作品タイトル不明
予選大会最終日
初日に加えて2日目もさらりと終え、いよいよ予選最終日。
セバスはもちろんのこと、ニクもここまで残っていた。
……やはり、セバスはこの予選の中で飛びぬけた実力がある。元々人間牧場出身とかいう経歴らしいが、この人間牧場というのはDPを稼ぐために量か質を高めている。
セバスはその中でも質を高めている側で、いわば人間のサラブレッドなのである。
素質が極めて高く、さらに努力も怠らない。弱いわけがなかった。
「やっぱり人間牧場が気になるわね? せっかく留学したんだから見学してみたいわ」
「ハク様に止められているけれど、 内緒で(こっそり) 見せてあげましょうか? 言わなきゃ 露見し(バレ) ないわよ」
「おい。ダメだぞ? 絶対ダメだぞ?」
「 理解(わか) ったわ、ロクコのマスターにも秘密ね?」
「違う、そうじゃない。……ダメだからなロクコ」
「うんうん、分かったわ」
本当にダメだからな?
まぁ、そんなこんなで最終日が始まった。
「この戦いを魔神、大魔王様に捧ぐ!」
最終日の開始はそんな宣誓から始まった。
ちなみに俺は観客席からそれを眺めている。既にブロック全員に勝っててやることないもんな。一応一通り終わったら闘技場に下りてきてと言われている。
そうこうしているうちにセバスの試合が始まった。相手は立派なハルバード(戦斧と槍が一体になったような武器)を2本持った巨大な二足歩行するクワガタ、虫人族だ。
頭は完全にクワガタだが、二足歩行する進化の過程で柔軟な首関節を得たのだろう。しっかりと正面を見据えている。
左右合わせて腕が4本あり、左右それぞれの2本の腕で1本ずつハルバードを持っている。それぞれの腕もクワガタのそれに近い、自前の鎧に覆われた腕である。
……人間なら両手で1本というところだが、なるほど。腕が多いとこういうこともできるのか。ウチの多腕ゴーレムの参考にもなるな。
「ただの人間風情がこの俺に勝てると思うなよ!」
「ふん、 鈍間(ノロマ) な外殻もちのくせに偉そうなことを」
「何を!」
舌戦はそこそこにクワガタがセバスに斬りかかる。一方のセバスは、ただの鉄の剣を左手に持ち、それを迎え撃つ。
突く、斬る、叩く、そして引っかけ、挟み込もうと2本のハルバードを軽々振り回すクワガタ。だが、セバスはこれを 易々(やすやす) といなす。右腕を封じたまま。
「ぐ、くぬっ、このっ!」
「はっ、そよ風が涼しいな」
そう言ってクワガタの懐に入り込む。そして、左肘をクワガタの薄い腹に当てていた。
「ごぶっ」
「ハッ、情けないな。いくら背中に鎧を背負ったところでこの腹じゃぁな!」
「くぅっ! だがッ!」
クワガタはまだやる気があるようだ。ハルバードを投げ捨て、4つの手に腰のベルトに挿していたナイフを持つ。4本のナイフで、片腕のセバスに斬りかかる。
「遅い」
「ぐ、がぁッ!」
しかしセバスは、たった一振りで4本のナイフ全てを弾き飛ばしていた。今度は喉元に鉄の剣を突きつける。クワガタは、ピクリとも動けなくなった。
「続けるか? まだその顎のハサミを使った技を見せてもらっていないしな」
「……ぐ、いや。降参だ」
降参により、セバスの勝利が確定した。「勝者、5の52番!」との審判の宣言に、歓声が沸いた。
「やっぱり普通に強いな」
「あら、私のマスターなのよ? この程度当然よ」
「確かにアイディのマスターは強いわ。でも、完全体ケーマの方が強いんだから!」
おいロクコ、謎の張り合い方をするな。そして完全体ってなんだ完全体って。え、『神の毛布』装備ってこと? なんだかなぁ。
「お、見てケーマ。あれウゾーじゃない?」
「いやウゾーはおとといニクが倒した方だからムゾーだろ」
「ややこしいわね」
どうやらムゾーは俺達と違うブロックで、ここまで勝ち残っていたようだ。本戦まで行けるのだろうか? 相手は武道家のようだ。無手、いや籠手を着けている。
「うぉおおお!」
「必殺、 爆龍手(バクリュウシュ) !」
「ぐわーッ!?」
そういうスキルを使ったのだろう。地面が爆発し、ムゾーは吹っ飛んだ。
「ガイガンキン選手の勝利!」
「ハァッハッハッハ! 見てろよアルジャーロ! 次はお前だ!」
ムゾーに勝った選手は、もはやムゾーは眼中になく。指差した先にはデカい 突撃槍(ランス) を携えた男がいた。
うーんムゾー、見事な噛ませっぷりだったな。
「ロクコ。ガイガンキン選手は、同じブロックのアルジャーロ・メノウェ選手とライバル関係にあるらしいわよ? 順調にいけば決勝で当たるわね」
「へぇ! それは見ごたえありそうかしら? あの槍は何?」
「魔槍プロチューブね……まぁ、説明するより試合で見た方が楽しいんじゃないかしら?」
ロクコは早くもムゾーの事はどうでもよくなったようだ。まぁ、うん。普通に担架で運ばれてったけど特に大怪我してたわけでもないしね。そんなもんだね。
「お、次はニクね! 相手はどんなのかしら」
「カエル獣人ね。まぁ子犬なら楽勝な相手よ」
今度はニクだ。ちなみにニクは、これまでの敵をほぼ瞬殺している。小さな体躯に見合わぬ 膂力(りょりょく) 。的確に敵を片付ける黒髪黒目の褐色犬耳幼女。いつの間にか『 黒き猟犬(ブラックハウンド) 』なんて呼び名が付けられていた。
今大会のダークホース、ってところか。
「ぐぁぁぁお! 覚悟はいいか 黒き猟犬(ブラックハウンド) ぉぉぉぉ! 我が名はぁぁぁぁ!?」
「はい、続けますか?」
そして今回も飛び掛かりから首へのナイフ突き付けで、名乗りの途中で勝負がついてしまった。名前が「ぁぁぁぁ」とかいうことになっちゃうじゃないか、せめてちゃんと名乗らせてあげて? いやまぁ「始め!」の合図は出てたからいいんだけど。
「子犬のマナー違反もあるけれど、名乗りもできないほど弱い方が悪いのよ」
「そういうもんなのか」
ともあれニクも決勝進出。この調子で行けば予選突破もできそうだ。
「ちなみに結構な儲けになってるわよケーマ」
「賭けてたのか」
「当然よ。勝てると分かってるんだから賭けない理由がないでしょ? ケーマにも賭けてたからしばらく買い食いには困らないわよ。ね、イチカ」
「おう、ウチもばっちし稼がせてもらったで! あんがとなご主人様!」
そういやイチカは奴隷落ちするくらいのギャンブル好きだった。賭け事があるなら手を出さないはずがなく、ついでに ロクコ(スポンサー) に声を掛けない訳もなかった。
「俺も賭けときゃよかった……金貨100枚くらい」
「あらロクコのマスター。残念ながら出場者は自分以外に賭けられないわ。そして出場する時点で自分に賭けてることになってて、ファイトマネーはそこから出てるのよ?」
あと賭け金の上限もあるようだった。あんまり賭けが大きくなると裏で足の引っ張り合いが出てくるため、小銭が稼げるくらいで丁度いいんだそうな。
「足の引っ張り合い、選手は楽しいだろうけれども、観客としてはつまらなくなるのよね」
……選手は楽しいで済むあたり、やっぱり魔国だな。