軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 夜歩きと思い出話

「大満足!」

夜になっても人通りが多い大通りを歩きながら、マリナが満ち足りたように声を上げる。

その姿にほっとしつつも、またカラ元気じゃないだろうかと少し不安にもなった。

結局……具体的な話は何も聞きだせなかったのだ、俺は。

「酒場でたくさん食べると、『クローバー』を結成したての頃を思い出しちゃうよね」

「ん?」

「ほら、初めて挑んだ 鋼鉄蟹(スチールクラブ) 。ユークが弱体魔法だけでやっつけちゃってさ! その後、みんなで打ち上げしたよね」

マリナの言葉に、記憶がよみがえる。

そうだった。あの日、俺は押し切られるようにして『クローバー』のリーダーになったのだ。

その時も今日みたいにたくさんの料理が並んでいて、マリナは今日みたいにたくさん食べていた。

「ユークがきてから、世界がすっごく広がった感じ。ザルナグとの戦いはギリギリだったし、『アイオーン遺跡迷宮』は不思議だった」

「そうだな。でも、それを言ったら『クローバー』に俺を誘ってくれたのはマリナだったろ? いまでもすごく感謝してるよ」

俺の言葉に、満面の笑みを浮かべるマリナ。

「あれはね、あたしの人生で最高のクリティカル・ヒットだったよね! 偶然って言うか、運命? みたいな感じ。」

「そうだな、そうかもしれない。じゃあ、マリナは俺の運命の女神だな」

「もう、ユークったら。うん、でも……ユークと、みんなと一緒の冒険はすごく楽しいものばかりだった。危ないこともいっぱいあったけど、嬉しいこともたくさんあったよね」

思い出話をしながら、マリナがふわりと微笑む。

いつものマリナとは少し違った、何処か大人びた顔に少しばかりどきりとする。

こんな顔も出来たんだな、と。マリナの新しい一面を見た気分だ。

「ユークはいつも最高にかっこよくってさ。あたし達のリーダーになってくれて、ホントよかったなーって思ってる」

「おいおい、持ち上げ過ぎだ。さては酔っ払ってるな?」

「そんなことないよ。あたし、ユークのこと大好きだもん!」

立ち止まったマリナが突然反転して、ダッシュハグを敢行する。

「おっと」

慣れたもので、軽く受け止めてそっと抱きすくめる。

酒で火照ったマリナの体温が柔らかな体から伝わって、少しばかり胸が高鳴ってしまった。

まったく、往来でこんなことをするなんて……今日のマリナは相当酔っているらしい。

「今日のマリナはなんだか積極的だな」

「そう、かも。ユークにね、ちゃんと伝えておかなきゃって」

「どうしたんだ? 急に改まって」

ぎゅっと抱いてから、頭をそっと撫でる。

酔っているとはいえこんな風に甘えてくるなんて、今日のマリナは少しヘンだ。

「ううん。なんでもない! ほら、あたしったらいつも突然でしょ?」

「まあ、言われてみれば?」

「だから気にしないで。せっかくユークと二人っきりだから、伝えておきたかっただけなの」

にっこりと笑うマリナ。

この快活な笑顔に、何度も励まされたことか。

「これからも一緒なんだ、焦らなくたっていいさ」

「うん、そうだね」

目を伏せて、小さく笑うマリナ。

さて、俺は何か不安にさせるようなことをしただろうか。

「そろそろ、帰る? 明日出発だもんね」

少し寂し気に小首をかしげるマリナに、首を振って応える。

このまま帰るというのは少しもったいない気がしてきた。

レインの「許してあげる」が脳裏でうっすらと残響したが、それを振り払ってマリナの手を握る。

「もう一軒行こう。今度はちょっと高い酒を飲める店に」

「え、あたしなんかが行って大丈夫? 普段着だし」

「そこまで高級ってわけでもないさ。興味ないか?」

「ちょっとだけ……あるかも」

遠慮がちにうなずくマリナに小さく笑って、手を引く。

明日にはまたフィニスを離れるのだ。

少しくらい贅沢したって、天罰は下るまい。

「少し歩くけど、いいか?」

「もちろん! すっごく楽しみ」

ご機嫌な様子で跳ねるように歩くマリナに苦笑しつつも、夜の街を行く。

結局のところマリナから悩みを聞きだすことはできなかったが、この様子を見るにどこか吹っ切れたようでもある。

だったら、マリナ自身が心の整理ができた時に自然に話してくれるのを待ったほうがいい。

そんなことを考えながらふと隣を見ると、マリナと目が合った。

はにかむように笑ったマリナが、今度は小さな声で耳打ちする。

「ユーク、大好き」

耳に残る囁き声が、静かに俺の胸を満たして温かくさせた。