軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 残り時間と準備の焦り

「準備次第、行動を開始する。まず、俺達『クローバー』は三つの〝 国選依頼(ミッション) 〟を同時進行で行うことになった」

「三つも!? なかなかはりこんだっすねぇ」

「まぁ、な。だが、どれも『王廟』の攻略に必要なことなんだ」

そう、俺は決断した。

『王廟』の初見完全攻略を、だ。

かなり無茶であることも、ハイリスクであることも理解した上で、それを選択した。

「一つ目は、配信用中継 魔法道具(アーティファクト) の設置だ」

これは錬金術師である俺と、動作に詳しいレインがいるために任された。

加えて、中継ポイントにできそうな場所はネネが探してくれた。

スピードを重視するなら、俺達で設置した方が安全で速いし、専門の技師は『ラ=ジョ』での調整に集中できる。

「二つ目は、『王廟』へのルート確保と内部環境のチェック及びその配信。ここまでは一気にやってしまいたい」

こちらは本格的な攻略に向けた軽い下見である。

正面から突入するのか、他に進入ルートがあるのか。

また、〝 溢れ出し(オーバーフロウ) 〟を起こしている迷宮の 魔物(モンスター) との遭遇率はいかほどか、という事を確認せねばならない。

また、配信や録画に収めておくことで、『ラ=ジョ』での準備に幅が出る。

いざ突入、となったときにまごついたりしないためにはこれも必須だ。

「そして、三つ目。『王廟』の攻略。これらをできるだけ素早く行う」

「ウェルメリアから冒険者派遣があるんですよね? それからではダメなのでしょうか」

「間に合うならそれに越したことはない。だけど、基本的には〝 大暴走(スタンピード) 〟が発生した時の防衛戦力だ。俺達はそれが起こる前に『王廟』に突入してしまいたい」

始まってしまえば、おそらく防戦一方となる。

迷宮に速攻をかけられる状況ではなくなる可能性が高い。

あるいは、〝 大暴走(スタンピード) 〟が蹂躙を始めたタイミングで手薄になった『王廟』に踏み込んでもいいが、被害はかなり大きくなるだろう。

俺は、それを良しとしたくない。

それにニーベルンの言葉が気になる。

いや、それ以上に……俺の感じる圧力じみた不快感が、気になるのだ。

『王廟』は何かおかしい。

そもそも、土地の魔力豊かなサルムタリアにダンジョンが一か所しかないというのがおかしいし、それが今まで秘かに封印されていたということもおかしい。

サルムタリア王家が隠匿した歴史を紐解いてる時間はないが、背後事情が分からないのは俺をひどく不安にさせる。

「……あのね、お兄ちゃん。ルンも、近くまで連れて行って欲しいの」

悩む俺の袖を小さく引くニーベルン。

それに対して、シルクが口を開いた。

「ルンちゃん。『死の谷』はとても危険な場所ですよ?」

「うん。わかってる。でも、ルンを『王廟』のそばまで連れて行ってくれれば、わかることもあると思うの」

「どういうことか、説明できるか?」

ニーベルンを椅子に座らせて、俺はその瞳を覗き込む。

一瞬怯んだ様子を見せたものの、すぐに力強いまなざしを返した少女が、小さくうなずいた。

「ルンは、〝黄金の巫女〟だから……歪みがわかる。『死の谷』は歪みが多いと、思うの。だって、ヘンだもん」

要領を得ない説明ではあるが、ニーベルンの繊細な感覚を言葉にするのはなかなか難しいだろうと思う。

俺の痣とて、人に説明できるような感覚ではない。

しかし、それはそこに確実にあるのだ。

「『グラッド・シィ=イム』のようにか?」

「ちょっと違うけど、えっと……ズレてるって意味では、同じ? うーんと、二重になって捻じれてるっていうか、ごめん……ルンには、説明できない」

しょんぼりとするニーベルンをマリナが抱き上げる。

「いいよ! 一緒に行こう」

「いいの?」

「ルンがあたし達にわからない何かを感じてるなら、きっとそれはヒントになるよ! あとはユークに任せとけば、きっとあたしにもわかるようにしてくれるもん」

マリナの期待が重過ぎる、とは思いながらもニーベルンの同行はありだと思えた。

彼女の〝黄金の巫女〟としてのセンスは、マリナの言う通り俺達に何かしらのヒントをもたらす可能性は高い。

それが突破口にだってなるかもしれない。

「よし、ニーベルンを連れて行こう」

「わかりました。では、準備品目にルンの冒険装束も追加しますね」

シルクに言われて自分の失念に気が付く。

魔物(モンスター) はびこる危険地帯を行くのだ。

ルンにも最低限の装備は必要だろう。

「ありがとう、シルク」

「いいえ。ユークさんをサポートするのがわたくしの役目ですから」

にこりと笑うシルクに、思わず苦笑を返す。

サポーターは俺のはずなのだが。そろそろ頭が上がらなくなってきた。

「では、各自準備を始めよう。シルクとマリナはルンを連れて装備と必要物品の準備。俺とレインはボードマン子爵のところで配信中継 魔法道具(アーティファクト) の引継ぎ、ジェミーはベンウッドと防衛計画について詰めてきてくれ」

各々が頷いて、席を立つ。

そんななか、立ち上がる俺の袖を猫人族が引いた。

「私はどうしたらいいっすか?」

「ネネは休憩だ。昨日も夜警で谷に出てたろ?」

「う、ぐ。バレてるっす」

必要な情報を得るためなのだろうが、相変わらずネネという娘は頑張りすぎる。

ありがたくもあるが、些か心配なので、このタイミングで休息をとってもらおう。

「どうしてバレたんすか?」

「夜な夜な出ていればいやでも気が付くよ。できるだけ出るときにはひと声かけてくれ。長持ちする付与魔法をかけるからさ」

俺の言葉に、ネネがへにゃりと耳を倒す。

「面目ないっす。心配かけちゃったっすね?」

「わかってるならいい。俺にとっちゃ君も家族なんだ。無理だけはしないでくれよ」

「はいっす」

「じゃあ、ほら。休んだ休んだ」

俺の声に反応したメイドの一人が、小さく頭を下げてネネの腕をつかむ。

「にゃ!?」

「よく見張っておいてくれ。最低六時間は休息をさせておきたい」

「かしこまりました。それではネネ様。参りましょう」

そのまま引きずられる様にして部屋から出ていくネネを見送って、俺とレインは配信用 魔法道具(アーティファクト) がある施設へと向かった。