軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「ご一緒にゴブリン退治はいかがですか?」

「ご一緒にゴブリン退治はいかがですか? 今ならさらにボア退治もついてきますよ」

ウサギの依頼(6匹分)を受けたところで某ファーストフードのやり取りを彷彿とさせるセリフを聞いた。

尚、討伐依頼にはよくあることらしいが、先に討伐をしてから依頼を受ける、ということが可能だ。討伐証明部位の提出をもって依頼達成なので、先に受けても後に受けてもそんな変わらない。先に受けておけば門を出る時の通行料がいらないのと、依頼取り下げられてもらい損ねる心配がないってくらいだ。

で、これはそのおススメらしい。

ゴブリンは畑を荒らす害獣で、北門の外に広がっている畑を狙ってくるらしい。門の中にも畑はあるけど、土地が高いためどうしても門の外にも畑を作っている。畑を荒らすのもゴブリンやボア(猪らしい)くらいなもので、それだけであれば冒険者に適当に狩ってもらう程度で十分で、土地代と比べたらだいぶ安上がりで済むらしい。

それとボアはあまり出ないが、肉が美味しいらしく、大きさにもよるが大体銀貨1枚~2枚の範囲で買い取ってもらえる。討伐証明部位は鼻だけど、ここが一番美味いとか。

一方ゴブリンの死体は刻んで畑に撒くといい肥料になるから、討伐証明部位の右耳を取った後、死体は畑の近くに置いておけばいいそうだ。……アンデッド化とかしない? 大丈夫?

ゴブリン退治とボア退治は常時出ているFランク依頼で、ゴブリンの場合は5匹分の右耳を持ってくればいつでも依頼達成として銅貨30枚と換金してくれるそうだ。

ボアは鼻1個で銅貨10枚、もしくはその鼻と銅貨1枚。鼻を選ぶとその場で3分割にして返してくれるらしい。(3分割にするのは依頼達成二重取り禁止のための処置で、2分割だと普通に倒したときに鼻が真っ二つということもあるからだそうだ)

ボアは二つの意味でおいしそうだな、【収納】があるから運ぶのも困らないし。

というわけで、今回行くのは西だけど、どちらも見かけたら積極的に狩る方向で行こう。ボアについてもイチカがやる気満々だ……とおもったが、それほどでもない。どういうわけだろう。

「冒険者だった時に狩りまくってなぁ……今数が少ないんはたぶん……うん、なんでもないわ。ああ、味は保証するで?」

既にやる気出した後だったようだ。

*

で、西門から外に出てウサギ狩りに来た。

ニク先生に大活躍を期待したいところだが、新人イチカの働きも見てみたい。

なにせ元Cランク冒険者だ、相当やれるに違いない。特に美味しいものがかかっているならなおさらだ。

とりあえず素手というのもなんなので、俺の剣を貸してやる。

「おっ、サンキューな。まぁウサギくらい素手でイケるで? 毛皮汚したら買い取り価格減るやろ。だからなるべく傷つけんように倒すんが常識やね」

「ん? でもそうすると血抜きできないぞ」

「血抜き? なんやそれ?」

……ん、血抜きを知らないのか?

「こう、血を抜くと肉が生臭くなくなるんだ。味もよくなる。肉が生臭いのは大体血のせいだからな」

「へぇ! そら知らんかったわ。常識は知らんのに物知りなんやね、そっかぁ、生臭くなくなる……うん、そりゃ、いろんな肉がおいしくいただけるようになりそうやなぁ、ぐふふ」

さっそくまだ見ぬ肉に思いをはせてよだれをたらしているイチカ。ホント、食欲魔人だなこいつは。

「で、血抜きってどうすればええん?」

「そうだな、一度見てもらったほうが早いか。……ニク、1匹狩ってきて」

「はいっ」

とてとてと森に入るニク。30秒後、ウサギを持ってきた。見事に首を一刀両断だ。

俺が足をもって吊り下げると、血がごぷごぷと溢れて足元に水溜り(血)を作った。

「このように、首を切って逆さ吊りにするとな、血がどばどば出るんだ。血がでなくなるまで逆さ吊り、以上。……簡単だろ?」

「せやな。……ちゅーか、ニク先輩こんなちっこいのに普通に狩りできるんやね。むしろウサギを30秒って凄腕やね、奴隷になる前は狩人やったんか? よく森の中でウサギの場所分かるなぁ」

