑り込んで来た。

それと同時に、ガチャンと扉が閉まる。シュッシュッとゆっくり汽車が走り出す。

「エヴァルド様!」

セレスティーヌが、驚いて声を上げる。エヴァルドは、全速力で走って来たからか息を切らせて肩で息をしていた。

しかしエヴァルドがセレスティーヌを見ると、ガバッとエヴァルドがセレスティーヌを抱きしめる。

「よ……か……った。まに……あ……った」

息を切らせながらも、エヴァルドが言葉を絞り出す。セレスティーヌは、突然きつく抱きしめられ何が起こったのかわからなかった。

「君に言いたい事があるんだ」

少しずつ息が落ち着いてきたエヴァルドが、セレスティーヌに告げる。それを聞いたセレスティーヌも、そっと手をエヴァルドの背中に回して言葉を発した。

「私も、エヴァルド様に言いたい事が出来たんです」

エヴァルドがそれを聞き、手を緩めてセレスティーヌの顔を見る。セレスティーヌもエヴァルドの顔が見られて、ホッとする。

いつもよりも凛々しい、男性の顔だったけれど変わらずに優しい瞳だったから。

エヴァルドが、セレスティーヌから一歩離れ両手を優しく握り締める。

「じゃあ、僕から言わせて欲しい」

エヴァルドの真剣な眼差しが、セレスティーヌに注がれる。セレスティーヌが、コクンと頷く。

「セレスティーヌ、僕は君が好きだ。ずっと一緒にいて欲しい」

セレスティーヌは、聞こえた言葉に驚く。でも、嬉しさが後から襲って来て感情が高ぶり目に涙が浮かぶ。

「嬉しい」

セレスティーヌが、ポツリと零す。

「エヴァルド様、私も貴方が好きです。私が貴方を幸せにしたい」

今度は、エヴァルドが驚く番だった。

エヴァルドは、そんな事を言って貰えるなんて思ってもいなかったので戸惑う。嬉しいのと、恥ずかしいのと色々な感情がごちゃ混ぜになって顔が赤くなっていく。

「それは、僕のセリフだよ……」

エヴァルドが、照れている。

「ふふふ。だって本当なんだもの。エヴァルド様。私、国に帰って色々わかったんです。今までの事、全部無駄じゃなかったって。だって、今までがあったから貴方に会えた。普通の人生を送っていたら、絶対に国を出ようとなんて思わなかったから」

セレスティーヌが、目をキラキラさせて笑顔でエヴァルドを見ている。エヴァルドは、セレスティーヌの言葉に耳を傾け、続きを促す。

「でも、じゃーもう一回同じ事してって言われても、それは無理なの。愛する事を知ってしまったし、愛される事を知ってしまったから。あんな歪な環境で生活なんてもう出来ない。だから人生って、一回なんだと思う」

セレスティーヌが、誇らしげに言葉にした。

「そうだね。私も、今までの人生をもう一回と言われても無理だと思う。あんな寂しい人生は、もう耐えられない」

エヴァルドが、握っていた手にギュっと力を入れる。

「僕は、君に会うのを待っていた気がする。だから、もう離せない」

そう言ってエヴァルドが、もう一度セレスティーヌを抱きしめる。セレスティーヌもエヴァルドを抱きしめ返す。

「エヴァルド様、ずっとずっと私の隣で笑っていてね。エヴァルド様の笑顔が大好きよ」

セレスティーヌが、愛を呟く。恋を知らなかった女の子が、様々な経験の果てに辿り着いたこの感情。この人を幸せにしたい。とてもシンプルな答えだけど、とても大切な事。

今あるこの気持ちを、二人で大切にしていこうと心に誓った。

汽車が、愛し合う二人を乗せて青々とした木々達の間を走り抜ける。特に目を引くような景色ではないけれど、この日常の景色にこそ幸せがあるのだと教えてくれているようだった。