軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お疲れ闘技大会

神の寝具。それの防御性能は確かに強い。だがこいつにはひとつだけ欠点というか、仕様と言うか、『睡眠を邪魔しない』という寝具における重要な機能があった。

故に、状態異常でも睡眠だけは通る。

他はさておき、むしろブーストすらかけられる勢いで通る。

いや、これがもし悪意をもっての攻撃ならともかく、恐らく魔王流『無心』を使ったのだろう、悪意のない攻撃……いや行動。結果、【スリープ】は妨害されることもなく素通しで、結果俺は眠りに落ちて 行動不能(リタイア) 。

「はぁ……3位かぁ……」

そして、起きた頃には試合終了。1位はセバス、2位にワタルとなっていた。ついでに表彰式の間もずっと寝ていたため既にそれも終わっていた。代わりにロクコが3位の賞品を受け取ってくれたそうだ。

え、誰も起こしてくれなかったのかって?

起こせるわけないだろ『神の毛布』だぞ。これを起こすには『神の目覚まし』でもなきゃ大魔王様でも無理ってなもんよ。中の人が寝てても外部から起こせないのがこの『神の毛布』。

一応、(耳の痛くなるような爆音はカットされるが)声は届くのでそれで起こせなくはないのだが……うん。 天岩戸(あまのいわと) 並みの難易度を誇るといえよう、神製なだけに。

そんなわけで、ワタルが荒らしきった闘技場において、俺が堂々と寝てる横で平然と表彰式が行われたんだとか。

「目は覚めたかしら、ケーマ?」

「……おはようロクコ。まさかあんな手で負けるとは……」

闘技場の整備をしなおしている中で目を覚ました俺。ロクコは律儀に俺が起きるのを待っていてくれたようだ。ついでにロクコの護衛という名目でワタルも。ニクとイチカについては……アイディが宿へ連れて行ったらしい。564番? それはどうでもいい。

「お疲れ様です、ケーマさん。いや、おはようございますですかね?」

「ああワタル、お疲れ。……って、そういやセバスが勝ったのか?」

「どちらがケーマさんを倒すかの勝負をしていたので、セバスさんがケーマさんを倒した時点でほぼ同時に決着ってところですね」

大魔王様もこれについては『降参』ではなく『事前の取り決めによる勝敗』ということで認めたそうな。その手があったか……いや、ワタルもセバスも受け付けてくれなかっただろうけど。……闘技場をメチャクチャにするくらいの全力を見せる必要もありそうかな、うん。

「まさか、状態異常が通るとは思いもよりませんでした」

「俺もだ。次は対策しておこう」

「……むむ、ますます倒せなくなりましたか。唯一のチャンスを逃した感じですね?」

今度は【気絶耐性】をONにしておけば勝てるはずだ。これ、下手に付けてるとヤバい代物だから普段OFFにしっぱなしなんだよなぁ……忘れてたわー……睡眠優先で勝手にOFFになったりしない、よね……? するかも……?

「うーん、僕の【超幸運】もケーマさんには通用しないようで……」

「そんなこともないさ。むしろ勝ち筋が残されてたのがワタルの幸運のせいだった可能性も高いぞ?」

「それだとますますケーマさんを倒したのがセバスさんだってのは悔しいですね……僕の方がケーマさんとの付き合いは長いというのに」

「まぁ、観察時間の差も大きいだろうそれは。セバスは予選、下手すればその前から俺の戦法を想定していたわけだし……」

「すごい防御力でしたね。僕かなり本気で攻撃したんですよ? はぁぁ、またケーマさんには勝てませんでした」

「いや、順位は勝ってるし、先の戦いでも俺が降参したから勝ってるだろ?」

「試合に勝ってても勝負で負けてるんです! 実質引き分け未満ですよこれは!」

まぁ全力攻撃を防がれたってんならそうもなるか。しかしワタルの本気の攻撃を余裕で防げるとは、恐るべし毛布。こりゃ普通に戦うならレオナにも通用する手段かもしれない。覚えておこう。

