軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウェイトレスと隠し事

今日のシキナは食堂でウェイトレスをしていた。

ロクコの作ったシフトにばっちり組み込まれているこの残念エルフは、はたしてまともに仕事できるのだろうか? という疑問があったので、こっそりとメニューさんのモニター機能で観察することにした。

「お待ちどうであります!」

かしゃーん、と大きな音を立てて定食をテーブルに置くシキナ。

それを見て、教官役を兼ねて一緒に働いているイチカが眉を寄せた。

「おうシキナ、もっと丁寧にテーブルに置かんとあかんで? 適当にやるんやない」

「はっ! 了解であります!」

と、次はゆっくり丁寧に配膳する。

実に30秒ほどかけて丁寧に音もなくテーブルに料理の乗ったトレイを置いた。

「遅い! もっと早くや! 早くかつ丁寧にや!」

「はっ! 了解であります!」

と、そんなやりとりで強弱を交互に何度も繰り返し、最終的に丁度いい具合に収束していった。

「……よし! その感じや、忘れたらあかんで!」

「はっ! ありがとうであります、教官!」

ビシッと敬礼してお礼を言うシキナ。

なぜか客の冒険者からパチパチと拍手が出た。ウェイトレスにも全力投球のシキナは割と好意的にみられているようだ。

「いやぁ可愛いね。彼氏いるの?」

「か、彼氏は居ないのでありますが、自分はケーマ師匠の弟子でありますゆえ!」

「エルフか。このあたりじゃ珍しいよな? どっから来たの?」

「帝都であります! ケーマ師匠に弟子入りに来たのでありますよ!」

「いい尻だな、叩きたい」

「自分の尻を叩いていいのはケーマ師匠だけでありますゆえ!」

冒険者達の質問にも全力で答えるシキナ。

「また村長か」

「知ってた。結局この村の綺麗どころはケーマさんに集中するんだ」

「1人くらい俺達にも分けてくれ……」

そして俺に溜まるヘイト。知るかよその残念エルフで良ければ勝手に持ってけ、止めないから。

それに、綺麗どころって言えばギルドの受付嬢さんとかもいるんだから、別に俺だけに集中するわけでは無いはずだ。

「あぁん? お客様、そんなこと言って良いんか? 冒険者の女の子だって居るのに」

「大体彼氏持ちじゃんか! そうじゃないのにはもうフラれたわ!」

「そらロップとかのベテラン組の話やろ。ここは新人冒険者の訓練に良いって評判になってきてるやん、それで新人の女の子冒険者にやさしーく指導してあげればコロリっちゅーもんやろ」

「……でも、新人の指導してやるって声かけても警戒されるじゃん」

にやり、とイチカが笑った。

「そ・こ・で! ギルドの新人教育係の依頼を受けるんや! ギルドの紹介なら信用は当然ある。まぁきっちり仕事せなアカンけど、それはつまりカッコイイ先輩冒険者っていう……な?」

「(ガタッ)」

「ちょっと俺教育係の依頼受けてくる」

「おい抜け駆けするなよ」

「はーいまいどー。またのお越しをー」

イチカの話を聞いて、食べ終わってもダラダラ座っていた数人の冒険者が席を立って出て行った。

残っていたとある女冒険者(彼氏持ち)がイチカに話しかける。

「ねぇイチカさん。その新人教育の依頼って、あいつらが女の子の冒険者の担当になる可能性どんくらいあるの?」

「さぁな? 基本的にはあの依頼って同性が割り振られるようになってるから、数がどうしても足りないとかの事態があったらちゃう? でも最近はほんっとここに来る新人増えたからなー、案外スロットで大当たり出すより高いかもなー」

