軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第23話 避難キャンプとフィニスの現状

「ベンウッド!」

「おう、戻ったか」

フィニス近郊。

オルダン湖畔森林がほど近い平原に、『フィニス避難キャンプ』は設営されていた。

俺が考えているよりも、ずっと規模が大きい。

このまま町として発展しそうなくらいに。

「無事でよかった。冒険者ギルドも仮設置か?」

「ああ。スタッフが踏ん張ってくれてな、ちょっとした町みたいだろ?」

俺達を出迎えたベンウッドの顔は少しばかり疲れが見えるが、まだまだ目に力があった。

「早速だがエドライト共和国での詳しい報告と、今後の段取りについて話したい。現状の精密な情報も頼む」

「せっかちな奴だ。少し休んだ方がいいんじゃねぇか?」

「あまり猶予がない、かもしれない。それについても相談させてくれ」

俺の言葉に、ベンウッドが小さく頷いて答える。

「わーった。どっちにしろ、こっちもお前に報告せにゃならんことがあるしな」

ベンウッドの後に続いて、大きめのログハウスといった風情の冒険者ギルドへと向かう。

思ったよりも、整備された様子に少し驚く。

この辺りはオルダン湖畔森林から豊富に木材が取れるとはいえ、数日でこうも体裁を整えることができるのだろうか。

「驚いただろ?」

「まあな。もっとひどい状況かと」

「ここらは有事の際の避難ポイントとしてあらかじめ整備されてんだ。ま、儂の仕事だな」

「そうなのか?」

冒険者ギルドの私室に俺達を招き入れたベンウッドが、簡素な椅子に腰を下ろす。

「キナ臭ぇと思ったら備えとくもんだ。実際、Aランクパーティどもを呼ぶのも含めて結構ギリだったけどな」

「ギルドマスターはこの状況を読んでいたのですか?」

ベンウッドの言葉に、シルクが驚いた様子で問う。

それに口角を上げて、ベンウッドは首を振った。

「いいや? だけど、あの日アンバーウッドが『おかしい』って言ってくれたんでな……備えておくことにしたワケだ。当たってほしくねぇ予感ばかり当たんのは勘弁って感じだけどな」

そう小さく笑ったベンウッドが、俺達にも椅子を促す。

「それで? エドライトで何があった?」

「『第七教団』と搗ち合った。俺達が思っていたよりずっとマズい組織だったらしい。あいつら、ここで〝淘汰〟を引き起こすつもりだ」

「手紙でもらった報告にもあったな。この状況を起こしているのが連中だってのも、マジか?」

「ああ、間違いない。それで、その中心にマリナがいる」

「あの嬢ちゃんが? どういうことだ」

ベンウッドの問いに、『 旧王都(ジョウ・ココ) 』での出来事をかいつまんで話す。

事実と推測が混じった話にはなったが、ベンウッドはそれらを静かにうなずきながら聞いていた。

「『アンケリアス神』、か。聞いたことねぇな」

「別の次元にいる『 異貌存在(イモータル) 』だろうって推測しかできない。何を引き起こすつもりかは、不明だ」

「どうせ碌なことじゃねぇだろうよ。それで、どうする?」

「当然、フィニスに踏み込む。〝塔〟まで行ってヤツらを叩くさ」

俺の言葉に、仲間達が強くうなずく。

すでに覚悟も、プランも決めているのだ。

「中央街区――〝塔〟周辺は、 魔物(モンスター) が多い。まるで守られてるみてぇにな」

「あそこが 迷宮(ダンジョン) 災害の中心部だしな。だけど、俺達は行く。マリナを助けて、ヤツらを止めるよ」

「はあ、言い出したら聞かねえ。その頑固さはサーガ譲りか?」

「叔父さんほどじゃないさ。でも、叔父さんと同じに俺にだってやらなくちゃならない時がある」

『無色の闇』の最奥。

この世界をずっと蝕んできた〝淘汰〟を倒すために、サーガ叔父さんは犠牲になった。

俺に後を託して。なればこそ、ここで無為に足踏みをしていることはできない。

それにマリナを助けることと、『 第七教団(ヤツら) 』の野望を挫くのは同義だ。

どちらにしても、為さねばならないことという点では、シンプルな目標となる。

「なら、強行突破しかねぇな。だけどよ、お前らだけじゃ無理だ」

「やってみるさ」

「おいおい、ユーク。焦るんじゃねぇよ、 迷宮行動(ダンジョンワーク) のセオリーを守れ」

ベンウッドがテーブルの上に地図――フィニスを描いたかなり精密なもの――を広げる。

加えて、【タブレット】も一つ、取り出した。

「 都市斥候(シティスカウト) をに頼んで制作したリスクマップだ。お前らが住んでいた居住街区はこの辺り、で、中央街区がここ」

「……中央街区が赤いっすね?」

「危険度によって色分けされてる。中央街区自体が危険で立ち入りできない状態だ。〝塔〟周辺の状況確認に入ろうとした 都市斥候(シティスカウト) が、何人もケガして戻って来てる」