「それじゃケーマ、帰りましょうか。立てるわよね?」

「ああ。おかげさまで体調はバッチリだ。あ、これ返すよ」

「ん」

ロクコは俺がマントにしていた『神の毛布』を受け取ると、それを畳んで【収納】に片付けた。

「ロクコさん、そのマントがケーマさんの超防御力の正体なんですか?」

「ええ。ついでに、例の魔法で使った魔力をどんどん回復させる能力もあるわ」

「なるほど……あのヤバい魔法を連発できた理由もそれなわけですね」

お、上手い返しだロクコ。嘘はついてないし、その毛布が無ければ俺は相変わらず戦闘能力がよわよわの糞雑魚のままだと聞こえる言い回し。さすが俺のパートナー。

じゃあ帰るか、と歩き出したところで、ワタルが改めて声をかけてくる。

「さてケーマさん。僕が準優勝になったわけですが、『神のパジャマ』を賭けて勝負しませんか?」

……まぁ、そうなるわな。

そもそも最初は準優勝になった奴から交渉なりなんなりで手に入れる、という手段を考えていたのだ。それがなんで『自分で準優勝になって手に入れる』となってしまったのか。

魔国へ留学している間に俺も魔国に影響されていたという事なのだろう。

アレだな、なまじ戦う力を持ってしまったのが悪い気がする。

しかし、ワタルが『神のパジャマ』を手に入れたのは、俺にとっても都合がいい。なにせ、ワタルには特効の手札があるのだ、俺には。

というわけで、交渉でワタルから『神のパジャマ』を巻き上げることにしよう。

「勝負してもいいぞ」

「え、い、いいんですか?」

「ただし。これは関係ないことかもしれないが、俺はワタルが準優勝したら『ネルネへの告白権』と引き換えに『神のパジャマ』を貰おうかと思ってたんだよ」

「えっ」

尚、あくまで『告白権』である。

正直、『神のパジャマ』と引き換えならネルネ自身をワタルに差し出すのも 吝(やぶさ) かではない。ワタルならネルネと付き合う事になっても大事にしてくれるだろうし。

さすがにダンジョンの所属を外すわけにはいかないけど、ダンジョンマスターの俺が『ワタルと付き合え』と言えばネルネの意志はさておき従うだろう。

でも自由意志ってのは大事だからね。命令されて否応なく、ってのもワタルの趣味じゃないだろうし。

……あ、でも俺が『断れ』と言うのであれば、ネルネはダンジョンモンスターとして断るだろうし、実際割とガチな権利だなコレ。

「ネルネへの告白じゃなくて、俺と勝負でいいんだよな?」

「……ちょ、ちょっと待ってください」

俺はその『告白権』という何のコストも要らない権利を引き合いに、ワタルを煽る。

『告白権』とは、ハクさんによる『ロクコのハグ権』以上に口先だけの、言うだけ詐欺みたいなもんである。

「……よく考えたらなんでケーマさんに『ネルネさんへの告白権』を貰う必要が?」

「ああ。ネルネは俺とロクコの娘みたいなもん――いや、何でもない。まぁ、要らないなら良いんだ、俺は認めないってだけだしな」

「えっ、待って!? 待ってください今凄く気になる事言いましたよね!?」

「ゴレーヌ村に帰った時に勝負しようか? 『欲望の洞窟』の奥に丁度いい場所があるんだ。闘技場みたいなところでね、見たことある?」

「ちょ、ケーマさん! ケーマさぁん!!」

まぁアットホームな職場だから、雇い主の俺とロクコが親で、従業員のネルネは娘みたいなもんだよね! アットホームな職場だから! 大事な事なので2回。

「ちょっとロクコさん、今ケーマさんがネルネさんを娘って言いましたけど!?」

「あら、まぁそうね。確かに私とケーマの子供みたいなものといっても過言ではないわ」

「ロクコさんまで認めた!? この夫婦め! 魔国へはハネムーンでしたか!」

「そうよ」

「え、マジですか!? ちょ、ケーマさん! 結婚式には呼んでくださいって言ったじゃないですか!!」

「初耳だしまだ夫婦じゃないし結婚式とかしてないし」

ガクガクとワタルに揺らされる俺。よせやめろ吐く。毛布装備してないんだぞ今は。

「まぁロクコさんもこう言ってるので、告白権については真剣に考えるとして……」

「そうか。即答できないのか……残念だがネルネには、ワタルの愛はそんなもんだったってちゃんと伝えといてやるから安心しとけ」

「言い方! 言い方が! 勘弁してください! ってか恋心を弄ぶとか鬼ですか!?」

ワタルだって俺の睡眠欲を弄んで望まぬ戦いをさせようとしてるじゃないか。鬼だな。

「そもそもなんで『神のパジャマ』ってのを欲しがっているんですか? 何か特別な理由でもあるっていうなら、その、普通に渡したりしてもいいですが……お世話になってますし」

「そりゃ決まってるだろ。オフトン教だぞ? 他に理由が必要か?」

あ、なるほど。とワタルは頷いた。

宗教、そして信仰。それは戦争の原因ともなるほどの立派な理由だった。

まぁオフトン教は俺がでっち上げた架空の宗教だけど。

「……分かりました。では僕もいちオフトン教徒としてこの『神のパジャマ』を寄進させていただきますので、是非ともネルネさんに告白する権利を賜りたく」

「うむ。よかろう」

折りたたまれたパジャマを 恭(うやうや) しく差し出すワタル。俺はそれを受取ろうと――

ひょいっと避けられる。

「ついでにまた今度ケーマさんと本気の勝負をしたいんですが、そこもどうにか融通してもらえないでしょうか偉大なる教祖様」

「……」

現物を目の前にそうされるとこう……くっ、やるじゃないかワタルのくせに。

「……何か考えておこう」

「有難き幸せ。……約束ですよ?」

ちっ、仕方ないなぁ。パジャマに免じて少しくらいはワタルの希望を叶えてやろう。

こうして俺は、『神のパジャマ』の入手に成功した。

色々あったようでずっと訓練するか戦ってたかしてた気がするが、留学の目的、見事達成である。……あとは帰るだけだな!