軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 段取り確認とジェミーの働き

国宝級 魔法道具(アーティファクト) 【魔導飛空帆船フォルネイア】による空の旅は、非常に快適で非現実的な体験だった。

高位の魔法使いともなれば空を飛ぶ魔法が無いこともないが、眼下に広がるウェルメリアの大地を全員で眺めたり、空に浮かぶ船に乗って日の沈む地平線を見ながら食事をする機会など、人生でそうありはしない。

俺自身も初めてで得難い体験ではあるが、仲間たちにとってもいい思い出になっただろう。

「そろそろ到着ですね。いかがでしたか、フェルディオ卿」

「おはようございます、ボードマン子爵。卿はやめてくださいよ、俺のこれはハリボテです」

「何、貴族などみなそうですよ。ハリボテでもって体面を保っているんです」

俺の苦笑にボードマン子爵が軽く笑って返す。

「特に我々、王立学術院の人間はだいたいそうですよ。好きなことをするためには、こういう立場が必要なこともある。今回の君のようにね」

「わかります。俺は、うまくこれを使えるでしょうか?」

「自然体でいいんですよ、自然体で。そもそも、君は迷宮伯だ。それは冒険者が王の意向で好き勝手するための便利な切符です」

ドゥナの時は気が付かなかったが、ボードマン子爵というお方はなかなかアケスケであるらしい。

「お、こんな所にいたか、ユーク」

地平線を眺めながらボードマン子爵としばし話し込んでいると、背後から野太い声がかけられた。

「ベンウッド。どうしたんだ?」

「ボードマン子爵も一緒とは都合がいい。現地に到着してからの段取りを確認したくてな」

「そうか。後少しで到着だものな」

快適で興味深い空の旅は終わり、いよいよ俺達は仕事に取り掛かる。

眼下に広がる岩と森におおわれた大地は、もうサルムタリアの領土なのだ。

「もうすぐ午後になる。搬出作業もこなせば日が落ちる直前に間に合うかどうかってところだな」

「少し遅れたんだな」

「ああ。それでも期日に間に合うようには運んでくれた。友好国とはいえ国外だ。安全のために【 魔導飛空帆船(フォルネイア) 】はすぐに離陸しなきゃならん」

「だろうな」

一応迎えを寄越してくれる算段にはなっているらしいが、それでも外国は外国。

国宝級 魔法道具(アーティファクト) を軽々に長く留め置くことは、いろいろな不利益となる可能性がある。

加えて、【 魔導飛空帆船(フォルネイア) 】は王の乗り物だ。

これが二週間も王都にないというのは、忙しくするビンセント王にとってのリスクになりえる。

これが無くては王の外遊は陸路となり、それは襲撃の機会を与えることになりかねないからだ。

「マーシュ湖に着陸して、荷物を降ろし……湖岸で一泊かな」

「先方の護衛と機材運搬用馬車が到着しているはずだ。夜間の移動はないだろう」

「そうですね。我々学術院としても夜間移動は避けたいところです、土地勘もありませんしね」

ベンウッドとボードマン子爵が頷き合う。

そもそも向かう街自体が今回新しく作られたのだ。土地勘云々以前に道が整備されているかどうかすら怪しい。

マストマ王子の事だから、うまくやってくれると思いたいが。

「【魔物除けの香】も持ってきてるし、一晩くらいは何とかなるだろう」

ベンウッドの奴、一応仕事しているらしい。

「それ、アタシが準備したんですケド。マスターはさぼりすぎ」

「おう、ジェミー。なかなか優秀な働きじゃねぇか。他は?」

「荷下ろし用のロープ指示と、下船順序も説明終わってるし、あとは野営用装備の一部荷解き始めてもらってる。子爵、学術院の人にも声かけて手伝ってもらったけどよかったかしら?」

「もちろん。驚いたな、本当に優秀だ」

子爵に褒められて、小さく目をそらすジェミー。

照れているらしい。

「マジで優秀だろ、ウチの職員はよ」

目配せしてくるベンウッドに俺はうなずく。

まさか、俺を顎で使って水まで注がせていたジェミーが、こうもてきぱきと行動できるなんて。

「少しばかり驚いた」

「ユ、ユークまで! アンタを少し見習っただけだし……あ」

声に出してからジェミーが、口元を抑える。

「そうそう、コイツよ……『冒険者に戻ったら今度はアタシがユークを助けられるようになるんだー』って張り切ってんだぜ」

「ちょ、ギルマスッ!?」

「秘密にしろとは言われとらんからな、ガハハハ」

ジェミーの力強さに欠ける平手を背中に受けながら、ベンウッドが豪快に笑う。

「いまのでも十分助けられてるよ。ありがとうジェミー」

「いや、まあ……うん。アタシも悪かったと、思ってるから」

顔を赤くしてそっぽを向くジェミーの手を取る。

「ひゃう!?」

「悪い、驚かせたか? これを渡そうと思って」

その手にシロツメクサの意匠が付いたチョーカーをそっと置く。

「これ……」

「パーティのメンバーが全員これをつけてる。ジェミーにも受け取ってほしいんだけど、どうかな?」

ジェミーにはいろんな道があると、俺は思っている。

このまま冒険者ギルドの職員として働く道もあるだろうし、他な仕事を探してもいい。

だが、冒険者に戻るというなら……同じ道を歩むというなら、俺はジェミーを『クローバー』に迎えたいと思っている。

だから、これは少し早めの勧誘だ。

「いいの?」

「嫌なら突っ返してくれ」

「嫌なんて言ってないし。でも、アタシ……いいのかな」

「なら受取ってくれ」

俺の言葉に、ジェミーの目が大きく見開かれる。

そして、じわりと涙に潤んだ。

「うん。おねがい、します」

俺の手を握って、ジェミーがうつむく。

素直な様子の彼女にはまだ慣れないけど、きっとそのうち慣れるだろう。

その頃には、仲間たちとももっと仲良くなっているはずだ。

「おいおい、ユーク。仮にも俺様の前で職員の引き抜きとはやってくれたな」

「なに、まだしばらくは預かってもらう。せいぜいジェミーを大事にしてくれよ」

「はン。小僧がぬかしやがる」

ベンウッドと軽口の応酬をしながら、ジェミーの頭を軽く撫でやる。

「アンタのそういう天然さってずるい……」

「へ?」

俺の返事に、ベンウッドとボードマン子爵が軽く笑い合う。

「これは爵位を与えておいて正解ですな」

「やっぱりサーガの血筋だよ、こいつは」

意味深に笑い合う二人に首をかしげている俺の背後で、着水準備を知らせる鐘がカランコロンと鳴り響いた。