軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 声援とフィニスと

「武装類のチェック完了です。携行品についても問題ありません」

「先行警戒ルートと進行プランもおっけーっす!」

シルクとネネの報告に頷いて、うっすらと〝塔〟が見える空を見上げる。

時刻は……早朝。フィニスであれば朝一番の鐘の音が鳴る頃。

しっかりと冒険装束に身を包んだ俺達は、避難キャンプの入り口に集まっていた。

「ねぇ、本当にギルマスにいわなくてよかったワケ?」

「一度は折れてくれたが、今日になってまた待てと言われるかもしれないからな」

「そんなこと、言わないと思うケド」

ジェミーもそれなりの付き合いだとは思うが、俺の方が付き合いが長い。

自分で言うのもなんだが、ベンウッドは俺にちょっと過保護なところがある。

心配してくれるのはありがたいことだが、今は急ぐ理由がある。

「あとで、謝ろ。今は、マリナを、助けなくっちゃ」

「そうね。あの気色悪い男を叩きのめして、さっさとマリナを助け出しましょ」

気合を入れ直すジェミーの姿に、俺も深呼吸して佇まいを正す。

「『死の谷』の王廟と同じく、今回も速攻だ。消耗を押さえて、〝塔〟に進行。そのまま奥まで進んで、マリナを確保。そのまま『第七教団』の頭を叩く」

「いつになく強気っすね」

「こう見えて、俺は狭量な男でね。自分の大切な人を道具みたいに扱われて少しばかり頭にきてる」

俺の言葉に、レインとシルクが顔を見合わせて笑う。

「ユークの、そういうところ、いいと思う」

「先生って、時々びっくりするくらい男の子ですよね」

「女誑し。でも、たまにはこういうユークも悪くないわね」

ジェミーまでもが、それに加わって笑う。

まったく、俺って人間をどんな風に見てるんだか。

「どのくらい地形が変わってるかにもよるっすけど、できるだけのルート取りはしてあるっす。〝塔〟につくまではお任せくださいっす!」

「頼りにしてるよ、ネネ」

「にゃっす!」

「それじゃあ、行こう。街まで頼むぞ、ラプター君」

御者台に飛び乗って、 走大蜥蜴(ラプター) に〈 身体強化(フィジカルエンチャント) 〉の魔法を施す。

速度があがれば乗り心地も悪くなるが、そこは我慢してもらおう。

全員が馬車に乗り込んだのを確認して、街道へと走りだす。

トロアナで高速運輸用の特別車輛を用意してもらったので、多少無茶をしても車輪や車体が壊れることはないはずだ。

オルダン湖畔森林の避難キャンプから、フィニスまではおよそ歩いて一日程度。

この魔法で強化した 走大蜥蜴(ラプター) であれば、数時間……昼までには到着する。

日が落ちる前に〝塔〟へと進み、目的を達成するのが目標だ。

『朗報! 我らが「クローバー」がフィニスに帰還したと報告が入ったぞ!』

『これで態勢は整いましたな。〝勇者〟の帰還はこの問題の解決を大きく進ませるでしょう』

レインが起動したらしい【タブレット】から、ショウさんとガトーさんの配信音声が御者台に漏れ聞こえてくる。

そういえば、この二人にも感謝をしなくては。

緊急配信や情報配信のおかげで、フィニス避難民の混乱は比較的少なかったと聞いた。

ガトー・ツォーミ男爵とは面識があるが、ショウさんとは会ったことがない。

きっと王立配信局の誰かだとは思うが、帰ったら直接お礼を言いに行きたい。

『フィニス奪還はここから始まるわけですが、ガトーさん……今回はどうでしょうか?』

『ここまでは避難や救助といった対処行動がメインだったわけですが、おそらく「クローバー」の帰還によって攻略にシフトすると考えられます』

『というと?』

『王立学術院の見解によると、あの建造物……我々が端的に塔と呼んでいるものの内部は特殊な 迷宮(ダンジョン) となっていることが予想され、特殊な呪いが蔓延しているそうなんですよ』

