軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調査依頼:地獄(冒険者視点)

後ろ髪を引かれる思いで宿を後にする。

……ああ、せめてもう一泊したかった。

風呂といい、食事といい、そして寝具といい、すべてがハイレベルだった。

これで食事代込みで銀貨1枚と銅貨50枚とか、安すぎるだろう!

ああもう、依頼を片付けたら帰る前にもう一泊、依頼達成してからまた一泊きてやる。

ダンジョンに潜ると、いきなり落とし穴がちりばめられた部屋となっていた。

ムゾーのスキル、【危険感知】が無ければあっという間に落とし穴の餌食になっていたところだ。

「ああちくしょう、せめて名前くらい教えて欲しかった。……帰りにもう一泊したときこそ教えてもらおう」

そんなムゾーは受付の女性についてずいぶんご執心なようだった。まぁ、美人だったもんな。

俺はなんか引っかかるものを感じていたが……あ。

「あ。……ムゾー、今更だが……俺、あれの名前知ってる」

「何?! どういうことだ、お前いつのまにあの子とそんな仲良く!」

「あれは、ソリンだ……」

俺は、ソリンに関する苦い思い出を思い出す。

……ああ、確かカードの賭けで身ぐるみ剥されたんだっけな……。

酒にもめっぽう強いし、胃袋は底なし沼。見た目に騙されて何人の冒険者が財布が空になるまで奢らされたことか。

さらに言うとスキルはないがCランクでも上位に位置する戦闘力だった。

「ソリン?……って、『食欲魔人』のソリンか?! あ、あいつか?!」

「奴隷落ちしたという噂は聞いていたが、なんだってこんなところに……」

「えっ、奴隷だったの? 全然気づかなかった……」

首輪があったぞ。……確かに衣装に紛れて分かりにくかったけど。

ううむ、女が絡んだ時の注意不足をみると、斥候として本当に大丈夫かと感じてしまう。

……今日は特にダンジョンの探索だし、女絡みじゃなければ優秀だ……のはず、だ。

「しっかし、ゴブリンしか出ないなぁ。どうよウゾー」

「元々ゴブリンしか出てないダンジョンなんだからそんなもんなんだろ。……それより、罠が結構多いのがきついな、しかも殺意が高い」

「落とし穴に針山付きだからな。危なかった」

「ったく、しっかりしてくれよ?」

斬り殺したゴブリンの右耳だけ回収しつつ、さっさと進む。

お、箱がある。

「ムゾー、なんか箱があるぞ。開けてみよう」

「罠は……無いな。よしよし、お宝ちゃ~ん……っと、おお、マナポーションだぞ!」

「やったな、銀貨1枚にはなる」

こんなかんじで俺たちはなんとか先へ進んでいく。ムゾーの【リトルヒール】が何度も活躍せざるを得ないあたり、普通の冒険者には少し荷が重いかもしれないな。

そして階段を見つける。

「たしか、この先で魔剣を入手したっていう話だったぜ、ウゾー」

「ああ、実に楽しみだな、ムゾー。……気を引き締めてかかれよ」

第二層では、ゴーレムが湧いていた。

だが俺たちにとってはそれほど脅威でもない。

「――【スラッシュ】!」

俺の鉄剣が、クレイゴーレムの胴体を真っ二つに切り裂く。

このくらいなら、わざわざ魔石を壊さなくても倒せる。ゴーレムの倒し方は、大きく分けて3つ。

1つ目は魔石を破壊する。

魔石というのはゴーレムの心臓部だ。体のどこかにあるが、たまに体内にある時もある。これを破壊すれば、ゴーレムは停止する。

2つ目は、魔法攻撃スキルでの攻撃。ゴーレムは魔力で動く人形ということもあり、魔力が乱される攻撃魔法にとても弱い。まぁ俺達は魔法攻撃の手段はもってないけど。

そして3つ目は、原型を大きく崩すダメージを与える、だ。

正確にはゴーレムに宿った魔力を散らす、という事らしいが……まぁ大体同じことだろう。ゴーレムの防御を超える攻撃を何度か叩き込むと、急に弱くなるタイミングがあり、そこをすかさず突けば、

