軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

御光臨

で、レオナ対策をダンジョンに追加してから数日後。

いまだにレオナの影は見えずいたって平和な日々――であったのだが、オフトン教のミサの後、シスター長であるスイラに呼び止められてしまった。

「あの、教祖様。少し良いでしょうか?」

「ん? ああスイラさん。なにか?」

ピンクの髪をふわりとゆらし、赤い瞳が妙に 艶(なま) めかしくも複雑な表情をしている。

いかん、ずっと眺めてたら魅了されてしまうやもしれん。さっさと用件を済ませよう。

「……ええっと、伝言を承っておりまして」

「伝言ですか?」

「はい。レオナ様から『やほーい、今度ダイード国で遊ぶから見にきても良いのよ』だそうです」

「……お、おう」

……どうやらレオナはダンジョンには来なさそうだった。うわぁい。ヤッタネ!

そういえばスイラはレオナ配下のサキュバスだったのを置いてかれてたんだよな、と思い出す。いつのまにか接触があったのか……というかダイード国ってどこだよ。知らないし行く気もないけど。

「えーっと。その、なんで俺に?」

「えと……あと、その。ウーマ様の中の人だからとレオナ様が仰っていましたので」

「人違いです」

「あの、ちゃんと指示には従うので今後ともよろしくお願いします、ね?」

「人違いです」

「……ではそういう 体(てい) で?」

俺よりもレオナの言う事を信じるか。まぁ当然だよね、うん、実際事実だし……くっそレオナめ。ついでにネタバレしていきやがって。中の人などいないという名言を知らんのかあいつは。

でもまぁ、うん。レオナはウチのダンジョンにこれ以上ちょっかいを出してこないらしい。……こないよな? 無理矢理誘拐とかされないよな……?

まぁそんなわけで。拍子抜けだがレオナの脅威は俺が関与していない所で勝手に去った。

はぁ、これでようやくゆっくり眠れる……

そう思っていた時期が俺にもありました。

「ロクコちゃん、遊びに来ちゃったわ」

「ハク姉さま! いらっしゃいませ!」

そう。ハクさんが御光臨されましたのだちくしょう。

白の女神と言われて信仰されるほど神々しいハクさん。まだこの間のダンジョンバトルからそんなに時間経ってるわけでもないのにもうロクコに会いに来たのか。そんなに会いたいのか。

なんにせよ久しぶりの来訪である。スイートルームは全く問題なく使用可能、おもてなしの準備はいつだって万全である。……あるのだが、今回のお供はいつものクロウェさんじゃなかった。

「……先日帝都で会ったばかりでしょうに」

「お忍びよお忍び。……それに、別の用件もありますからね?」

「……それは、その、後ろに控えてる彼女と関係があることで?」

「ええ、大ありよ」

と、先ほどからハクさんの後ろからロクコに熱い眼差しを送る赤髪の少女。

……魔剣型ダンジョンコア、666番ことアイディが同行していた。

「アイディも良く来たわね。歓迎するわ」

「ええ。歓迎されてあげるわ。それでは早速ひと試合 殺(や) りましょう?」

「うーん、それは私の知ってる歓迎とは違うと思うわ?」

ロクコが歓迎するも、早速アイディの決闘厨っぷりが発揮されている。……せっかくだからウチの村の決闘厨あたりと存分に決闘しててくれ。俺は知らん。

ハクさんを初めて見る村人もいるようだが、さっさと宿の応接室に迎え入れてしまおう。別の用件とかどうせ厄介な話があるに違いないのだ。

「それで、そのアイディと今回の訪問にどのような関係が?」

「なんというか……そうね、一言で分かりやすく言うならば、留学かしら」

「はぁ、留学ですか、帝国に」

「いえ、ゴレーヌ村に」

聞き間違えたかな。ゴレーヌ村って聞こえたような。

あっ、聞き間違いだな。きっとお隣の村、ドラーグ村の事に違いない。名前の響きが似てるから間違えたんだ。

「なるほどドラーグ村に留学ですか」

「どこですかそこ。ゴレーヌ村です。この、ケーマさんの、ゴレーヌ村に留学ですよ?」

「……聞き間違いではなかったようで」

ハクさんにニッコリと微笑まれながら逃げ場のないように言い切られてしまった。

……何か学ぶことがあるんだろうか? ウチの村。

「ちなみに交換留学みたいなものだから、後日ケーマさんとロクコちゃんには魔国に行ってもらうことになります」

なん……だと……?

