軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

現実逃避

「すばらしい実力の持ち主だ。気に入った、もしマイとの婚約が破談になったら私が面倒を見ようじゃないか」

「お断りします、ロンド様」

「ははは、振られてしまったよ。と、クロイヌ殿は『男』だったね。はっはっは、ぜひマイと仲良くしてやってくれ」

「はぁ」

あ、これは事情知ってるな。さすがに跡継ぎには話してたか。

ちなみに模擬戦の内容は、ニクが全避けしてロンドの首筋に木製ナイフをトントンするだけの内容だった。

ロンドの強さはだいたい冒険者換算でいえばCランクで中の上ってところか。Aランクのミーシャから稽古をつけてもらったニクには物足りないくらいだったようだ。

「で、でも兄上は魔法だって使えるんだからな!」

「そうですか」

ちらりと俺を見るニク。うん、ニクも魔法使えるけど言う必要はないよ。俺は首を横に軽く振った。そしてニクは小さく頷いた。

「……なにやら通じ合ってますわね」

「おやマイ様。婚約者と言っても俺のパーティーメンバーですからね、付き合いの長さもありますし、こればかりは致し方ありません。嫉妬しないでくださいね?」

「純粋に羨ましいと思ってるだけですわ。さぞかし長い付き合いなのですね」

「ええ、かれこれ1年ほどになります」

「……え、短くないですか?」

……この世界に来てから99%くらいの時間一緒にいるし、短いという意識は無かったな。ニクも俺の奴隷になる前の記憶が曖昧みたいだし、ほぼ俺と同じようなものだ。

1年だが、濃密なんだよな。

「……なら、わたくしも冒険者になろうかしら?」

「ではウサギ狩りからですね。頑張ってください、陰ながら応援しますよ」

そう流すとマイオドールはつんと不満げな顔をした。よし、正解の選択肢を選べたな。

「さて、それでは実力にも満足頂いたみたいだし、文句はありませんね? ジルバ様」

「……ここで認めなかったら兄上の実力にケチをつけることになるだろ。認めるよ!」

よし、これで偽装婚約者の障害は無くなったな!

「では、問題もなくなったようなので……我々は戻っていいですか?」

「ああ、すまなかったね。戻っていいよ、ゆっくり休んでくれたまえ」

部屋に戻る途中、明日は朝御飯いらないよってメイドに伝えといた。

というわけで、夜中のうちにこっそり抜け出してダンジョンに戻ることにした。

馬鹿め! 長くいればいる程厄介事が増えていくんだ、話がまとまった今、もはや領主の屋敷に居るなど悪手でしかないわ!

一応「ニク・クロイヌの名前、約束通り1ヵ月貸すから。本人借りたくなったらゴレーヌ村まで貸出希望の予定と合わせて早めに連絡されたし」という内容で一筆したため置手紙としておく。

「さて、眠いが大丈夫かな……行くぞニク」

「はい、ご主人様」

すっかり日も落ちた頃合いを見計らい、俺はニクを連れて屋敷を抜け出した。

うう、眠い。しかしここは我慢だ。

外は、街灯や酒場等の夜中もやってる店の明かりが少しついているため完全に真っ暗というわけではなかった。そういえば夜のツィーアを歩くのは初めてだ。……裏通りならもっと真っ暗なんだろうな。

とりあえず門までたどり着いた。

……閉まってやがる、遅すぎたんだ。やべっ、出られない。壁をよじ登って出るか? いや、魔法的な防衛機能が無いとも分からない。下手に試さない方がよさそうだ。どうするか……

「おい、そこで何をしている?」

と、少しうろうろしてると、突然兵士に話しかけられた。夜の見回りか。仕事熱心だな。

「ああ、兵士さん。ちょっと門の外に出たいのですが」

「今日はもう通行可能時間外だ。明日出直せ」

「……どうしてもダメですか?」

「どうしても、と言いたいところだが業務上説明の義務があるな。規定では領主様の許可がある場合や貴族様の場合は手続きをすれば通れるぞ」

どうやらこの兵士は職務に真面目ないい兵士のようだ。

……俺は領主の招待状を見せようかとも思ったが、確認のために領主の屋敷まで走られたら面倒だ。ここはニクの貴族の身分で通ることにした。記録には残るが、どうせ俺が居なくなったらゴレーヌ村まで探しに来るだろうから変わらんさ。

「貴族様でしたか。失礼しました」

「いえ、遅くまでごくろうさまです」

貴族(ニク) のねぎらいの言葉を受け、敬礼する兵士。その間に手続きを済ませる。

……簡単な筆記はゴーレム手袋でできるようにしておいてよかったぜ。

というわけで、手続きを済ませて通用口から外に出た。

ま、領主様からも「戻っていいよ」って許可は貰ってるもんな。

「さてと」

門の外は真っ暗だった。……道分かんねぇな。ゴーレムに自動で帰って貰うか。

俺は【クリエイトゴーレム】でカゴを作る。江戸時代とかにあったカゴ屋のカゴだ。あとはクレイゴーレム2体を作ってえっさほいさと運んでもらおう。

なに、ゴーレムならなぜか夜目が利く。地図通りに目的地に行くくらい簡単さ。

「というわけで、ケーマは帰ってきたと?」

「そうだけど?」

「ものすっっっっっっっっっっごい、ぶった切り感だけど、大丈夫なのそれ?」

「なんだロクコ、そんなの決まってるじゃないか」

ロクコの当たり前の質問に、俺は素直に答えた。

「……知ったことか!!」

うん、いい加減付き合いきれないのだ貴族のやりとりに。俺は疲れた。故に休養を要求する。特に今は帰って来たばかりで超眠いのだ、早く寝かせてくれ。

カゴの乗り心地は思いのほか悪く、全然寝られなかったのだ。

「……なんかその、私、ちょっと怒ってたけどどうでも良くなったわ。急いで帰って来てくれたし。真っ先に私に顔見せに来てくれたし」

あ、やっぱり怒ってたんだ。

「それじゃ2、3日寝るからその間の事はロクコに任せた。村長代理、頑張ってくれ」

「任されたくないわね、絶対問い合わせ来るでしょ? 来たら起こすわよ?」

「……わかった、まぁ起こさなくて済みそうなら寝かせてくれ」

現実逃避したくなる時もある。今はまさにその時だった。