「ちなみにギルドから紹介料はいくらもらってるの?」

「秘密やでー」

イチカはニッカと歯を見せて笑った。小銭で結構儲かっているようだ。

「教官、紹介料とはなんの話でありますか?」

「教育係の依頼を紹介した分、小銭貰う話を取り付けてるんよ。……あ、これご主人様には内緒やで! ええな?」

「はっ、了解であります!」

イチカ、いつの間にそんな広告契約みたいな話取り付けてたんだ。

まぁ別に小銭を取り上げようって気も無いしいいけどさ。どうせスロットと飯代で全部使ってるみたいだし。

というわけで、きちんとウェイトレスの仕事はできたみたいだが、はたしてイチカの秘密をシキナは守れるだろうか。

むしろこのためにイチカにシキナに「何か秘密を教えて、俺には黙っておくように言っとけ」と言っておいたのだ。秘密の内容についてはイチカに一任で。

これは今後シキナもここで生活していくにあたり、確認しておきたいことだ。

なにせダンジョン関係の秘密をシキナ相手にどのくらい隠せばいいか、という話になるからだ。

まぁ仮に守れたとしても秘密を話す気はないけど、宿の廊下でメニュー使うのを控えるかどうかってくらいの話になる。あとバレたときの処分に関わるか。

俺は、シキナを応接室に呼び出した。

で、今日の報告を一通り聞いたところで俺は尋ねる。

「なぁシキナ。俺に隠してることはないか?」

「隠してることでありますか?」

シキナは首を傾げ、口に手を当てて考える。

「えっと、特には……あっそうだ。今日のパンツの色は白でありますよ。中も見るでありますか?」

そう言うとシキナは特にためらうことなくスカートを捲り上げた。

うん白いね、しまっとけやこの残念エルフ。

「そうじゃなくて、例えばイチカが何か俺に隠れてやってることとか……」

「ああ、そういえば内緒と言われたので報告していなかったでありますが、紹介料がどうのという話をしてたであります!」

シキナはあっさりとイチカの秘密をばらした。

隠す気配すらない。なんというガバガバな口だ。

「……イチカから黙ってろと言われなかったか?」

「言われたでありますが、上官の命令に逆らわないというのは常識であります」

「イチカのことは上官じゃないのか?」

「ここの権限の保有者はケーマ師匠と聞き及んでいるであります。ゆえに、ケーマ師匠の 言(げん) が最優先であります」

なるほど、筋は通っている。

シキナの中では明確に階級分けされており、より偉い奴に従う、と。

犬みたいなヤツだな。

「その基準で言って、お前にとって一番上は誰だ?」

「はっ! 自分は国に忠誠を誓った身でありますゆえ、一番上は皇帝様であります!」

「じゃあ俺がお前に秘密を話したとして……皇帝様がそれを話せと言ったら、話すわけだな?」

「はっ! おっしゃる通りであります」

「皇帝が民を殺せと言ったら殺すのか?」

「はっ! 殺すであります!」

マジかよ。ためらいなくノータイムで答えたぞ。

これには俺もさすがに引くわ。

「ちなみに帝国騎士団なら皆その心意気でありますよ。親族友人の命よりも命令を優先するのが帝国騎士でありますから」

「……へぇ? まぁ今お前は騎士じゃないけどな」

「こ、心はまだ騎士でありますからっ!」

よく分かった。つまりシキナにはダンジョン関連のことは完全に隠さないといけないという事だ。

ちなみに以前帝国騎士でも命令違反してダンジョンコアを壊そうとしていた奴がいたことは知っている。まぁ処分されたらしいけど、シキナが言う程ガッチリしてるわけでは無いだろうな。

……少なくとも、上の人間に隠し事が出来るレベルにまで教育しないとだな。

今のままじゃ何も考えてないゴーレムと同じ、いや余計な事を言わない分ゴーレムの方がマシってなもんだ。

そうだな……せめて色気が出る程度には恥じらいや隠すことを覚えさせよう。

騎士団に戻れなくてもどこかの貴族が拾ってってくれる程度には。

俺は、シキナの教育方針を固めた。