「すみません、ちょっと今立て込んでましてダンジョンを離れられないんですが」

「それはもしかしてレオナ関係かしら」

「ええ、なんでも近くの村に出没したそうで、警戒を緩められないんです」

「それなら気にしなくていいわ。先日ウチに挨拶にきて、ダイード国へ向かったから」

ああ、ちゃんと行ったんだ、ダイード国。

チクショウ、律儀にハクさんに挨拶とか……行動が読めなさ過ぎる。

「それとそんな重大な事こちらに何の相談もなく決めないでくださいよ……」

「嫌ならいいのよ、嫌なら……ただ、神の寝具のひとつ『神のパジャマ』が魔国にあるのだけど。あ、これダンジョンバトルの時に約束していた情報ね? しかも闘技大会だかの賞品にされているとか……」

うわぁずるい。そんな大事な情報を絡めてくるとか。

「情報手に入れるのにも苦労したのよ、色々。なにせ魔国といえば敵国ですし」

「……もしかして魔国に行くには許可が必要ですか?」

「いいえ誰でも行けますよ。ただ、身の安全が保障できないだけで」

「それ許可が必要って事じゃないんですかね……」

「ちょっと違います。……帝国の使者として行くことで 絡まれにくくなる(・・・・・・・・) って感じかしら」

曰く、魔国はアイディや564番コアのように戦闘民族な連中が基本。

故に、国の使者とかでなければ確実に絡まれた上で負ければ奴隷になるような、そんな世紀末的国家らしい。

そして使者でもやっぱり絡まれるそうだ、さすがに奴隷にはしないけど。何それ怖い。

「というわけで、魔国へ短期留学する手筈をわざわざ整えて差し上げたのだけど、ケーマさんには不要だったようですね?」

「ははぁ! ありがとうございます、謹んでお受けします」

俺はハクさんに頭を下げた。

しかも今ならもれなく闘技大会への特別参加枠が付いてくるそうな。つまりこの交換留学は、ハクさんが用意してくれた『神のパジャマ』入手チャンスということらしい。

情報を、という話だったのにかなりサービスしてもらった感があるな……それとも俺には計り知れないハクさんの利益があるのだろうか。

「まぁ、それでこちらからケーマさんを送る対価として、先にこちらが留学を受け入れるという話になったのです」

「なるほど……ちなみにお互いの留学期間は?」

「それぞれ最大で1ヶ月、といったところかしら。気が済んだらその時点で切り上げても構わない、ということにしています」

つまり明日にでも帰って良いということか。

しかし、ウチの村にそんな学ぶようなものってあっただろうか……?

「無いなら無いでさっさと帰ってもらえるじゃないですか。ですが意外とあるようですよ、例えば……帝国に来た当初は『こちらの人間牧場は出入り自由でニンゲンどもがちゃんと服を着ているのね』とか言っていたくらいですから」

「……そんなこと言う国にロクコ連れてって大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ、あちらも『城下町』はちゃんとしています。……でも村、というか人間牧場の方にはロクコちゃんを連れて行ったらダメですからね?」

うん、絶対連れて行かないと心に決めた。

「それと666番の留学にかかった費用は経費として6番に請求するので、スイートルームに連泊させてガンガン搾り取りなさい。特別料金として通常の倍額にするといいわ」

「なんというボッタクリ……」

「私の付けた値段に何か不満でも?」

いいえ不満なんてこれっぽっちもありませんとも。イエス・ユア・ハイネス。

「……敵国人を泊めるのに同じ値段というわけがないでしょう。それに、1泊金貨50枚でもここのスイートなら十分常識的な範囲ですよ」

「マジですか……」

「……地味に快適具合に磨きをかけてますしね?」

「気付かれてましたか」

はい。実は趣味で快適システムを思いついたらまずスイートに実装してみる、いわばプロトタイプのような感じで改良を重ねてます。趣味で。そらもう趣味で。寝る事は俺のライフワークなもんで。

そんなわけでうちのスイートは1泊金貨25枚でも良心的価格だったらしい。逆に他所のスイートとかのレベルってどんなもんなんだろう。留学先が心配だ……

「それとここで搾り取って置いた分、留学先の宿が高額でも相殺という形で済みますからね」

「はっ! 誠心誠意搾り取らせていただきます!」

「よろしい」

ハクさんは満足げに頷いた。