軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 野営とジェミーの嘘泣き

密林の夜は早い。

というよりも、そもそも鬱蒼としている『琥珀の森』では、少しばかり日が傾いただけであっという間に夜闇があたりを満たしてしまうのだ。

「この中継ポイントで半分といったところだな」

もはや役に立たぬ地図を広げて、俺は小さく息を吐きだす。

簡易テーブルの上には、魔力を充填中の『ゴプロ君G』。

細い『黄金』の気配をたどって配信しているせいか消耗が激しく、野営中は配信を止めている。

ウェルメリアでは今頃大騒ぎになっているかもしれないが、ガトー男爵やベンウッドたちが上手くやってくれていると信じよう。

念のため、【 手紙鳥(メールバード) 】も飛ばしてはいるが、海を越えられるか五分五分だ。

「それにしても、結構消耗したな……明日からのペースを少し考えないと」

そう独り言ちながら、地図に踏破したルートを書き込んでいく。

道中、地形と植生が変化していたために相当に時間を食う羽目になった。

ヴィルムレン島の外縁でも変化が起きている以上、『琥珀の森』でも何かしらの変化はあると考えていたが、 迷宮(ダンジョン) 化の影響はかなりあるようだ。

なにせ、この森に慣れているタイムス達一行ですら、景色を見失ってしまうことがあった。

しかも、深部──『世界樹』に近づくにつれて、その変化は大きくなっている様で、明日以降も相当な強行軍になるだろうことが予想される。

「簡易テント立ててきたよ!」

後ろからマリナが勢い良くハグを決めてくる。

相変わらずの勢いに苦笑しながらも、この距離感に少しばかり安心した。

不安が増せば増すほど、マリナの明るさというのはありがたく感じる。

「どうしたの? ユーク」

「予定よりも少し遅れているからな、プランを練り直しているんだ」

「そう? あたし的にはスムーズだったと思うけど?」

確かに、何度かあった未確認の魔物との遭遇戦は問題なく撃退できたし、日が落ちるまでに目的地であるここに到達するという目標も達成している。

どうも単純な話、俺に余裕がないだけの話なのかもしれない。

タスクは予定通りなのだ、そう焦ることもないだろう……そう考えて、背後のマリナに軽く体を預ける。

「ありがとう、マリナ」

「ん? よくわかんないけど、どういたしまして?」

無意識でも人の心を軽くするのは、マリナのいいところだ。

「後衛組、清拭終わりました。……って、マリナ? 先生に何してるんですか?」

「えへへ、栄養ほきゅー」

笑い声と共に離れる温もりを少し名残惜しく感じつつも、俺は声の主──シルクに振り返る。

「それじゃあ食事にしよう。タイムスさん達はどうする?」

「わたくし達の作った食事は口にはしないでしょう。 警固(レンジャー) ですし、食事は持ち込んでいるはずです」

俺としては食卓を囲むことで少しでも交流を持ちたいと思ったが、距離を詰めるだけがコミュニケーションではないのもわかる。

あいにく、シルクを除く俺達は彼等にいい顔をされていないので、仕事以上のかかわりをあえて持たないのもお互いのためかもしれない。

「今日のスープは何かなぁ」

「いつも通り、【 常備鍋(スープストック) 】の気分次第だな。どれ……」

地面に設置した魔法の鍋をお玉でコンコンと叩いてやると、みるみるうちにスープが満たされていく。

漂う香りはスパイシーで、少し懐かしい匂いがした。

「これ? え? ……すごい」

なんのスープだったかと考えていると、レインが鍋の前にしゃがみ込んだ。

くんくんと匂いをかぎながら、 魔法道具(アーティファクト) フリークが目を輝かせる。

「これ、はじめて、かも。サルムタリアの、ラ=ジョで食べた、やつ」

「ああ、山羊肉の……」

確か、『リュミショ』と言ったか。

香辛料に付け込んだピリ辛の山羊肉を、これまた香辛料たっぷりのミルクで煮込んだサルムタリアの家庭料理。

サルムタリアでは何度も口にしたが、【 常備鍋(スープストック) 】から湧いて出るのは初めてのことだ。

「どうして、かな? 【 常備鍋(スープストック) 】が、覚えた? それとも、偶然?」

「なるほど、持ち込んだ場所のスープ料理を覚える、か。面白い考察だ」

「では、ヴィルムレン島のスープもいずれ湧くのでしょうか?」

「検証したいところだけど、気分屋だからなぁ」

軽く笑って【 常備鍋(スープストック) 】を見る。

迷宮(ダンジョン) で拾った当初は、ところどころ欠けた汚い鍋だったのだが、いまや俺達に欠かせない大切な相棒だ。

「さぁ、宿の人にもらった肉も焼いたし、パンもある。食べたら休んでくれ」

「他人事みたいに指示出してるけど、アンタも休むのよ?」

皿を配る俺に、ジェミーが小さく釘をさす。

「そうっす。見張りのローテーションは決めたはずっすよね?」

「そうですよ、先生。タイムス達もおりますし、休める時に休まないと。ここに発つまでだって少しオーバーワークでしたし」

ネネとシルクもジェミーに加勢するようにして、俺をジト目で見る。

「……ゴメン、ユーク」

「え」

「前に『サンダーパイク』が不意打ちをしちゃったから、気にしちゃってるんだよね」

小さくぐずり出すジェミー。

その肩を抱いて、マリナが俺を指さす。

「ユークがジェミーさん泣かせたー! いけないんだー」

「ダメ、だよ? ユーク」

「違うんだ! そういうワケじゃなく……」

確かに、あの時のことが少し俺の警戒心を強くしてる部分は確かにあるが、仲間のコンディションを保つのもサポーターの役割だと思っているからだ。

だいたい、『サンダーパイク』時代だって、俺が夜通しの夜番をずっとしていたじゃないか。

「……わかった。二交代制で行こう。君たち全員と俺で」

「夜番は二人ずつの三交代制だったはずっすよ? 最初は、ユークさんとジェミ

さんっすね」

「アタシと夜番はイヤなワケ……?」

「そんなわけないだろ? わかった、予定通りにする、するから! 悪かったよ、ジェミー」

「うん。一緒がんばろうね」

にこりと笑うジェミーに、些か唖然とする。

まさかと思うが、嘘泣きか?

「一本取られたな」

「半分は本気よ。でも、アンタがちゃんと休まないと、アタシ達だって気が休まらないの。特にアタシはね」

軽く俺を抱擁しながら、耳元で囁くジェミー。

「ジェミー……君は」

いまだに彼女は『サンダーパイク』であった頃の自分を責めているようだ。

俺は、いや俺達はとっくに彼女を許して──むしろ感謝しているくらいなのに。

だが、償いの終わりを決めるのは俺でなく彼女なのだ。

で、あれば。

それを否定せずに受け入れることも、またジェミーのためだろう。

「ジェミーさんは強いっすねぇ」

「なかなかの、役者」

「む、これは先生を陥落させかねませんよ」

「さすがジェミーさんって感じだよね」

こちらを見てヒソヒソする仲間たちに、笑顔で振り返ったジェミーが小さく舌を出す。

「ふふ、五年も片思いしてたのよ? 簡単には負けないわよ」