「? かんたんですよ? ニオイでわかります」

「そっか、ニク先輩は獣人やったね。把握したわ。……いや、でもこの細腕でよくまぁ……」

とかなんとか言っていたが、次はイチカの番である。

実際どんなもんか見たいので、ウサギの血抜きをニクにまかせて後ろをついて行ってみる。

森をかき分けて進み、時折止まって耳を澄ませるイチカ。

5分ほどしただろうか、突然剣を逆手に構え、シュッと刃で地面近くを撫でるように縦に振りぬいた。

「おし、これでええかな? お、めっちゃ血ぃ出てるなー」

ひょいっと、頭のないウサギの足を持ち上げる。さすがは元Cランク、一撃で綺麗に仕留めたようだ。

「うん、普通に強いな。一撃で首が落ちてる……かなりの技巧者とみた」

「せやでー、ウチは斥候やったからな、本当は短剣……できれば包丁がええんやけどな。鳥とかも食うのに使ってたから弓も使えるで」

包丁ね、帰ったら作ってみよう。

「料理もできるからなー、いやーホンマお買い得やなウチ。知っとる? 最初の売値は金貨15枚だったんよ? いやぁホントになーんでウチが銀貨50枚なんやろうなぁ、たかがアレ食いちぎったくらいでピーピーいいおってからに」

「元の値段は初めて聞いたけど、それはもちろん食いちぎったからじゃないかな」

今聞いてもヒュンってなるわ。

「しっかし血抜きしたらゴブリンも美味しくなるかなぁ? あれはかーなーりーマズかったから期待でけへんけど」

「食ったのか……」

「奴隷になる直前な、借金返すために帝都の地下闘技場でちーぃと働いてて……まぁご主人様だから言うけどな、そこで『ゲテモノ食い』の見世物とかやらされてなぁ……ま、生きた魔物といろんな条件で戦って、食うまでがセットやな。ゴブリンなんかは骨以外全部食ったことあるで。……ゴブリンの白子は……ありゃマズかったわぁ……」

恥ずかしそうに「たはは……」と笑うイチカ。

地下闘技場なんてのもあるのか。

この世界の娯楽施設も気になるところではあるがこれは犯罪臭しかしないな。

ウサギをもって一旦ニクのところまで戻る。

「あ、おかえりなさいご主人様」

ウサギをもって突っ立っているニクの周りには、5匹のゴブリンが斃れていた。5匹とも首がすっぱり綺麗に落とされていた。

血の臭いにおびき寄せられて、さらにそこにいたのが小さな子供だったから襲い掛かったところ、見事に返り討ちにあったというところだろうか。

「おう……」

「あー、やっぱりなー。居る気はしたんよなー……」

全然気づかなかった。

「瞬殺かぁ。ニク先輩、コレどうやって倒しました?」

「囲まれたので、こう、片手でウサギもって、片手で、くるんっと」

動きを再現しようと、ニクは左手にウサギ、右手にゴーレムブレードをもって、左足を軸にバレエのダンサーのようにクルンッと回る。

刃が薙ぎ払う高さはちょうどゴブリンの首の高さだ。

布の服ゴーレムのアシストがあるとはいえ、そんな動き教えた覚えないんだけど。

……俺みたく動作をアシストするんじゃなくて、筋力だけ補強して動いてるのかな。

「……Fランクの動きじゃないなぁ。どんな鍛え方してるん?」

「……さあ?」

ともあれゴブリン退治の依頼が先に片付いてしまった。

討伐証明部位の右耳をさくっと切り落とす。

「じゃあ、残りウサギ4匹、二人で頼むわ」

「あれ、ご主人様はいかんの?」

「……俺は剣が苦手だからな……お客様の要望は美味しいお肉だ、ここは俺は血抜き係に徹するのが正しい」

「そうなん? 歩き方とかみるとなかなか鍛えてるように見えるけど」

あっ、それは布の服ゴーレムのアシストですね。

ん? この依頼において俺、何もしてない? 働かないで食う飯は最高だな!

