軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

算段

早いもので、武闘大会前日。

俺とニクは、最後の仕上げとばかりに闘技場での調整を行っていた。

「おい、ケーマ。今の魔法のタイミングだが――」

「あー、なるほど。あえてもう少し遅くした方が――」

ちなみにセバスには俺の戦闘技能について色々相談に乗ってもらっていた。口調もすっかり砕けて、仲良くなったように思える。

おかげで俺の戦闘技能はメキメキと上達。ゴーレムサポーターなしでの動きもだいぶ良くなった。【エレメンタルショット】の攻撃力と合わせて、これなら本選出場くらいはできるだろう、とセバスからも太鼓判を貰っている。

(予選があり、これで勝ち上がったら本戦トーナメントに出られる。本来は予選に出るための地方予選もあるが、俺達は帝国からの出場枠のため免除)

あ、ニクは8位以上、入賞が狙えるレベルらしい。俺がまだ隠してる(とバレている)実力を加味しても、ニクに希望を託した方がよっぽど『神のパジャマ』を手に入れる希望があるそうな。

魔王流を駆使するダンジョンコア――魔族達とは別枠の大会。その準優勝の賞品が『神のパジャマ』である。……優勝賞品は、魔族達の大会への参加権らしい。まったく、バトルジャンキーなヤツらだ。絶対『神のパジャマ』の方が良い。間違いない。

「正直、あの犬がこんな短期間でこれほど強くなるとは思わなかった……」

尚、本日行ったニクVSセバスの模擬戦では、なんとニクが勝っていた。

フフフ、うちの子凄かろう?

そしてそのニクは、体力作りとして闘技場内をランニングしていた。……短距離走みたいなスピードで。

あと1分くらいなら息を止めたまま戦えるようになったらしい。前にアイディに「呼吸とか隙だから止めた方が強い」とかなんとか言われてたのを実践してるんだそうだが……実践できるのおかしいよねやっぱ。

