軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウォズマ副村長によるドラーグ村訪問・振り返り

#Sideウォズマ

「……村長、いいかげんにしてください」

ケーマ村長がドラーグ村の視察から帰ってきた後、さっさと寝たケーマ村長に代わりイチカから色々と報告を受けたウォズマ。

翌日、ケーマ村長と会うやいなや開口一番にこの言葉が出たのは当然と言えた。

「お、おう。すまんウォズマ、ちょっと勝手にやり過ぎたかな?」

「はい、やりすぎです」

そう、明らかにやりすぎだ。成果がありすぎというか、相手がドラーグ村村長――パヴェーラ領主という後ろ盾を持ち、貴族で、神童と名高いシド・パヴェーラ――であっても「子供相手に大人げないですよ」と言いたくなる程に。

それほどまでに無能と言われたことを気にしていたのだろうか。いや、どちらかといえばそれを気にしていたウォズマ達村人に対する処置だったのかもしれない。

しかし本当に、本当にやり過ぎなくらいにやり込めていた。

まず最初。ケーマ村長がドラーグ村に着くなりふっかけられた決闘。

決闘を仕掛けられたのはまだいい。が、これがケーマ村長がシド村長を本気で叩き潰すきっかけになったのは間違いないとウォズマは推察する。

なにせシド村長が立てていた代理人がハーヴィであった。暗黒騎士とも呼ばれている彼は、パヴェーラでも有名な強者である。これは本気で勝つ気で挑んだに違いない。

ウォズマは知っている。ケーマは、鏡のような存在であると。

故に、本気で挑まれたのであれば、本気でやり返す。それがケーマという人間だとウォズマは認識していた。

そして勝敗は一方的すぎた。

こちらも代理人としてニク・クロイヌが戦ったわけだが、「正面から握手してびたーんびたーん」とはいったいどういう事か。イチカから繰り返し話を聞いても、ウォズマにはさっぱり訳が分からなかった。何度も詳しく聞いてようやく理解はできた。

ニク・クロイヌについては以前からもう尋常ではない実力を身に着けていると思っていたが、全身鎧を着た成人男性を片手で振り回すほどとは……と、ウォズマは少し気が遠くなったが。

さすがの神童もこれには対応を改め、友好的に進めるしかなくなったことだろう。

力を見せつけようと武力を持ち出し、それを逆に正面から捻じ伏せられたのだ。これで敵対しようという人間がいれば、そいつはただのバカである。

そもそもドラゴンを 手懐(てなず) けるケーマ村長に本気で勝てると思っていたのだろうか。

……もっとも、村長を詳しく知らない人間にとってはドラゴン退治の功績は勇者ワタルによるものだと思っても仕方ない。確かに勇者は同行していたわけだし、せいぜい交渉で活躍したくらいだと考えてるのが普通だろうか。

そこに勇者を連れずに、お供はメイドしかいない村長だ。これは絶好のチャンスだと思っても仕方ない。きっとウォズマでもそう考えたことだろう。

だが、それが罠だ。

そして決闘をしかけられたことで、ケーマ村長の逆鱗に触れてしまったのだろう。

決闘の賞品としてケーマ村長は『友誼』を求めた。これは、実にケーマ村長らしい妙手だとウォズマは感心せざるを得ない。

『友誼』と言いつつも、決闘を仕掛けたという負い目がある以上、実質『貸し』である。しかし『友誼』と言われてしまえばその上限がぼやけてしまう。

シド村長はケーマ村長に騙されたのだろう。あの眠そうな顔は、どうとでもやり込めそうに思えてくる顔だから。ぼやけた上限を下へ下へといくらでも引っ張れると勘違いしてしまったのだろう。

こうして『友誼』を全面的に受け入れてしまったら、もはやケーマ村長の独壇場だ。

早速ケーマ村長は『友誼』で魔道具を貸しつけることを決めた。ウォズマが知らない魔道具であったが、温泉が湧き出るダンジョン産魔道具だ。

早くも使われた『友誼』ではあるが、これはお互いに正当な取引となる。『友誼』を前面に押すことで断ることは出来ない形の取引にしてはいるが……貸し借りがチャラになるほどの内容ではない。

なぜならモノがモノだからだ。温泉の出る魔道具、これは水資源という、山中にある集落ではそれなりに貴重な代物(ゴレーヌ村では温泉があるほどなので特に問題ない点)を提供したことになる。

ドラーグ村はまさにこの水資源の問題を抱えており、現状以上の拡大が難しいという問題もあったのだ。ここに村長は魔道具を「適正価格」で貸し出すことで更に『貸し』を積み重ねつつ、同時に首輪をつけたことになる。

もちろんこの魔道具に依存しない道も探すだろうが、それまでは延々と『貸し』が積み重なる。もし賃料が暴利であれば、分かりやすく貸し借りは解消されただろうに。

きっと交渉では シド村長(金を払う方) がより高値を提示し、 ダイン商会(金をもらう方) がより安値を提示する奇妙なことになる。その上で、ケーマ村長のやり方を知っているダインであれば相場か相場よりも安い値段で契約をまとめるだろう。

教本に載せたいほどの、見事な恩の押し売りだった。

さらにダメ押しと言わんばかりに、ケーマ村長は『友誼』でシド村長をオフトン教に誘う。

これもこれだけでは特に貸し借りをチャラにするものではない。が、教祖と信者という関係からはっきりした上下関係がつく一手である。

そこにシド村長は軽い気持ちで「俺もオフトン教に入ろうか」と言ったのだろう。それこそ洗礼等をなんやかんや言い逃れして入信を先延ばしにするつもりだったのかもしれない。

だがオフトン教は「言った時点で信者」という、あり得ないほどの自由さがある。

オフトン教は入信も棄教も自由だが、貴族はそう簡単に前言を 翻(ひるがえ) せない。こうなっては積み重なった借りを少しでも返すためにもシド村長は入信せざるを得ない。

だからといってもケーマ村長はそこに無茶な要望を捻じ込むわけでもない。オフトン教とは、無理をしないしさせたりしない教えなのだから。

現に、後に引けなくなったシド村長が「一等地にオフトン教の立派な祠を立ててやろう」と手札を切ったところ、ケーマ村長は「適当に、宿にちっちゃい祠作ってくれればいいよ」とか返したらしい。

これでは本当に『友誼』が深まるばかりでしかない。

言い換えれば、『貸し』――あちらからすれば『借り』――だけが、どんどん積み重なっていくのだ。『友誼』の上限はその『仲』に比例するのだから。

これは既に、完全にドラーグ村を掌握したと言っても過言ではないだろう。

たった一度の訪問で。1日とかからずに。

ウォズマは戦慄を隠せず、何度目か分からない深いため息をついた。自分が帝都の宮廷に勤めていたころにこの手腕があったのなら、今頃宰相にでもなっていただろうな、と。

「えーと。しばらくはお飾りの村長として何もしないでおくよ」

「……そうしてください」

ケーマ村長にはいっそそのくらいの気構えで何もしないでいてくれた方が安心できるな、とウォズマは答える。

よもやたったの1日でシド村長に同情するようなことになろうとは、考えていなかった。

ここまでの力を見せつけられては、もはや間違っても「無能」などと口にできないだろう。

「ホントに何もしないで良いですからね。というか、しないでくださいよ」

「分かってるって。もちろん」

だが、さしあたり温泉の魔道具を設置しに行く必要があるそうなので、また何かあるのではないか、とウォズマは覚悟を決めていた。