作品タイトル不明
ダンジョン跡地(2)
「店員、このダンジョンで寝泊まりしてるって」
「毎日ここまで通うのも手間だろうからな、そりゃ」
喫茶店を出た俺達は、順路に従って最下層を目指すことにした。……とはいえ、途中順路でも分かれ道が存在する。「近道はこちら」「遠回りはこちら」という具合に順路の看板が随時あるので迷うことはない。
遠回りするとなるとこの元ダンジョン内にある宿に泊まることになるだろう。 ナーナ(トイ) を放置することになってしまうので、一度 小鳥(トラン) を通じて連絡いれるわけだが……
そのための交代で一瞬目を離すのもちょっと怖い所があるんだよなぁ。
「今日のところは近道だな」
「そうね」
というわけでサクサクとダンジョン内を進んでいく。
途中他の客――冒険者の恰好をしている3~5人の 集団(パーティー) ――を見かけたり。そいつらは遠回りルートを選択しているようだった。
……踏破するのがトレンドとかいう感じなのか「次はこっちだ!」とか言って走り回ってるやつもいた。
それにしても敵も出ない安全なダンジョンだ――おっと、一応等身大パネルという感じに絵に描かれた狼系モンスターが飾られていたりはする。もちろん、斬ったりしてはいけない。
スタンプが置いてあるあたり、スタンプラリーか何かのチェックポイントなのだろう。
「……こういう展示があると、博物館っぽいなぁ」
「見て見てあなた! どう、カッコいい!?」
見ると ロクファ(ロクコ) が等身大パネルの狼に向かってハリボテの剣をかまえていた。剣もここに置いてあったもので、刃が軽く白い木材でできている見栄え重視の木剣だ。
「おー、カッコいいな」
折角なのでモニター機能で撮影しておく。
……カメラとかあれば写真とるシーンだな。一般人の場合はこういうのどうするんだろう。まさかキャンバスを持ち込んで姿絵を描くとかじゃあるまいに。
「はい、次はあなたの番よ」
「俺もやるのか」
「そりゃそうでしょ」
というわけで俺も木剣を持って構えてみる。…… ロクファ(ロクコ) が楽しそうで何よりです。
さて、そんなわけで少しだけ寄り道もしつつ、階段を合計11回下ったところで、最下層の12階にまでたどり着いた。これなら今日中には戻れそうだ。
ちなみに5階とか6階あたりがホテル地区になっていた。ウチで言う倉庫エリアみたいな小部屋が並んでいた場所で、そのまま再利用されているとか。
中にはここに寝泊まりして元ダンジョンに暮らす剛の者も居るらしい――カフェの店員とか。
「それにしても環境部屋とか、ダンジョンが無くなるとただの箱になるのねぇ。勉強になったわ」
「考えてみれば当然だけどな」
ダンジョンが作り出してる環境なんだからそりゃそうだ。
……でもあれ一度設置したら別に維持費とかもかからないんだよな。不思議なことに。個人的に物を買うときは継続よりも買い切りの方が分かり易くていいけど。
「それにしても疲れたわ……これ、また帰りも同じ道通るのかしら」
『ぴぃ』
「あー、うん、私だけ先に戻るというのもアリね」
そうだな。ロクファに身体を返してロクコだけ戻るというのもアリだな。
かくいう俺も【転移】……あ、ナリキンじゃ使えないか。覚えてないもんな。
「さて、あったわよコアルーム!」
「元、だけどな」
そしてコアルームの前には受付があった。男がにこりと笑顔を浮かべた。
「お疲れ様です冒険者様。こちらは最奥、コアルームでございます」
「うむ。この程度軽い軽い……妻には少し厳しかったようだがな」
「おや。それは宜しくない。冒険の基本は常に余裕をもって、でございます。『まだいけるはもう危ない』という初代聖女様のお言葉もございますからね」
その名言、日本でも聞いた覚えがあるんだけどもしかしてそいつ勇者も兼ねてた?
「聖女様、というと光神教のか」
「おや? 冒険者様は光神教ではないのですか?」
「外国からの観光でな。生粋の光神教ではないんだ」
「そういうことでしたか」
受付の男は納得したようだ。そもそも光神教でもないが、嘘は言っていない。
「それで、ここに受付があるということは……この奥は別料金なのかな?」
「ええまぁ。それと、コア割りの受付でもございますので」
「ロクファ。ここが壷割りの受付だけど、割る元気は残ってるか?」
「もちろん、大丈夫よ。割った後に倒壊するダンジョンを走って逃げる必要はないんでしょ? 割ってから休んでもいいんだから」
というわけで、銀貨5枚を払う。あらかじめ地上で聞いていた料金だ。
「ではご用意いたしますのでしばらくお待ちください。準備ができたらあとは好きに割っていただいて構いません。あ、台座は壊さないように気を付けて。それと普段は10分制限とかありますけど、今日は空いていますから入ってからじっくり時間をかけてもらっても良いですよ」
……混みあう日もあるのか。さすが人気スポット。
それから受付の男はすぐそばの部屋から木箱を抱えて持ち出してきた。あの中身がダンジョンコアを模した白い壷なのだろう。
少しだけ待つと、すぐに受付の男は戻ってきた。
「ではどうぞお楽しみください」
受付の男に見送られ、俺と ロクファ(ロクコ) は、元コアルームに続く道へと足を踏み入れた。
元コアルームには、台座と、ダンジョンコアを模した白い壷が置いてあるだけであった。
……うん、まぁコアルームってそんなもんだよね。ウチもそうだし。
まぁ台座が光の魔道具になっているようで、白い壷が照らされ光っているように見える。芸が細かい。
「おおー、なんかそれっぽいわね!」
「再現度は中々のモンだな。……さて、それじゃさっさと壷を割ろうか?」
「そ、そうね!」
ロクファ(ロクコ) は照れつつ、『コア割り用』に置いてあった白いメイスを持った。うん、夫婦の共同作業だったねそういえば。
「願い事を言いつつ割ると叶うらしいわよ?」
「……手がかりが見つかりますようにとか?」
「そういうんじゃなくて。子宝に恵まれますようにとかそういうの」
……うん、夫婦の共同作業だったねそういえば。
「この間ソト生まれたばかりだろ……」
「そーだけども。将来的にね? ね?」
「そもそもここで願い事言うより、お父様にお願いした方が確実に叶うだろ」
「そーいうのとは別なの!」
そういうもんらしい。
「……あー、じゃあ、ハクさんに認められますように?」
「ハク姉さまはとっくに認めてると思うんだけど……まぁいいわ。せーのっ」
ぱりーん、と、2人で白い壷を割る。
というか、そもそものそもそも、ダンジョンコア(を模した壷)を割って願掛けとかダンジョンコア的に色々間違ってる気がするなぁという「もにょ」っとした気持ちを抱えて俺達はコアルームを後にした。 ロクファ(ロクコ) は満足げに俺の腕に抱き着いていたけど。
「おや、早かったですね。お帰りはあちらです」
「ん?」
そして受付の男が示した先には階段があった。
俺達が下りてきたのとは違う、直通階段。
まぁ順路も基本的に一方通行だったから予測できたことだったのかもしれないけど。
「そういうのあるなら先に教えて欲しかったな……」
「おやおや。ダンジョンごときが作れた12階層分の階段を、我々、優秀な『人間』が作れないはずがないでしょう?」
そっかー。
尚、こことは別に換気用の直通穴もいくつかあったりしますとのこと。確かにそういうのがないとダンジョンじゃない穴では窒息してたわな。うん。