「一丁上がり、ってわけだ」

俺が真っ二つにしたゴーレムが、どさっと崩れて土に還る。

ムゾーはそこから無傷の魔石を回収していく。

「やるねぇ、ウゾー。おかげで魔石がとれるよ、なかなか美味いね、これ」

魔石が表面にあるゴーレムについては、魔石を回収できるのだが、体内にあるゴーレムについては時間が無いので無視だ。

そもそも二人組でそれほど余裕があるわけでもないからな。

と、迷宮を探索していると、小部屋を発見した。

「ん? なんだ、ここ。通路の様子が他と違うな……ああ、『安全地帯』か」

「お、そうか。少し休めるな。 っておい、剣だ、剣があるぞ! ムゾー!」

「台座に刺さってるな。罠が無いか警戒して、近づいてみよう」

ムゾーが周囲を警戒しつつ、部屋の中へすすむ。

『安全地帯』といえど罠が仕掛けられていないとは限らないからな。あくまでモンスターが入ってこないというだけだ。

……そして、台座に近づく。

「ん? 今、通路で音がしたか? ムゾー」

「いや、どうだろう。見てくるか」

「下手に戻ると危ないかもしれない。先に剣をいただけるか調べちまおう……おい、これ、魔石が埋め込まれてる! 魔剣だぞ!」

俺は思わず叫んでしまった。念願の魔剣だ、しかも、こんな浅い階層で見つかるだなんて。

「へぇ、これはいいな。俺でも使えるかな?」

「こんなにすぐに見つかるんだ、もう一本くらいあるさ、そしたらムゾーの分だな」

「罠は見つからない。抜いてもいい……む? やっぱ待て! 剣を抜くな!」

「え?」

どうやらムゾーの【危険感知】がトラップを予期したらしい。が、遅かった。俺は、はやる気持ちが抑えられず既に剣を抜いてしまった。

ガシュン! という、硬い物同士が擦れるような音が入ってきた通路から聞こえた。

……見ると、極太の、剣より太い針によって通路がみっちりとふさがっていた。

それはあたかも口を閉ざした獣の牙のよう。

「おい、これって……」

「……すまん、直接命を狙ってくるトラップじゃないから反応が遅れた……」

閉じ込められた……?!

*

何時間経過しただろうか。

ムゾーの言う、「このトラップ自体には危険は感じない……時間経過で引っ込むだろ」という意見に賛同し、この部屋が安全地帯ということもあって休憩することにしたのだ。

実際、この魔剣を手に入れられて俺は実に気分がいい。

休憩だというのに、魔剣の素振りをするだけでいつの間にか時間が過ぎているほどだ。

……ふっふっふ、これは魔剣士ウゾーの大活躍が始まってしまったな!

