軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 見送りと国境

「嬢ちゃんのことはこっちでも進めとく。わかったら報せを飛ばすからよ」

「ああ、頼んだ。こっちも何かわかったらすぐに知らせるよ」

フィニス東街門。

早朝にも関わらず見送りに来てくれたベンウッドと、軽く握手を交わす。

事情はネネが昨晩に説明しておいてくれたので、伝わっている。

「みんな、いってらっしゃい! 気を付けて行ってきてね」

「アリガト。ニーベルンも留守番お願いね」

「うん! マリナちゃんが帰ってきたら、ちゃんと捕まえておくね」

聡い子だ。

きっと、自分だって不安だろうにこうして笑ってくれる。

これはいよいよ俺も情けない顔をしてはいられないな。

「ユークさん、こちらを」

ベンウッドと同じく見送りに来てくれたママルさんが、手帳のようなものを俺に差し出す。

少しばかり真新しいそれには、びっしりと付箋がついていて歴戦の冒険手帳に見えなくもない。

「私の方で集めていた『第七教団』の情報です。精度はそれなりのはずですが、情報が少なく、あまり深くまでは探れませんでした。なんだか少し嫌な感じがします。あくまで参考程度に頭に入れておいてください」

「助かります」

「ネネをよろしくお願いしますね」

ペコリと頭を下げるママルさん。

それに会釈を返しつつ、ふと顔をあげてフィニスの街並みを見る。

最近、旅立つときのルーティンとなっているのだ。

俺達『クローバー』が帰ってくるべき場所。

それを目に焼き付けておくのは、生まれ故郷を失った俺にとってそれは、重要な儀式なのかもしれない。

マリナがいない今は、特にそう思える。

……一緒に、ここへ帰って来たいと。

「エドライト共和国の各都市にある冒険者ギルドには、顔を出しておいてくれ。適宜、情報を共有できるようにしてある。配信もだいたいの場所で通じるらしいから、こっちのニュースも確認できる」

「わかった。いろいろと手を回してもらってすまないな、ベンウッド」

「それがワシの仕事だからな。気を付けて行ってこい」

肩を叩くベンウッドに頷いて、仲間達に目配せする。

そろそろ出発しないと、予定に遅れてしまう。

「いってらっしゃい! ルン、待ってるね!」

「ああ。できるだけ早く帰ってくる。いい子で待っててくれ」

「ちゃんと歯磨きするんですよ。ジュースは夜に飲まないこと!」

「困ったらテックかギルマスに頼るのよ?」

「お野菜もちゃんと食べるんすよ! お土産、一杯買ってくるっすからね!」

「配信、するから、寂しくないよ」

手を振るルンに、各々応えて馬車に乗り込む。

ウェルメリア王国西端のフィニスから東の隣国エドライト共和国へ行くには、王国を横断しなくてはならない。

街道があるとはいえ、それなりに長い道のりになる。

それを見越して、いい馬車を用意したが。

「それじゃあ、行ってくる。朗報を待っていてくれ」

御者席から軽くそう告げて、俺たちは冒険都市フィニスを後にした。

東へと進むこと十日。

途中、クアロトで小休止を取った俺達はエドライト共和国の国境地帯へと進んでいた。

なだらかな丘陵地帯の中を、小気味よく進んでいく馬車。

「向こうに見えてる山は、もうエドライト共和国だ」

「景色は、あんまり、変わらないね?」

「そう言われてみれば、そうだな」

レインの言葉に、小さく笑う。

これまで行ったことがあるサルムタリアやヴィルムレン島は、ウェルメリアと大きく気候も文化も違っていた。

だから、知らず知らずのうちに少しばかり身構えてしまっていたのかもしれない。

「目的地は、ノエド自治区の、『旧王都ジョウ・ココ』……だっけ?」

「ああ。ママルさんのメモによると、そこが『第七教団』の本部がある場所で、配信が行われた場所でもあるらしい」

「……罠、かも?」

「ああ。それは俺もわかってる」

馬車を操作しながら、小さく頷く。

配信をすれば、経由した配信局の位置からある程度場所がバレるのは知っていて当たり前の知識だ。

それがわかっていて、このような配信をするということは……何か意図があってのことかもしれない。

「配信、ここでも、見れるの、かな?」

「どうかな?」

「やって、みる」

少しばかり空気が重くなったことを察してか、レインが 魔法の鞄(マジックバッグ) からタブレットを取り出して、起動する。

「えーっと、まだウェルメリアの配信しか、見れない、みたい」

「国境で魔導通信を制限してるのかもな。あの配信は違法な 魔法道具(アーティファクト) を経由してたって話だし」

「エドライトの 魔法道具(アーティファクト) 配信とか、あればいいのに」

どうだろうか。いや、きっとあるな。

エドライト共和国は新技術に目がない国だ。

きっと、 魔法道具(アーティファクト) にしたって、新しいあの国に相応しい洗練されたメーカーがあるに違いない。

「先生? そろそろ御者を代わりましょうか?」

「いや、国境までは俺がやるよ。そっちの方が、何かとスムーズだろうしな」

「わかりました。でも、お疲れになったらいつでも言ってくださいね」

サルムタリアほどではないが、エドライト共和国も少しばかり女性を下に見る風潮があると聞く。

革命という手段を用いた以上、それは暴力による変革であり……それは膂力がある男性によって進められたのだろう。

であれば、男性優位の社会形成になっても不思議ではない。

まあ、昨今は女性の権利槓子どうも活発になってきていると聞くが。

ともあれ、俺が矢面に立つ事で余計なトラブルから仲間達を守ることができる可能性は高い。

特に国境付近はデリケートなやりとりになることもある。

パーティリーダーでもあり、男性でもある俺が話をした方がいろいろと安心だ。

ゆるやかな上り坂を進んでいくと、街道の先に煉瓦作りの壁が見えた。

どうやら、あれが国境らしい。

「みんな、念のために冒険者タグを用意しておいてくれ。言われたらすぐに見せられるように」

背後の馬車に向かって声をかける。

隣のレインも、首にかけていたタグを胸元からするりと取り出した。

それに併せ、俺は腰に下げた 魔法の鞄(マジックバッグ) から、いくつかの書類をまとめた物を用意する。

ベンウッドと王国政務官が用意してくれた、俺達の身分を証明して便宜を図ってもらうための各種種類だ。

「さぁ、ここからはエドライト共和国だ。気を引き締めていくぞ」

「ん。慎重に、楽しも」

隣に座るレインが、俺の台詞を奪い去って小さく笑った。