「なぁケーマ。あの犬、マジで何者だ? どこで拾った」

「俺の抱き枕だ。山賊が買ってきた安物の獣人奴隷――のはずなんだがなぁ」

「アレが安物とか……帝国のレベルが高いのか、目利きが悪いのか……まぁ後者か」

普通の獣人じゃありえない成長具合らしいが、俺の作ったサポーターのせい、というのもあるだろう。

しかも俺が毎日コツコツ出したオリハルコン粒。アレをニクのサポーターに混ぜ混ぜしていったからな。まぁ誤差みたいな量だけど。

なので、俺は意味深にニヤリと笑っておいた。

もしかしたら交渉の必要もなく『神のパジャマ』を入手できるかもな、と思いつつだったから、きっと自然にニヤついていただろう。

と、そこにアイディとロクコ、あとイチカがやってきた。

「やってるわね」

「おうお嬢様。さっきあの犬、俺から一本取りやがった」

「まぁ……マスター、あとでお仕置きよ?」

「……チッ、かしこまりました、お嬢様」

面倒くさそうに舌打ちするセバス。そんなセバスを尻目に、ロクコが俺にタオルを差し出す。

「はいケーマ。汗だくじゃないの……珍しく頑張ってるわね」

「まぁ、『神のパジャマ』のためだからな……俺、パジャマ手に入れたら毎日使ってぐっすり寝るんだ……」

「ホント、寝るための努力は惜しまないんだから」

俺はロクコから受け取ったタオルで顔を拭いた。

ロクコにタオルを返すと、「背中とかも汗だくよ。ほら」とごしごし拭かれた。

タオルを【収納】にしまい、俺に『浄化』を掛けるロクコ。おかげでさっぱり……ん? 最初から『浄化』だけでよかったのでは? まぁいいか。

「しかし……結局明日にはもう大会だけど、『神のパジャマ』を確実に手に入れられる算段はつかなかったなぁ」

「え? 何言ってるのよ。決勝まで行って負ければいいだけでしょ?」

と、ロクコは気軽に言う。いやまぁ、それができれば苦労はしないんだが……

「そもそも、俺かニクが決勝まで行けると思うか?」

「当然でしょ。私と特訓したんだから、勝てるに決まってるじゃない」

「いやいやロクコ。お前との特訓は【エレメンタルショット】を覚えたくらいだろ……それでどうやって勝てってんだよ。相手は、特に上位の連中は避けるんだぞ?」

現に、セバスは避ける。その上で俺に攻撃してくるので、ゴーレム任せに避けつつ反撃とかを考えても、そんなジェットコースターに揺られつつ狙いを定めるという事が出来るはずもなく。そんな甘い照準では更に避けられやすい。

結果、せいぜい接近されるまでの1、2回しかまともに撃てないのだ。

ロクコの言う【エレメンタルフラッシュ】が習得できていれば、また話は違ったのだろうが。

「え? そんなの攻撃を無視して撃ちまくれば良いだけじゃない。何言ってるの?」

「何言ってるの、って。それこそ何言ってるんだ。攻撃を無視って」

「……毛布貸すわよ?」

……ん?

「え。ちょっとまて。毛布って、『神の毛布』……か?」

「そうよ? 普通の毛布貸しても意味ないでしょ」

待て。ちょっと待て。『神の毛布』って、確か――

「少しいいかしらロクコ。毛布でどうやって攻撃を無視するの?」

「あら。私の持ってる『神の毛布』はね、すごい防御力なのよ。父様が保証するわ」

―― 攻撃無効(・・・・) 。そんなブッ飛んだ特性がある毛布なのだ。

つまり、毛布をかぶって魔法を撃ち続けるだけで、俺は絶対無敵の固定砲台と化す。なんなら毛布をポンチョのように着れば移動砲台にもなれる。

だから、【エレメンタルショット】で倒すことが可能な相手であれば――確実に勝てる。ロクコはそう言っているのだ。

なにせ、弾切れの心配も一切ないわけで。ただでさえ自然回復の範囲に収まるのに、『神の毛布』の回復効果もあるときたもんだ。ハハッ。

「……流石にそれは反則じゃないかしら」

「あらアイディ? 父様が作った道具を使うことが反則となると、アイディも 魔剣(じぶん) 使っちゃダメってことになるんじゃないかしら? いわば、アイディ自身も父様が作った武器みたいなものでしょう? 魔剣型コアって」

「……極論だけれど、一理あるわ」

「それにゴーレムを使っても良い大会なんでしょ? ならただ優れた防具を使うってだけで文句を言われる筋合いはないわよね」

「んん……それも道理ね」

ロクコに言いくるめられるアイディ。……どうやら問題は無さそうだ。

……うん。ただの正攻法や、普通に交渉で『神のパジャマ』を手に入れようと特訓していた俺。どうやら知らないうちに 魔国(のうきん) の影響を受けていたらしい。

ウドンに頭が浸食されていた可能性もあるな……

「アイディ達、魔族が出る上位大会の出場権は他の人に譲ってあげるわよ。私達の目的はあくまで『神のパジャマ』だけなんだし。ねっ、ケーマ?」

「あー、うん。そうだな」

さすがにズルくないか? と思ったが、そういえば俺は卑怯上等のダンジョンマスターだった。気を取り直して、準優勝を、『神のパジャマ』をもぎ取ってくるとしよう。

「……ご主人様。わたしはどうします、か?」

見るとニクがランニングを中断してそこに居た。

ニクに頼らず、『神のパジャマ』を手に入れる算段が立ってしまった……まぁ、俺やロクコのボディーガードとして、強くなるのは無駄じゃないよな?

「あー、そうだな。ニクはニクで、やれるだけやってみたらいいんじゃないか? ……ほら、3位以下でも賞品はあるみたいだし」

「わかりました」

「頑張りなさいニク! なんなら優勝してもいいわよ!」

「はい、がんばります」

……いや、そういやすっかり忘れてたけどワタルも出るって話だし、優勝は難しいんじゃないかな?