軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

てのひら

レオナに先回り、いや、誘導された? どっちでも同じか。

とりあえず俺はロクコを抱き寄せ、『神の毛布』に隠れる。

「おっと。 桂馬(・・) さんではなく ケーマ(・・・) さん、とお呼びすべきですね。……そんな怯えないでください、可愛がり過ぎちゃいますよ?」

「どっちでもいい。というか、なんでここに居るんだ?」

「こう、逃げた先に私が居たらびっくりすると思って。つい先回りしてみました」

つい、で先回りするあたり、とんでもない能力をとんでもなく無駄遣いしているな。

ただ、敵意や殺意は感じられない。少し癪ではあるが、嫌がらせは失敗したかな。

「びっくりしました?」

「そりゃもう。……心臓が止まるかと思ったよ」

「うふふ。『ドッキリ大成功☆』ってやつですね」

どういうドッキリだよ畜生。

というか、『神の目覚まし』の音でトイはあれほど苦しんでいる感じだったのに、レオナは全く平気そうなんだが……いやまて。そういえばコイツ。

「混沌神、だっけか? 神には通用しないって事か」

「ええ、そっち? これでも私、人間だから無害なのよ、そう設定してるんでしょう? 人間型コアのロクコちゃんやダンジョンマスターのケーマさんも無害なんだから当然でしょ? それに、その時計を【超鑑定】で 鑑定(み) れば分かるわ」

そう言ってくすくすと笑うレオナ。だが覗き見もしていたのだろうな、やっぱり。でなければここにレオナがいるとは思えない。そこについては聞くだけ無駄だろうけど。

「……ねぇ、トイは人間じゃないのかしら? 苦しんでたけど」

「あらロクコちゃん良い質問ね! さすがケーマさんのコア。……あれは獣人だから人間枠だけど、製法が特殊なのよね。色々混ぜたから、むしろホムンクルスって言うのが適切かしら。ここ1年くらい前からは肉体の加齢成長も止まってるし」

ロクコの質問に上機嫌に答えるレオナ。

……そういえばニクも背が伸びないとか言ってたな。

「根源に 亜神(デミ・ゴッド) 使ってるから、微妙に効いたのね」

「兵士やメイドも吐いてたわね?」

「そっちはいきなり『正常』に戻って身体がビックリした結果。……副作用があれだけでアレを解除できるだなんて、まったく素晴らしい効果だこと。そうそう私を縛ってた千の呪いも 悉(ことごと) く解除されたわ? さすが、国中に響く『解呪』。呪いの神のガチ呪いも、上位存在の闇神が本気で作ったアイテムには勝てなかったようね」

にこり、と笑うレオナ。

縛っていた呪い、とは……もしやレオナに『神の目覚まし』を使わされた……のか?

「まぁ【呪い吸収】スキル使ってたから元々私のバフでしかなかったのだけれど! 消えちゃってむしろ弱体化しちゃったわね、あっはっは!」

そう言って笑うレオナ。だが弱体化ということは一矢報いたのではなかろうか。

「それはそれは……」

「弱体化はしたけれど、例えて言うなら何日も洗っていなかった髪を綺麗に洗ったようなサッパリした感覚ね。すっきりしました」

……一矢報いたとは思うが、やっぱり使わされたんじゃないかこれ。ううむ。

「それで、俺達に何の用なんだ?」

「さっきも言ったじゃないですか。ケーマさん達の驚く顔が見たかった、それだけですよ? ああ、それともダイード国に連れてきた事を言ってます? その目的ならトイが話していたでしょうに。プレゼントですよ―― 用済みの(・・・・) 玩具(オモチャ) の」

用済みの玩具。

ということは、ダイード国におけるレオナの目的はとっくの昔に果たされていて、まるで飽きた玩具をおさがりとして渡すが如く俺にプレゼントしてきた、ということか。

「前に誘った時に来て コレ(・・) やられてたらちょっと困ったと思うけれど、もうケーマさんのこと以外は 全部(・・) 済んでたから。丁度いいお片付けになったわね」