「まったく、安全地帯で罠も見つからないからって油断し過ぎだろう、ウゾー」

「だって、魔剣だぞ、魔剣! 今まで使ってた鉄の剣も決して悪い代物じゃなかったけどな、ほら、あっちに木の人形があったから試し切りしたんだが、すごい切れ味だぞ!」

「あーはいはい。……なぁ、俺にもちょっと貸して。実際どんなもんかみてみたい」

「いいぞ、人形もまだあったし」

俺はムゾーに魔剣を渡した。

「へぇー、こりゃすごい。魔力流すとこんなにスパスパ切れるんだ。さすが魔剣だな」

「だろ! こんな性能の魔剣がこんな浅い階層で手に入るとは、やはり運がいいな」

「今閉じ込められてるけどな」

「……それは言ってくれるなよ……」

お互いに笑い、軽口を飛ばす。

こんな感じで、気楽に過ごせたのは、2日目までだった。

*

閉じ込められて、三日目。水は俺の【ウォータ】で出せるが、そろそろ食糧が心許なくなってきた。

「……どうなってんだ、まだ開かないのか?」

「いや、うん。いい加減自力で脱出しようと思ってるんだけどさ、この針、だめだ。戻らない」

「もしかして、魔剣を抜いたから、そこがスイッチなんじゃないか?」

「そう思ってさっき俺の剣を挿しなおしてみたんだが、だめだった……」

「……じゃあ壊すか?」

「それも怪しいな。お前、この針を斬れるか? 鉄だぞ」

「……魔剣つかって【スラッシュ】すればいける、か?」

「折れても知らねぇぞ」

それは嫌だが、いざとなったら試してみる必要があるだろう。

俺とムゾーは、引き続きこの部屋を調査した。

*

閉じ込められて5日目

「だめだぁぁ。脱出方法が見つからねぇ、食糧ももう殆どないぞ」

「なぁムゾー、救助とか来ないかな……」

「……死んだと思われててもおかしくないさ。なんのための調査だと思ってるよ? なぁ」

「あー、そうだな……」

例えば、Cランク冒険者を送り込んで未帰還だった場合、それ以下のランクが入るのは厳しいと推測される。

つまり、死ぬ可能性を含めての調査だ。もちろん、それは分かっていてこの依頼を受けたわけだが。

「……っくそ、こうなるってんだったら、俺も銀貨5枚のCランク飯にするんだった……」

「おい馬鹿やめろウゾー、腹が減るだろ! ああもう、くそ、あの食事を思い出しちまった。……くそぉ、生き延びたら、俺、全財産はたいてでもAランク飯食ってやる!」

「……じゃあ、そろそろ試すか。魔剣で、【スラッシュ】で、この針が壊せるか。……魔剣は大事だが、命には換えられないからな」

「いいのか? 魔剣の方が折れるかもしれないぞ?」

「死ぬのを黙って待ってろってか? 笑えないね……」

俺は、魔剣を構え、魔力を流す。

そして、十分に、存分に溜めをつくり、渾身の一撃を叩きこむ。

「……はあああああ、【スラッシュ】!」

ガリリリッ! と、針がいくらか削れた……いける、これなら、行けるぞ!

「ウゾー! もう一回だ!」

「ああ! ……【スラッシュ】!!」

ガリガリガリガリッ! と金属同士がぶつかり合う甲高い音がして、針がさらに削れる。あと、1撃だ!

「さぁ、いくぞ……【スラッシュ】ッ!!!」

ギリリリッリリリリィイイ! と、まるで断末魔のような音を響かせたのち、バキン! と、針の折れる音がした……いけた、折ってやった!

「ウゾー! やった!」

「ああっ! ……ッ!」

しかし、俺はそれ以上動くことができなかった。

……破壊した針の壁。そのすぐ向こうに、またもう1枚。同じような針の壁があった……

「だ、大丈夫、1枚突破できたんだ、もう1枚くらい」

「……なぁ、おい、ダメだ」

「なんだよ、ムゾー。出たくないのか?」

「出たいさ。……でもな。………魔剣が限界だ。もうそれは使えない……」

え? と、俺は魔剣を見る。

鉄の針を強引に斬ろうとした代償として、刃にヒビが入っていた。

なんだよ、これ……魔剣なんだろ? この程度で壊れてんじゃねぇぞ……

「しかも見ろ、針罠が復活しかけてる……それ以上そこにいると、串刺しになるぞ」

「くそっ……」

俺はしぶしぶ引き返す。

直後、復活した針罠がじゃこんっとまた道をふさぎ、壁が復活する。

ダンジョンの壁やトラップは時間経過で復活する。

これでは本当に獣の口の中に閉じ込められたようなものではないか。折角魔剣を犠牲にしたにもかかわらずこれでは……

結局、本日の成果はヒビの入った魔剣だけだった。

*

8日目……だと思う。太陽のない閉鎖空間で、時間の感覚が怪しい。

そして、食糧が尽きた。

そもそも、長くても籠るのは2,3日の予定だったのだ。むしろよくもったというべきか。

……で、針罠による封鎖はまだ続いていた。

どうしようもない。

俺たちは、お互い不満を募らせていた。

「元はといえば、ウゾーが勝手に魔剣を抜くから……俺は止めたのに」

「ムゾーが剣を抜いていい、って言ったから抜いたんだ。あんな急にやっぱなし、なんていう方が悪い」

という、今回の件に関することだけじゃなく、今までの不満、さらにはお前口が臭いんだよ、とか、たまにイビキがうるさくて絞め殺したくなるとか、ひたすらにお互いの悪口を言い合い、罵り合った。

それでも殺し合いにならないのは、やはり固い絆で結ばれた兄弟だからだろうか。おそらく他のパーティーでは、きっと殺し合い、食糧の奪い合い、といったことになっていただろうな。

「……そろそろ飽きてきた、これくらいにしておくか。悪口を言って悪かったな、ムゾー」

「は? ……まぁいいけど、急だな、どうしたよウゾー」

「こうして閉じ込めるだけで何もしない、俺たちが仲違いするのを待ってるかのようじゃないか?」

「……となれば、これ以上罵り合うのは不毛だな、俺も悪かったよ、ま、いつものことだけどな」

「ああ、今回はダンジョンが全部悪いんだ、それでいいな? ウゾー」

……ゴブリンの耳って食えるかな、いや、もう腐ってるか……

俺は、体力の消費を抑えるためゆっくりと目を閉じた。