「で、壊される前に定点で拾った配信がこれだ」

【タブレット】に映し出されたのは、 魔物(モンスター) がひしめく中央広場、冒険者通り、そしてギルド前広場だ。

以前に現れた『 単眼牛鬼(タウロプス) 』の姿も複数あった。

「AランクからBランクの魔物が複数。それ以外にもやべぇのやらよくわかんねぇのがごろごろいる。おかげで、いまやフィニスは 迷宮(ダンジョン) 指定されてるくらいでな」

「 迷宮(ダンジョン) 指定ですって? 国はフィニスを放棄するつもりなの?」

「落ち着け、ジェミー。おそらく、都市安全条項を回避するための一時的措置だ」

都市内での武器や魔法の使用は犯罪に問われる可能性のある行為だ。

それは冒険者の多いフィニスでも、当然に禁じられている。

武器を携帯する者が多い冒険都市だからこそでもあるのだが、内部に入って救援活動をするには、邪魔になってしまう。

特にこのような事態となってしまえば、都市を守るための法律が冒険者の行動を制限しかねない。

それ故に、フィニスを暫定的に 迷宮(ダンジョン) 指定としたのだろう。

「ネネ、シルク。これらを回避して〝塔〟に近づく方法を考えてくれ。俺も錬金術師の視点から何か考えてみる」

「わかりました。周辺の精霊に呼びかけて方策を練ってみます」

「フィニスはウチの庭っすからね。抜け道が無いか、ちょっと考えてみるっす」

そう頷く二人に俺も頷いて返し、ベンウッドに向き直る。

「急ぐ理由があるんだ。マリナを一刻も早く助けないと」

「あの嬢ちゃんにどんな関係があるんだ?」

「わからないが、教祖の『パパ』を名乗る男は、マリナにこだわりを見せていた。『祝祭』とやらにマリナが必要なのは確定的だ」

口には出さないが、それによってマリナを 消(・) 費(・) される可能性がある。

真に受けるわけではないがあの男はマリナ……『アンケリアスの子供たち』を作った、と言っていた。

そして、マリナが『最後の生き残り』だとも。

そこから推論するに、ヤツらにとっても最後のチャンスということになる。

きっと、これまでの間に何度も失敗してきたのだ。あいつらは。

マリナのような『アンケリアスの子供たち』の命を擦り潰しながら。

そして、マリナという最後の希望で成功してしまった。

おそらく、俺のせいで。

俺がマリナに『 存在証痕(スティグマタ) 』を付与したから。

異界を渡り、異界に馴染み、その上で自信を保持する特別な力は、『第七教団』が求める最後のピースだったに違いない。

「止めても無駄か?」

「できれば止めないでくれ。何とかするさ……マリナを助けて、フィニスを取り戻す。それができなきゃ〝勇者〟なんて廃業だ」

自嘲気味な言葉を口にして、小さく苦笑する。

こんな肩書がなんなのかという思いはあるが、少なからず自分に寄せられた期待の重みを感じるには役に立つ。

少なくとも、この肩書は俺が〝淘汰〟と戦うという意思表示でもあるのだ。

「頑固者め。わかった、食事と寝床を準備するから今日のところはまず休め」

「その前に、ルンについては?」

「すまん、わからん。あの娘はオーセンの弟たちを避難誘導した後、フィニスに戻ったんだ。やることがまだあるから、とな」

申し訳なさそうに目を伏せるベンウッドに、俺は空元気で笑顔を作って返す。

「ルンのお転婆には困ったもんだ。帰ったら説教しないとな」

「ええ、しっかりとしないといけませんね」

「ボクも、する」

シルクとレインがきりりとした俺に続く。

「じゃあ、慰めるのはウチとジェミーさんの役目っすね」

「あら、アタシも説教側よ? マリナと一緒に正座してもらうわ」

「そりゃいい。俺達が心配した分、しっかりと反省してもらわないとな」

全員で小さく笑い合う。

フィニスでの日常を取り戻すのだ、という強い意志が俺達の中で炎のように揺らめいていた。