軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一の試練(聖王国Side)

試練は順調に進んでいた。

というか、手出しができなかった。なにせナリキン本人はそこにおらず、毎日定時に魔道具に姿を現し、ダンジョンを探索していくのだ。

曰く、『毎日配信』というスタイルらしい。

「ラギル様。配信とやらをしていない時には聖書を隠しているのではないか、と言うのはどうでしょうか?」

「バラクド、それは無理だ。残念ながら民が納得しているだろう。配信していない時間は部屋にいるようなものだし、毎日同じ時間に姿を見せているのだ」

ナリキンが聖書を所持しているのを確認したければ、いつもの時間に魔道具を見に来ればいい。そこに聖書を所持したナリキンがいる。

「……これに文句をつけるなら、手本を示さねばならないレベルの話よのう。往来でテント生活、いや、テントすら使わず生活しなければならなくなるぞ」

「で、ではあの魔道具を破壊してしまえば?」

「バカモン! あんな国宝級の魔道具だぞ!? どこの国か分からんが、間違いなく国際問題になるわッ!」

「全部ナリキンのせいということには」

「……仮に魔道具の持ち主が帝国だとしてみろ、魔道具の被害を口実に嬉々として聖王国に攻めてくるわ! 教皇様不在の今、ひとたまりもない!」

ああなんと厄介な。まずどこの国の王族とつながりがあったのか、それがハッキリしなければ、下手に動くこともできない。

王族とは言っていたが、帝国の皇族ということもあり得る。その程度の言い繕いは誤差だし、特定を防ぐため王族と言った、と言われればそれまでの話だ。

「こうなってしまっては、見守るしか……ないっ……!」

ラギルは歯を食いしばり、机をダンッ! と叩いた。

もはやダンジョンで帰らぬ人になるか、聖書が破損するかを期待するしかない。

だがしかし、ナリキンは生き生きと、まるでご近所を散歩するかのような気楽そうな笑顔でダンジョンを練り歩いている。そのくせ、聖書は油断なく守る。

たとえば、こんな配信をしている時もあった。

『さて、今日は少し趣向を変えて朗読でもしてみるかな。ほれ、ここに丁度聖書がある。守るべき聖書だが、本は読んでこそ本。であろう? 皆よ。では序章から順に読んでいこうか』

ダンジョン内にもかかわらず読書、しかも朗読までする始末。

その声にモンスターが寄ってきてもいたが、裏拳で殴り飛ばし始末していた。

こんなものを、何と呼べばよいか?

……余裕。そう、余裕だった。

本来は危険と隣り合わせのはずのダンジョンのソロ攻略が、まるで実家で横になるかのような安心感しかない。それほどの余裕が、ナリキンにはあった。

……これほどの実力を背景に持ち得ているからこそ、ナリキンは異例の速さで教皇候補にまで上り詰めたのだろう。

ラギルをもってしても、そう納得せざるを得なかった。

「で、ですがラギル様。試練はあと2つ、あと2つもあるのです! しかも今回の試練はロネスキーの出した元々達成できておかしくなかったもの。我々の出す試練こそが本命ですぞ!」

「……! そうじゃ、そうじゃったな。ああ、こうなっては次の試練での妨害に注力するしかなかろう」

今回での妨害は諦めるしかなかった。

バラクドに諭されるとはな、と大きく息を吐くラギル。

あとはナリキンが無事に帰ってくれば第一の試練は達成となるだろう。……もはや、このダンジョン内でナリキンがどうにかなることを、ラギルですら想像できなかった。

また、聖王国の別の場所では、元聖女候補であった上級神官の老女が頭を抱えていた。

中立派の上級神官、マグニ。

彼女が第二の試練として想定していたのは『戦闘』だった。

『危険度:A』以上のモンスターを狩ってこい、とでも言うつもりだった。元聖女候補生であったマグニ自身もそれならできる程度の腕を持っていたので。

が、先日『配信』とやらでナリキンはその『危険度:A』に相当する魔物、バジリスクを狩っていたのである。ご丁寧に攻略法まで解説しながら。

『バジリスクは石化の邪眼を持つ。目が合わずとも視界に入るだけでも石にされる恐れがあるため、その視界の外から奇襲するのがセオリーとされている。しかし――柑橘類の皮やトウガラシの粉末を混ぜた煙玉で目つぶしすると比較的楽に勝てるのだ。参考になったかな?』

と言いながら実際に不意打ちで煙玉を使用し、悶絶してのたうち回るバジリスクの首を落としていた。

そう。つまり試練を出す前に達成されてしまったのである。ソロで。

元々想定していたものはパーティーでも組んで行けば良いと思っていた。『危険度:A』とはそのくらいの存在なのだから。

なのにソロで。どうしてこうなった。どうしてここまでやってしまった。

……これはもはや、別の試練を出さなければならない。

「『危険度:S』はそもそも見つけるのが困難だし、むやみに討伐していい代物でもないし……手本がそもそも無理だ。ダンジョン、ああ。このままダンジョンの攻略も……しちまうのかねぇ?」

ソロによるダンジョン攻略を達成されてしまえば、もはや文句の付けようがない武力の持ち主。むしろバジリスク攻略法のように、大々的に講演を開いてもらいたいくらいだ。

そのときはマグニも聴講したい。

「ここまでの事をされちまっちゃあ、逆に民を納得させる程度の適当な試練でお茶を濁すしかない、かねぇ」

まさか試練を課す側が試練に頭を抱えることになるとは。

広場で垂れ流されるナリキンの配信を神殿の二階から眺めつつ、マグニは諦観したように呟いた。