「……負け惜しみ、じゃあなさそうだな」

「ええ、おかげで思ってた以上に色々面白い物が見れたもの。トイが感情的になってケーマさんを襲う所なんて、情熱的で感動したわ! 『神の目覚まし時計』の効果もあったのでしょうけど、あの子には 玩具(トイ) であることに終始させてたのに言いつけを破るだなんて……素晴らしいわ」

結局、どう転んでもレオナは良かったらしい。くそう。

「……てのひらの上か」

「あら。そうね……私の指に落書きでもしてく?」

「誰が孫悟空だ」

俺がそう言うと、レオナが心底嬉しそうに笑い、そこから上機嫌で語り出す。

「元々は依頼されたのよ。ワガママな娘をどうにかして欲しいって祈られたの。だから謙虚な人格をね、混ぜ込んで強制的に矯正してあげたの。それが始まり」

それから偽転生者、『テンセイシャ』の遊びを思いついたらしい。

「ついでにもう一つネタ晴らししてくれ。ダゴンとかクトゥグアとか、あのふざけた苗字はなんだ?」

「ん?……ああ、それ。ケーマさん来てくれなかったけど、遊びの一環よ。乙女ゲームって分かるかしら? 女の子向けの恋愛シミュレーションなんだけど。その攻略対象の名前として何か特徴が欲しくて、ついでに混ぜて、ハーレムエンド以外の時には未攻略の一族が対応する化物の姿に変身するように仕込んであったの」

そして見事ハーレムエンドを達成したので化物の因子は浄化された(ということになった)らしい。「ライバル令嬢を『テンセイシャ』にしてついでに乙女ゲームの知識も埋め込んだのは失敗だったわね、みんな喜んでヒロインに婚約者を差し出してたし」とレオナは自慢げに言う。まるで失敗を武勇伝として語るかの如く。

「もうちょっとドロドロの昼ドラ模様が見たかったわね」

「昼ドラて」

「いいじゃないの。私16歳でこっち来たんだから、昼ドラとか全然見たことなくて。見たかったのよ」

「ならもっと思考を誘導すればよかったんじゃないか?」

「うーん、それだと私の思い通りにしかならなくてつまらないじゃないの。その点、ケーマさんはさすがね。私の予想をことごとく裏切ってくれるから大好きよ」

しまった。こいつが一番嫌うのは、俺が想定通りに動く事だったか。

……いや、しかし俺が想定通りに動かないことを想定している以上、逆に想定通りに動いたらそれはそれで喜びそう……混乱してきた。

「まぁ、性転換トラップとかえっちしないと出られない部屋とか、そこらへんの罠をことごとく回避されたのは残念だったわね。女の子になったケーマさんも見たかったわ……はふぅ、このマナポーションも飲んでくれたら女の子になったのに」

……ただ一つ確実なのは、レオナはくっそタチが悪いという事だけだ。

「……確かにケーマの女の子姿は少し興味あるわね」

「おいロクコ?」

「でしょう? 案外可愛くなると思うのよね、いやする。混沌神の名にかけてエロ可愛い女の子にしてみせるし」

「おいレオナ?」

これにはさすがにツッコミを入れざるをえない。

と、ここでレオナがくるりと俺達に背を向ける。そして、顔だけ振り向いてこちらを見た。

「ああ楽しかった、今回はもうこれで満足だわ。……そうね、ダイードはもう要らないからケーマさん好きにしていいわよ? いい機会だし私もダイードからは撤退するわ。メチャクチャにはなったけど、日本の食事を作るノウハウは残ってるし、景観にもこだわったから遊園地としては最適じゃないかしら」

遊園地。作られた遊び場である今のダイード国を的確に表す言葉だな。

「……そろそろハクちゃんが気付いてやってくる頃ね? 解除された呪いのひとつに、ハクちゃん達からの監視の呪いも入ってたの。まぁ、居る方角がなんとなくわかる程度のものだけど、反応が消えたら当然確認に来るでしょ」

「げっ」

「それじゃ、まーたねー」

そう言ってレオナはにこやかに手を振って、どこかへ【転移】した。

……やっぱりこれは余計な事をしてしまったかもしれない。