……あ、でも血抜き係してるから仕事しちゃってるかぁ。

*

「おにく」

ウサギを見つけて、次の瞬間にはずばっと首が飛ぶ。

元Cランクの冒険者のイチカでもついていくのが少ししんどいと感じるくらいの身体性能をニクは披露していた。

「……てかニク先輩、それもしかして魔剣か?」

「しりません。ご主人様からもらいました」

その手に握る剣を素早く振ると、綺麗に血がピッと落ちる。『浄化』する必要すらなく、剣がとても良いものである証拠でもあり、剣技により綺麗に切り飛ばせた証明でもあった。

剣を再び構えてウサギを探すニク。お肉こと討伐済みウサギはイチカが持っていた。

ニクの方が索敵に優れている。血の臭いが充満していてもウサギの臭いをかぎ分けるその嗅覚は、もはやスキルなんじゃないかとイチカは感じていた。

「しっかし、ニク先輩はニクなのに色々仕込まれてるんやねぇ」

「? どういう意味ですか?」

「え? いや、ニクって……あー。ああー。そっか」

ここでイチカは気づいた。もしかしてご主人様は『 性奴隷(ニク) 』の意味を知らずにニクのことを『ニク』と呼んでいるのでは、と。

そして自分はご主人様に「常識について思いついたら教える」と言っていた、ならとりあえず教えておくべきだろう。奴隷は口約束でも主人との約束は違えることはできない。

「……あー。『ニク』っていうのはなー」

と、イチカは多少、ややぼかして本来の『ニク』の意味を教える。

ぼかされたが、しっかりとニクに意味は伝わった。

ニクは、自分の曖昧な記憶の中で行っていた行為の意味を知り、そういう事だったのか、と他人事のように納得した。

そして、少し考える。

考えながら新たに見つけたウサギの首を飛ばす。また1匹、お肉が増えた。

「ご主人様にはナイショにしましょう」

「……ほぉ?」

片眉を上げてどういうことかと尋ねるイチカ。

ニクは、ウサギを探しながら答える。

「この名前は、ご主人様がはじめてくれた、たいせつなものです。いまが名前と違うなら、これからを名前にあわせれば、もんだいないです。だから、ナイショでいいです」

それはなにかおかしい気がしたが、ニクの妖艶な微笑みにイチカは言葉を飲み込んだ。

その貌は、イチカがかつてみた獣人の冒険者によく似ていた。

獣人とは、親からもらった名前を大事にする本能がある。彼はそう言っていた。実際、勇者にちなんだという自分の名前に誇りを持っていて、それに沿おうと常に努力を続けていた。

名に誇りを持ち、名に恥じない存在であろうとする。たとえ奴隷になっても元の名前こそが自分の名前であると獣人は絶対にそのことを曲げない。表面上は名前を捨てて見せても、だ。

だが、ニクの今の貌は、それと同じくらいの決意がこもった貌だった。同時に、悦びすら感じているようであった。

言葉にするとしたら、『我が意を得たり』といったところか。

……イチカには、子供のするような表情とはとても思えなかった。

「でもこまったなぁ、ウチ、ご主人様と約束しててん。ニク先輩も聞いとったし知っとるやろ? 『常識を教える』って。……ウチら奴隷はそういう口約束も破れへん、どないする?」

ニクは首をかしげて答えた。

「イチカは、常識をおしえました。約束はやぶってません」

「……教える相手をご主人様、とは言ってへん、と。クク、とんだ策士やなぁ? ニク先輩」

「ご主人様には、ナイショですよ? もしやぶったら、おこります、よ?」

見たところ、ニクの首輪が少しだけ絞まっているように感じた。

だがニクはほほ笑んで、最後のウサギの首を刎ね飛ばしていた。