軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ツィーア家訪問

定期便のガタガタ揺れる安い馬車に乗ってツィーアまでやってきた。

他の連中が門で手続き待ちの所を、招待状を見せたら別枠扱いですんなり通れた。

ニクを含めて通行料もタダだ、小銭が浮いたな。さすが領主の招待状。

門をくぐって、早速領主に会いに――行く前に、腹ごしらえがてら屋台に向かう。なにせこれからお断りしに行くわけだ、歓待には期待しない方が良い。サッと行ってサッと帰ってこれる、昼下がりの微妙な時間にお邪魔することにした。

「お、串焼き肉の屋台あったぞ。良い匂いがするな」

「はい、いっぱい買いましょう」

「いらっしゃ――おお、兄ちゃん久しぶりじゃねえか!」

ん? 誰だっけ……と思ったら、そうか。前にウサギ肉を納品したおっちゃんか。

「今日はウサギ肉狩ってきてないのか?」

「ああ、もうDランクだしウサギは卒業したよ。金にも困ってないしな」

「そいつは残念だがおめでとう、またウサギの気分になったら持ってくるといい、居れば買うよ」

「ありがとう。んじゃ、とりあえず5本くれ」

「あいよ。っと、味はどうする? 最近はタレってのを行商人から仕入れてな、いくつか種類があったが、ウサギ肉に合うヤツを使ってる。美味いぞ」

「……じゃあそれにしとくか。クロ、それでいいか?」

「はい」

うちのダンジョン産のタレか。そういや宿でも使うからダンジョンで出るようにしたんだっけ。ばっちり取り入れられてるあたり、流石と言えよう。

銅貨25枚を払うと、1本オマケで6本の串焼き肉を貰った。

「お、ありがとうおっちゃん」

「いいってことよ、お陰様で大繁盛してるしな」

早速ニクは串焼き肉を食べ……うん、尻尾がぱたぱたしてる。美味しいらしい。

俺も1本食う。タレがタレだし、焼き鳥みたいだ。そういやウサギは1羽2羽って数えるんだよな、なんてどうでも良いことを考えつつかぶりつく。肉が大きいので食いごたえがあるな。

「ご主人様……」

「ああうん、あと1本貰う。残り全部食っていいぞ」

ぱったぱったと尻尾が揺れる。

ニクは直ぐにはぐはぐと串焼き肉を食べ切った。……口周りにタレついてるぞ、フキフキ。うん、かわいいかわいい。ナデナデ。

「相変わらず仲がいいな。……奴隷のままにしなくていいんじゃないか?」

「そこは譲れない一線でな。万一も考えるとどうにも……」

そう、今更信用がない訳じゃない。だが奴隷じゃなくなったら拷問された時にダンジョンの情報を漏らすかもしれない、みたいなことがあり得る。よってダメだ。ダメったらダメだ。

断じて奴隷じゃなくなったら襲われそうだからとかいうわけじゃない。

「ま、複雑な事情があるんだ」

「ふぅむ、まぁ詳しくは突っ込まんが……大事にしてやれよ?」

「ああ」

俺はロクコ達への土産にもう10本買って【収納】に入れておく。

さて、腹も満たしたしそろそろ行くか。

「じゃあ行くぞ。……ところで、領主ってどこに住んでるんだ?」

「……わかりません」

俺は門まで引き返した。

さすがにツィーアの門番は公務員? ということもあってちゃんと道を知っていた。

招待状効果もあってかばっちり案内してもらい、屋敷にたどり着く。

……マップに記録したから今度からは1人でも来れるな!

領主の屋敷は、ツィーアの町の北東側にある高級住宅地でもかなり大きな屋敷だった。3階建ての白い洋館で、門から見える手前の庭も広いのに手入れが行き届いている感じだ。まるでどこかの公園だな。

