軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話 世界樹と再会

ネネの先導で 迷宮(ダンジョン) の気配が濃くなっていく『琥珀の森』を進む。

幾度かの遭遇戦で足止めをされたものの、どうやら終着点は近そうだ。

「……すごい、ね」

隣を駆けるレインが、木々の隙間に見え始めた異様な物体を見上げてそう漏らす。

そろそろ日が落ちるという頃合い、周囲が徐々に暗くなっていく中でそれは奇妙な存在感を放っていた。

「あれが、世界樹か……!」

頬の疼きが少しずつ強くなる中で、うっすらと輝くそれを俺も見上げる。

これだけの大きさであれば、森の外──いや、島の外からでも視えそうなものだが、近づくまで俺達はそれを全く認知できなかった。

『賢人は木を隠すために森のを作る』なんて古い言葉があるが、まさに文字通りの状況だ。

ヴィルムレン島に広がる『琥珀の森』は、この世界樹を隠すために造られた森に違いない。

精霊たちが迷い、惑わせ、認知を逸らすことによって……ダークエルフ達の至宝たるこの琥珀色に輝く大樹を隠しているのだ。

「方向的に、シルクさんがいるのは世界樹の方向っす。どうするっすか? ユークさん」

「このまま踏み込む。何があるかわからない、みんな準備してくれ」

俺の言葉に、森の中を進む全員が頷く。

言葉通りに、何があるかわからない。

だが、シルクはおそらくイルウェンと共にいるだろう。

何か事情があるにせよ、まずはシルクと合流するのが先決だ。

もしかすると、イルウェンとは戦闘になる可能性もあるが……こちらはパーティだし、前回の様に不意を狙われることもない。

彼とてそこまで愚かではないはずだ。

木々の間を抜け、世界樹の根元へと踏み入る。

そこには、やはり二人のエルフの姿があった。

「シルク!」

叫ぶようにしてかけた声に、イルウェンが振り向く。

そして、あからさまに不機嫌そうな顔をして、大きなため息を吐きだした。

「また君か、ユーク・フェルディオ」

「イルウェン・パールウッド! シルクを返してもらうぞ!」

「これは異なことを。彼女は僕の片葉だよ?」

まるでエスコートするようにして差し出したイルウェンの手を、シルクがそっと握って振り向く。

振り向いた彼女は少し目を伏せつつ、俺に小さく会釈した。

「ユークさん、ここまで来ていただいたことは嬉しいのですが……できれば、みんなを連れてこのまま退いていただけませんか?」

「シルク?」

「いろいろ考えた結果なんです」

「なら、その考えを聞かせてくれないか? 君の選択を尊重したいとは思うが、このまま君を置いて帰ることはできそうにない」

小さく首を振った、シルクが小さく俯いて言葉を紡ぐ。

「全ては、わたくしの不徳が致すところなのです」

「わかるように言ってよ、シルク!」

「それじゃ、わからない、よ?」

マリナとレインの言葉に、シルクが目線を上げる。

その目じりには、小さく涙が光っていた。

「『琥珀の森』の守護者、世界樹の継承者。そういった立場をわきまえず、自分本位な幸せを求めた結果、戦争が起きるかもしれないのです」

「なんだって……!?」

「エルフの同胞にも過激な思想を持つ者達がいます。彼らは、『サンダーパイク』がわたくしを黒エルフと貶め、ライトエルフとダークエルフが仲違いをしていると喧伝したウェルメリア王国に強い怒りと敵意を持っています」

シルクが話す内容に、隣に立つジェミーが膝を震わせている。

あの時、ジェミーは『サンダーパイク』として現場に立ち会っていた。

サイモン(あのバカ) を止められなかったことを悔いているとも、言っていたはずだ。

だからこそ、責任を感じているのかもしれない。

「……だからこそ、わたくしとイルウェンは今こそ世界に表明せねばならないのです」

決意した瞳で、シルクが取り出したのは黄金の光を淡くまとう【ゴプロ君G】

野営地を出る時に、起動したはずのこれがなぜここにあるのか。

そして、シルクが何をしようとしているのか。

「イルウェンッ! シルクに何を!?」

「僕はただ事実と正しいことを教えてあげただけさ。何もかもが上手くいくように……ね」

【ゴプロ君G】が、ふわりと宙に浮かび上がる。

そのレンズに映るのは、シルクとイルウェン……そして、俺達『クローバー』だ。

「さぁ、シルク。始めよう……!」

「はい、イルウェン」

周囲の木々が生きているかのようにざわつき始め、大きな震動が足元を揺らした。

「な、なにが起きてるの?」

「わからない!」

バランスを崩したジェミーを支えつつ、俺は何かをしようとするシルクとイルウェンを視界に入れる。

目を閉じて小さく浮かび上がるシルク。

そして、ゆっくりと開かれたシルクの瞳は……琥珀の輝きを発していた。

「素晴らしいよ、シルク」

どこか恍惚とした表情でイルウェンが笑う。

そんなライトエルフの前にシルクが跪いて首を垂れた。

「イルウェン・パールウッド。琥珀の護り手たるわたくし、シルク・アンバーウッドが認めましょう──あなたこそが、我らが王であると」

そう告げたシルクが、イルウェンが差し出した手を取ってその甲に口づける。

次の瞬間、ぞっとするような感覚が広がって……『世界樹』が 口(・) を(・) 開(・) け(・) た(・) 。

「見るがいい。これが『真なる森の王』に許された宮殿の入り口だ」

どこか芝居がかった様子で、笑うイルウェン。

その背後にみえる穴は木の 洞(うろ) の様にも見えたが、まったく異質な気配を伴った何かにも見えた。

エルラン長老の話が正しければ、『世界樹』というのは、内部に【 深淵の扉(アビスゲート) 】を内包した 迷宮(ダンジョン) にして次元跳躍装置である。

イルウェンが口にする『真なる森の王』については、何も聞いていない。

「さらばだ、ユーク・フェルディオ。この先に訪れる新世界でまた会おう」

「……それでは、失礼します。ユークさん、みんな。心配しないでください」

シルクとイルウェンが『世界樹』に向かって歩き出す。

背を向けた二人が、溶けるようにして世界樹に消えた。

「シルク、待ってくれ!」

シルクを追って駆け出した俺だったが、次の瞬間……膝をついて倒れる。

何が起きたのか理解ができなかったが、熱感と痛み、そして腹に滲む血に自分の状況を否応なしに理解することとなった。

「ユーク!」

レインの悲鳴じみた声が聞こえると同時に、腹から何か固いものが引き抜かれる感触があった。

ああ、これはまずいな。致命傷かもしれない。

一体、何が起こった?

血を吐きながらも、目の前に立つ下手人を見上げる。

「君は……ッ!?」