軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 家族と正妻

飛び上がってしばらく。

さっきまで怯えていたシルクは、仲間たちと一緒になって目を輝かせて地平線を見ていた。

……俺も、同じだけど。

こんな光景を見られるなんて、我が王には感謝しないと。

さすが、元冒険者であるビンセント王は俺達冒険者の事をよくわかっていらっしゃる。

余人には想像もつかないだろうこの景色そのものが、俺達冒険者にとっては報酬になりえる。

「こりゃすごいな」

連なる山々、霞む地平線、遠くに見える海らしき青。

何もかもが、人生初めての景色だ。

「すごい景色だね、お兄ちゃん」

「ああ。落ちないように気をつけろよ? ニーベルン」

「ルンは子供じゃありませんので」

小さく頬を膨らませるニーベルン。

まあ、心配はしていない。彼女には未だ『黄金の巫女』としての力が少しばかり残っている。

『普通の女の子』として生活するには過分な力ではあるが、身を守るには充分な力だろう。

「しかし、ついてくるとは予想外だったよ」

「ルンも、残るつもりでしたけど……『黄金』の影響が遺跡にあるといけないと思ったの」

「そうだな。いや、責めてるわけじゃないんだ。でも、できるだけ俺たちやベンウッドのそばを離れないようにしろよ?」

「うん!」

年相応の可愛らしい笑顔でニーベルンが頷く。

妹ができたようで、少しばかり嬉しい。

「ユーク」

ニーベルンに景色の説明などをしていると、レインが俺の裾を小さく引いた。

「どうした?」

「えっと、思ったんだけどね。ボクら、ユークをどう呼んだら、いい?」

「んん?」

どういう意図の質問だろうか。

俺が首をかしげていると、少し顔を赤くしたレインがもじもじと指を弄びながら俯く。

「その、今回は、制度上……ボクらは、ユークの、『妻』だから」

「あー……」

「そうなの?」

何故か嬉しそうにするニーベルンに俺は苦笑しながら小さくうなずく。

『フェルディオの所有物である』ということにしている以上、彼女たちは建前上、『妻』としての立場になる。

先方とのやりとりを齟齬なく円滑にするための特例措置ではあるが、彼女らが『 シロツメクサの家紋(フェルディオ) 』を身にまとう以上、対外的にはそう振舞わねばならない。

少なくとも、サルムタリアにいる間は。

でなければ、以前にドゥナで起きたようなトラブルが起こることになるだろう。

「今までどおりは、まずい、かも?」

「いやー……いいんじゃないか?」

「家長を呼び捨ては、ヘン、かも?」

言われてみればそうかもしれないが、想定外だったな。

「例えば?」

「えと、〝旦那様〟?」

「……!?」

レインから放たれた言葉の攻撃力に、思わず怯む。

これは、恥ずかしいというかなんというか、何とも言えない感じがする。

「普段通りでいいよ、うん」

「そう?」

「ああ。俺達が外国人ってことは向こうも理解してるはずだし、それはみんなの安全を保障するものだから。俺との関係が変わるわけじゃないし」

「ふふ、残念」

悪戯っぽく笑ったレインが、俺の指先を握る。

「正妻は、ボク、だからね?」

「え、ずるい! ルンも!」

話を聞いていたルンが、眉を小さく釣り上げて俺の裾を掴む。

「ルンは、まだ、子供だから……!」

「子どもじゃないもん!」

レイン……ニーベルンに張りあってどうするんだ。

とはいえ、そうか。向こうにつく前にそれも決めておかねばならないな。

サルムタリアでは『女主人』と呼ばれる正妻が複数の妻らを取りまとめるらしい。

『女主人』は夫の名代も務める事があり、公私にわたって夫と稼業を支える重要なポジションとなる。

うちだと……近いのはシルクだろうか。サブリーダーだし。

対外的にシルクは折衝にも出席するだろうし、あとで打診しておこう。

それと……

「ニーベルン。ほら、これ」

レインとじゃれ合うニーベルンの髪に、小さな髪留めをつける。

仲間たちと同じ、シロツメクサの意匠のものだ。

「帰ってから渡そうと思ってたんだけど。一緒に行くなら渡しておくよ」

「やった。これでルンも家族です!」

はしゃぐニーベルンの頭を撫でやる。

「これがなくたって俺達は家族だよ。でも、向こうにいる間は外しちゃだめだからな?」

「うん」

「む、ユークはルンに、甘い。ボクも、甘やかすべき」

詰め寄るレインに苦笑しつつも、彼女の髪に触れる。

風に流れる髪がさらさらと指先をすり抜けてくすぐったい。

「んふっふ」

「あーッ! ずるい!」

ご機嫌に笑うレインを目ざとく見つけたマリナが駆け寄ってくる。

そして、そしてそのまま俺にハグを強行した。

鎧を着ていないので、ダメージはないが些か軽率すぎる。

「こら、危ないぞ」

「ユークなら大丈夫だもん!」

その信用はありがたいが、船から落ちたら助ける術はないぞ。

「もう、マリナ。ダメですよ」

「やっぱりマリナにはロープをつけておくべきっす」

シルクとネネが駆けつけて俺からマリナを引きはがす。

「あら、ルンもお揃いになったのね?」

「ああ。冒険活動に同行はさせるつもりはないけど、ニーベルンも『クローバー』の一員だからな」

笑顔のシルクに頷きながら、俺はさっきまで考えていたことを思い出して口を開く。

全員そろっているし、伝達事項を共有するにはちょうどいい。

「ああ、シルク。サルムタリアについたら、君を〝正妻〟にしようと思う」

凍り付いた周囲を見て、俺は言葉選びをしくじったのだと理解したが、後の祭りだった。