『の、呪いですか!?』

『触れるだけで危険なのですが、なんと「クローバー」にはその呪いに耐性があるそうなんです』

大雑把な説明だとは思うが、まあ……大枠で間違ってはいない。

人が自身の在り方を失って反転し『影の人』となるなんて、呪い以外の何物でもなかろう。

『なるほど、「クローバー」を待っていたってことですね!』

『そうなります。特に「クローバー」はいくつもの迷宮災害に対処してきた実績がありますから、ここから反撃となるでしょう』

『なるほど、なるほど! では、各地の声を聞いてみましょう』

画面が切り替わったらしい身近なノイズ音。

そして、フィニスの人々の声が聞こえてきた。

『「クローバー」が戻ってくれて安心した』

『やっぱり、フィニスには「クローバー」がいないと』

『私、以前にこの子と一緒に助けてもらって。だから、きっとまた助けてくれるって信じてます』

そんな声の中に紛れるようにして、知己の声もあった。

『なに、かの 赤魔道士(ウォーロック) とその妻たちならば心配あるまい。あれは我がサルムタリアをも救った真の英傑ぞ?』

「ユーク、マストマ王子が、写ってる」

レインが【タブレット】を手に、御者台に身を乗り出してくる。

差し出された【タブレット】の画面には、確かに尊大で真摯な俺の友人が映っていた。

『見ておるか、ユーク・フェルディオ……わが友よ。此度の件、サルムタリアはあらゆる援助を惜しまん。お前は、お前の進むべき道を迷わず征け』

「マストマ……!」

予期せぬ激励に、胸が熱くなる。

そして、それは多くの人々に伝播した。

『頑張ってくれよ、「クローバー」!』

『応援してるぞ!』

『オレ達は心配いらない!』

『行け、「クローバー」!』

多くの声に後押しされるようにして、街道をひた走る。

遠くに見えていたはずの〝塔〟が徐々に近づいてきていた。

「戻ったっす」

崩壊した城壁の内側から、【 隠形の外套(ヒドゥンマント) 】を羽織ったままのネネは足音一つ立てずに戻ってきた。

その顔には、ありありとした緊張が浮かんでいる。

「どうだった?」

「ちょっと想像以上だったっすね」

小さく息を吐きだして、折りたたんだ地図を取り出すネネ。

「このルートとこのルート、それとここもダメっす。もう〝 溢れ出し(オーバーフロウ) 〟って言うより、動いてない〝 大暴走(スタンピード) 〟っすよ」

「そんなにか……!」

ある程度の予想はしていたが、どうやら俺にしてもネネにしても見通しが甘かったらしい。

魔物の数が予想より多く、街の崩壊具合が予想よりひどかった。

三度の先行警戒で、ネネも少し消耗している。

「まずは中間地点まで進むのはどうだ?」

「 魔物(モンスター) の動きが結構流動的なんすよ。下手したら取り囲まれちまうっす」

「手薄なところを狙って、各個撃破はどうでしょうか?」

地図を覗き込んだシルクが、一点を指さす。

中央街区に繋がる大通りを少し外れてはいるが、ほぼ最短距離だ。

「戦闘したら、周りから集まってくるかもしれないっすけど……それが手堅いっすかね」

「消耗は抑えたいが、道がないなら切り拓くしかないだろうな」

まごついて、時間を浪費するのもマズい。

日が落ちてしまえば、そこからは 魔物(モンスター) 有利の時間だ。

突破するのがさらに難しくなってしまう。

「よし、シルクの案を採用しよう。それでいいか?」

「ん。了解、です」

「アタシも異論ないわ。行きましょ」

頷く仲間達に、俺も気合を入れ直して 魔法の鞄(マジックバッグ) から『ゴプロ君』を引っ張り出す。

『配信』するかどうか、ぎりぎりまで迷っていたが……やはりするべきだと結論した。

ここは冒険都市フィニス。冒険配信の最先端を行く場所だ。

俺達がこれから為そうとすることを、『配信』で人々に届けることはきっと意味がある。

「『配信』開始」

ふわりと浮き上がった『ゴプロ君』が、変わり果てたフィニスの中へと足を踏み入れる俺達を静かにレンズに収めた。