軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暗殺

ここ数カ月で急激に成長した村、ゴレーヌ村。

もはやゴレーヌ町ではあるが、急成長した裏では当然のように歪みが発生していた。

そして、ゴレーヌ村の御用商人であるダイン商会。その会頭、ダインの命が狙われていた。

ダイン商会は現在ゴレーヌ村において2つの拠点がある。

一つは本村、もう一つは現在絶賛発展中のカリソト区。会頭のダインが寝泊まりするのはなんやかんやで本村の拠点の方だった。

ダイン商会の警備は、それなりである。稼いでいるので冒険者からスカウトした専属の護衛がついているものの、その腕は二流止まりである。

一応最近宿のオーナーの伝手で対人講習をしてもらってはいるが、まだまだ甘い。

その警備の穴をついて、暗殺者は音もなくダイン商会に忍び込んでいた。

暗殺者のターゲットは、ダインただ一人。

可能であれば村長も――と言っていた依頼者ではあったが、別料金な上に村長自体が高ランクの冒険者であるため正規料金を提示したところ、それはなかったことになった。

暗殺者は足音を立てずにダイン商会の廊下を進む。床は使わず、壁と天井を移動する。

痕跡は床に残りやすい。【足跡追跡】といったスキルもあるのだ。

護衛の連中は起きて見回りもしてはいるものの、天井には気付いていないようだ。真下を歩いて行った。……護衛は殺しても良いが、余計な殺しはしない。それは暗殺の成功率や暗殺後の逃走率を下げるものだ。

皆殺しにすれば話は別だが……ターゲットを始末するまでは、一旦見逃しておく。

ターゲットの部屋にそっと入り込む。……寝室には護衛がいないようだ。

のんきにいびきをかいて寝ているターゲット。

場合によっては心臓の病気に見せかける毒で殺して暗殺に気付かれないようにすることもあるが、今回は血まみれにして暗殺したことをハッキリと示し、脅しとする予定だ。

逃走経路になりそうな窓を確認しておく。木の戸だ。簡単に蹴破れるだろう。

腰のナイフを抜き、ターゲットの喉に振り下ろす。

ざくん、と、ナイフが突き刺さった……――枕に。

「!?」

「おやおや、護衛達は赤点ですね」

ターゲットの姿は消え、そこに居たのは一人の女だった。

どこか現実のようではない、はかなげな印象の女。そう、幽霊といっても通用しそうな。

しかし強そうには見えない――否、そう見えるのがおかしいのだ。先ほどまでここはターゲットのダインが寝ていたはずだったのに、その姿が掻き消えていつのまにか立っていた女だ。雑魚であるはずがない。

「お疲れ様です。偽物の寝室へようこそ」

「……」

「おや、お喋りしませんか? するつもりはない? 結構、こちらはまだ及第点ですね」

暗殺者は女に斬りかかる、と見せかけて窓に走った。

ガンッ! と、木の板ではありえない硬い感触。表面の木の板が割れると、その中からは鈍色の鉄板が顔を出した。

窓は封じられていた。女は出入り口である扉の前に立っている。

隙だらけに見えて、その実、一切の隙が無い。どう斬り込んでいっても首を落とされる未来が見えた。

「ふふ、そこそこできるようです」

「……護衛か。本物はどこだ?」

「本物のダイン様は、村の宿ですやすや寝ておりますよ。ああ、なんでペラペラ喋ったか、あなたには、お分かりですね?」

生きて帰す気はないという意思表示。

格上の実力者であろう女にそうきっぱり言われて、暗殺者はごくりと唾をのんだ。

「さぁ、かかってきなさい?」

手招きつつ、妖艶に笑う女。

暗殺者は万一の可能性に賭けて挑んだが、あっさりと死んだ。

* * *

俺はダインを村長邸の応接室に呼び出した。

「というわけでダイン。お前を目当てに暗殺者が来たんだが、心当たりはあるか?」

「マジかいなケーマはん!? あ、昨日急に宿に泊まれって言ったのはそれなんか!?」

襲撃があったことを伝えると顔を青くして震えるダイン。

「大丈夫だ、暗殺者は退けた」

「お、おう。ありがたいこっちゃわ。ケーマはんには足向けて寝られへんなぁ」

「撃退したのはクーサンの嫁だから、そっちにも礼を言っとけ」

「……クーサン、とんでもない嫁捕まえたんやなぁ!?」

尚、暗殺者の接近を検知したのもこのクーサンの嫁だ。元帝国暗部四天王直属の部下は伊達じゃないな。

「いったいどこのどいつがワイを暗殺しようなんて……心当たりが多すぎるわッ!」

「おいおい、そんなあくどい儲け方してたのか?」

「ちゃうわっ! ダイン商会は誠実な運営がモットーや。職人にも前金半額の先払いするくらいの優良経営なんやで? まぁケーマはんの出資のおかげなんやけど……」

「ならなんでだ?」

「そら決まっとるわ。カリソト区みてみぃ、ワイら急成長しすぎなんや。やっかみが……ああ、ケーマはんは周囲との仲は良好やったな……」

ツィーア領の方は、ニクとマイオドールは婚約してるし、オフトン教のミサにはツィーア領主、ボンオドール夫妻も常連。

反対側のパヴェーラ領も、その嫡男であるシドがドラーグ村の村長であり、そちらもオフトン教のミサに常連で、さらに温泉の魔道具(という名目のダンジョンギミック)も貸し出している。

どちらも借りを踏み倒そうっていうのでなければ、俺を狙う理由はないだろう。

おまけにツィーア山ダンジョンのダンジョンマスターと、ツィーア近郊ダンジョンのダンジョンコアとでロクコがお茶会をする程に仲が良い。

こちらの方面も暗殺者を送り込まれる心配はない。

「まぁどこが送り込んできたかの情報は掴んでる」

「ほんまでっか!? いったいどうやって」

「方法は聞かない方がいいぞ。それとも帝国の闇に触れたいか?」

「ワイは何も聞かんかった」

「ああ。賢明な判断だ。さすがウチの村の幹部」

実際、ウチの村は帝国の闇がミニサイズで詰まってるといっていい。

主にダンジョン回りの事で。

「まぁ方法はともかく、相手については聞いた方がいいだろう。パヴェーラのスラムを仕切ってる商人らしい」

「ほぅ……となると、シドはんに頼んで介入してもらうべきかなぁ」

「……いや、ここは俺が何とかしよう」

ダインはこのまま町になった時に貴族入りしてここの運営に組み込まれるだろうし、死なれたら困る。

ダインの分、誰かが資金調達の仕事をしなければならなくなる。

そしてそれは暇そうな俺である可能性があるのだ。

まぁそうでなくてもダイン以外に信用できる商人を探すのが面倒というのもあるし、普通にここまで村をやってきた仲間だから守りたいというのもある。

「なら、俺が動くのが当然だろう?」

「……シドはんに借りを返す機会を与えたってもええんちゃう?」

「ん? そうか。まぁそういうことならシドにも少し手伝ってもらうか」

かくして、ダイン商会を守る為の作戦が始まった。

……暗殺しかえしたら手っ取り早いと思ってたんだが、まぁいいか。