軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:エルクベア討伐

エルクベア。ヘラジカのようなツノが生えたクマであり、モンスターである。

日本から来たワタルからしてみればウサギに角が生えてるのと同じようなものだろうなと考えている。もしヘラジカの角と同じであれば1年に1度生え替わっているんだろうか? と思いつつも、まぁいいかとワタルは森に向かって歩き出す。

今回の仲間はシキナ・クッコロ、ニク・クロイヌの2人。

シキナは力だけであればBランク冒険者並みであるが、人型のモンスター相手に非常に弱いという弱点を持つ。耳年増でいろんな意味で残念なエルフだ。

ニクは見かけこそ幼女であるが、獣人らしいしなやかさと素早さ、そして見た目からは想像つかないほどの 膂力(りょりょく) を持つ。名前が使い捨て奴隷によくあるニクと言う名前である以外は完璧といっていい。

「さて、それではエルクベアですが、どうやって探しましょうか。見つけた人から早い者勝ちでさっくり仕留めちゃっていいと思うんですが」

「いやいやワタル先生。自分たち、さすがに1人でエルクベアと対峙する気はないでありますよ? ねぇクロイヌ殿」

「? 早い者勝ちでいいのでは?」

「あ、クロイヌ殿は1人でもヤル気満々でありましたか。自分はワタル先生について行きたいであります」

首を傾げるニクに、シキナはやれやれと言った。

「まぁそれなら3人で行動しましょう」

「クロイヌ殿、ニオイで探せたりしないでありますか?」

「ニオイを知らないのでできません」

「あ、ニオイ知ってたらできるんですね。……クロさんが獣臭いと思った方に行きましょうか」

ニクはこくりと頷き、2人を先導して森の中へ入っていく。

時折くんくんと鼻を鳴らして、直進したり曲がったりすると、目的のエルクベアではなくオークが見つかった。

ワタルがあっさり首を 刎(は) ねて、ニクが討伐証明部位の尻尾を切り取った。

「血のニオイでおびき寄せられるでしょうか?」

「ああ、それはアリですね。エルクベアは雑食ですが、人の味も覚えてるでしょうし」

「え、人食いでありますか。犠牲者も出てるのでありますか?」

「一命はとりとめましたが腕をもがれたらしいですよ。神殿へのいい伝手がなければ冒険者は引退なところですね……あ、ケーマさんならオフトン教司祭でもあるわけですし、回復魔法使えるんじゃないですか?」

言われてニクは、そういえば以前クリエイトゴーレムで義手を作っていたりしたな、ということを思い出す。けれどそれは言ってはいけないことなので置いておく。

「そういえば師匠には以前【ヒーリング】をかけてもらったことがあるでありますな!」

「……ご主人様がどこまで治せるかはしりません」

「今度ケーマさんに聞いてみますかねー、正直に答えてくれるかどうかはさておき」

話を切り上げる。

オークを倒した近くの木に、大きな爪痕が残されているのを見つけた。熊のマーキングだ。

前情報と合わせておそらくここはエルクベアの縄張りだろうと判断した一行は、オークの死体から少し離れて待ち伏せをすることにした。

しばらくして、血の匂いを嗅ぎつけたのか体長2mの猪、グレートボアがやってきた。

「おっと、 外道(ハズレ) が釣れましたか。さっさと片付けましょう」

「自分が行くであります、とう!」

シキナはグレートボアの真正面に立ち、腰の魔剣セオーンを抜いて構える。

不意打ちすればいいのに、とニクとワタルは思ったが、よほど自信があるのだろう。見守ることにした。

一方挑発されたと感じたグレートボアは、シキナめがけて突進し――シキナはそれに合わせて剣を振り下ろし、すぱん、と真っ二つにした。

「ふっ……ぶべらっ!」

……が、綺麗に切れすぎて勢いは殺せず、真っ二つになったグレートボアに吹っ飛ばされる。シキナが木に激突し、グレートボアはその前で真っ二つに割れ、地面に倒れた。

シキナの魔剣セオーンの効果が発動。ダメージを服に転嫁した。腹部がはじけてへそが 露(あらわ) になる。ワタルはそっと目をそらした。

「よっし、やはり師匠たちのおかげで実力はついてるでありますな!」

「シキナちゃん大丈夫? 服破けてるけど。ただの布だけどこれつかって」

「大丈夫であります! ワタル先生もご存じの通り、セオーンの効果で服がはじけただけでありますゆえ。ダメージは皆無でありますよー」

お腹丸出しで喜ぶシキナはさておき、ニクは真っ二つになった討伐証明部位の鼻を回収する。……2分割になっているが、まぁ大丈夫だろう。

「お肉たくさん……たべごたえがあります」

「うん、持って帰りますか。食べきれなくても売れるし」

ワタルは【収納】にグレートボアを詰め込む。押し入れ程度しかない容量の【収納】にいっぱいいっぱいだ。オークやこの後討伐予定のエルクベアは持ち帰れるだろうか。シキナとニクの【収納】があることは確認済みなので、もう1体何か狩ったら一度戻って肉を納品するのも良いかもしれない。

「ん、臭いのがきました……」

「お、よかった。目的のエルクベアのようですよ」

今度こそ現れたのは、頭にヘラジカの角を生やした熊だった。二足で立ち上がっており、その高さは3mほどもある。

通常のエルクベアが1.5m~2mであることを考えれば、別種と言ってもいいくらいのサイズだ。

「これはデカいでありますな」

「シキナさんやってみます? ……あ、でも熊は人型にあたるのかな? 大丈夫?」

「よぉし、また任せてほしいでありま――」

シキナが剣を構える前に、ニクが飛び出した。

木とエルクベアの体を足場に駆け上がり、腰に差したゴーレムナイフを抜いてサクリと首に突き刺した。超振動するゴーレムナイフは、硬いはずの毛皮や喉の筋肉をかき分けるようにあっさりと滑り込み、喉の機能を破壊する。そして、そのままぐるりとナイフを走らせ、頭を切り落とした。

あまりにも早い仕事であったため、3人を餌だと認識していたエルクベアは全く反応できず、戸惑いのうちに首を裂かれた。血混じりの咆哮を上げることすら叶わず、森の腐葉土の上に地響きとともに倒れ伏した。

「――クロイヌ殿ぉ!?」

「早い者勝ち、でしたよね?」

横たわるエルクベアの体の上に堂々と立ち、返り血を浴びたニクは「何か問題でも?」と首を傾げる。

「あっはっは、鮮やかだねぇ。正面からの不意打ちとでも言うのかな?」

「わたしだけまだだったので、丁度よかったです」

ワタルから『浄化』を受けつつ、何事もなかったかのように――実際、エルクベアは何もできなかったが――エルクベアの体を【収納】に仕舞うニク。……頭が入りきらないようだ。

「それは持って帰ろうか。シキナちゃん、オークも持って帰ろうか」

「はいであります。よいせっ!」

シキナはオークの死体を【収納】に放り込む。こうして、あっさりとエルクベアの討伐依頼は達成された。

「……案外弱かったですね、くまにく」

「クロイヌ殿、さすがドラゴンを退けただけのことはありますなー」

「いやぁもうアサシンとかそっち系だよねクロちゃん。刃渡りがある方とはいえ、ナイフで熊を一撃とは思わなかったよ」

非常にきれいな状態でエルクベアを納品し、ワタルが「それやったのこの子なんですよ。しかも一撃でした」とニクを指すと「さすが勇者様より強い男より強い幼女!」と驚かれたのはまた別の話。