そして今度は屋敷の門番に招待状を渡すと、応接室のようなところに通された。

……門番が「この冒険者風情が!」みたいなことを言う事もなく、実に丁寧な対応だった。教育が行き届いてるなぁ。

ソファーもうちで使ってるの程じゃないが柔らかい。隣にニクを座らせてしばらくボーっと待ってると、扉がノックされた。

「あ、はい」

思わず立って迎えると、入ってきたのは清潔な服に身を包んだ、すこしガッチリした身体の紳士だった。

「待たせたかね? ボンオドール・ツィーアだ。領主と言った方が分かるかな?」

「ケーマです。初めまして領主様、それほど待ってないです」

「そうかい?」

握手と自己紹介を交わし、対面に座り直す。

「……さて、良かったら少し話を聞かせてもらえないか? あの村について」

「それは良いですが、その。今回の話についてですね」

「ゴレーヌ村については、多少話は聞いているんだけどね。どのくらいのアイアンゴーレムが 獲(と) れるんだい?」

「さて、どのくらいだったか……私も詳しく把握しているわけではないので。まぁ冬の間には30体は獲れたかと。それで、今回の話についてなんですが」

「ほう、30体。それは中々の量だ。総鉄製の装備一式が200セットは作れるな、剣だけなら1万本くらいはいくか? そのうちケーマ殿が獲ったのはどの程度かね?」

「1人でというわけではないですが6体は関わってるかと……」

って、これいくらぐらい稼げるかを探られてる? ……年収は大事だもんな。

「あの。それで今回の話なんですけどね、おこ」

「ああ、ちょっと待ちたまえ。おーい、マイ、入っておいで」

「はい、失礼します」

そう言って、女の子が――青色の髪。もみあげ部分が縦ロールになっており、白い清楚な服を着ている、おおよそ10歳くらいの女の子が入ってきた。

……うん。もしかして。

「マイオドール・ツィーアです。あなたが私の婚約者となられるケーマ様でございますか?」

ま た ロ リ か。

なんなの? 俺のロリコン疑惑ってそんなに根強いの?

「……えと」

「おいおいマイ、違うぞ。 まだ(・・) 婚約者じゃあない。そうだろう、ケーマ殿?」

「え、あ、そうですね……いや、まだも何も婚約者になる気はないのですが?」

「ほう。婚約者を飛ばして配偶者に? 乗り気だなぁケーマ殿。ハッハッハ!」

「まぁ、気が早いですわケーマ様。……ふふっ」

いや、断らせろよ。なんでもう先に進む前提になってんの?

マイオドールはボンオドールの隣に「よいしょ」っと座る。

それを見て、ニクがちょいと手を挙げた。

「……よろしいですか?」

「……何かね? クロイヌ殿」

「今回の話、お断りさせてほしい、のです」

言ったぁああ! ニク、流れをぶった切ってバッサリ言ったぁああ!!

さすがニク、頼もしい! そんなニクを愛してる!

「すまない、良く聞こえなかったのだがもう一度言ってもらえるかね?」

「お断り、させてほしいのです」

すっとぼけても再度言ったぁああ! なんて頼もしさだ、自分のふがいなさが身に染みるぜ……俺は度胸が付いたつもりだったけどそんなことは無かった。ニクに比べれば俺の度胸なんてカスだよ、カス。

話の流れぶった切って言うことを言う、そこに痺れる憧れるゥ!

「……ケーマ殿? これはケーマ殿の意向かね?」

じろり、と睨まれるものの、あんまり怖くない。ハクさんの殺気を込められた視線と比べたら、こんなの春のそよ風みたいなもんだ。

「ええ、私は結婚する気は無くてですね……」

「気に入った! 良いだろう、ケーマ殿の意見を尊重しようじゃないか」

「お父様にきっぱりと意見を言い切れるだなんて……ケーマ様、素敵です!」

あ、あれ?

これ、最初から断るのが正解だったのか?

「そうですわよね、生まれながらの貴族ならともかく、ケーマ様は平民の出。となれば初対面の、それも私のような幼き身が相手ともなれば……当然の判断でしょう」

マイオドールがうんうんと頷く。……味方してくれるのだろうか?

「なのでここは婚約者候補としておき、気心が知れた頃に婚約を結ぶのがよいかと思うのですわ」

「おお、そうだな。マイは賢いなぁ。ケーマ殿、それで良いかね?」

「え? いや、」

「わたくし、ケーマ様とぜひとも仲良くしたいですわ。冒険の話とか、お聞きしたいですの、ぜひ、ぜひ!」

ずい、と身を乗り出してくるマイオドール。と、それを制したのはボンオドールだった。

「マイや。そろそろお勉強の時間じゃないか?」

「あら、それではこれで失礼します。ケーマ様、また後ほど」

マイオドールはソファーから下りて、部屋から出て行った。出るときにお辞儀をして俺に向けてニッコリ笑い、手を振っていた。

なんだろう。この部屋に入ってから俺の意思が半分以上無視されているような気がする。もう逃げた方が良いんじゃなかろうか。

「……さてケーマ殿。君を見込んで話があるのだが、まぁ、聞きたまえ」

笑顔のボンオドール。しかしその目が笑っていないことから、絶対に厄介事な匂いがした。