軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:守られた約束

ウゾームゾーは魔剣を求めて新たなダンジョンにやってきた。

魔王の支配下にある土地。ここでは手付かずのダンジョンもわんさとあるのだが、その中に魔剣を産出するというダンジョンがあった。

「ちょっと無茶だったかなぁ、ウゾー?」

「かもしれん、ムゾー」

ケーマと約束した1年の期限は、もう間近に迫っていた。

魔剣を見つけて、返す。約束を破るつもりはないが、魔剣はまだ見つけられていない。

そんなわけで、ちょっと無理してきたわけだが、今すぐそこの通路にはとても強そうな魔物が歩いていた。

人の身長よりも大きな白い狼だ。たしか、フェンリルとか言ったか。……一目見ただけでヤバイと分かった。そして逃げ込んだ部屋が安全地帯だったので一命はとりとめたが――石造りの、行き止まりの部屋だった。

「これは覚悟を決めなきゃならんかな? ウゾー」

「抜け道はないなぁ……また閉じ込められてないか、ムゾー」

「どうしようか。今回はこんなこともあろうかと1ヵ月分の食糧があるが」

「さすがに学んだな、ムゾー」

「1ヵ月もすればどこか行くだろう。気長に待つとしようか」

「そうだな」

そして3日が経過したが、未だにフェンリルは居座っている。

保存食も日持ちしない方から食べてはいる。……暇だ。

「これって安全地帯の中から攻撃したらダメなんだっけか……」

「それな。安全地帯が一時的に無効になるっていう話だぞ、ムゾー」

「そりゃ不味いな」

特にすることも無いので、ウゾームゾー兄弟はサイコロで遊ぶことにした。こんなこともあろうかと暇つぶしの道具も用意してあるのだ。サイコロは場所も取らないし、冒険者が持ち歩く遊具としては最適だった。

「チップ5倍、俺は2個振るぞ、ムゾー」

「おう、じゃあこっちは1倍のまま1個で対応だ。……ロール!」

「ロール!……ちくしょうピンゾロだ」

「4だ。俺の勝ちだな、ウゾー」

じゃらじゃら、と小さな銅貨をやり取りするウゾームゾー兄弟。もっとも手持ちの数には限りがあるので、本気でお金を賭けてのやり取りという訳ではなく、本物のお金をチップにしているただのゲームだ。

一通り終わったら、枚数を元に戻してもう1ゲーム。もう何度もやって、どっちが何度勝ってどっちが何度負けたのか分からない。そういうお遊びだ。

「しかし、閉じ込められた部屋に安全地帯。これで魔剣でもあればまさに、なんだが」

「あまり思い出したくない記憶でもあるなぁ……」

「今回は食料あるけどな。今回も助けが来るかは、分からんけど」

手持無沙汰に部屋を調べ始めるウゾー。

と、偶然ポケットからダイスが転がり落ちる。

カツン、カラカラ……と6面体のダイスが石床に転がり、6が出た。

「……あと6日くらい待って、それで助けも来ずアイツもどっかいかなかったら突撃してみるか?」

「そうだなぁ」

ダイスを拾おうとしたその時だった。

床板の色が違う。よく見ないと分からないが、ほんの少し、薄い色をしていることにウゾーは気が付いた。

叩くと、空洞のあるコンコンと軽い音が帰ってくる。

「ムゾー、なんかありそうだ」

「なんだ? 何があるって?」

ダガーを突き刺して床板を引っぺがす。すると、そこには一振りの剣があった。

そして、その剣には魔石が埋め込まれていた。

「おお! やったぞ、魔剣だ!」

「やったなウゾー! ……そいつを戻したら出口が開かないかね?」

「そりゃ無理そうだな。ここはあのダンジョンとは違うぞ、ムゾー」

「だよな。どんな魔剣だ?」

「分からん。魔力を流してみるか?」

ムゾーは魔剣を手に取り、魔力を流す。

そして、倒れた。

「お、おい!? ムゾー……ふぁ……な、なんだこれ」

「あー……無事だが、眠すぎる……なんだこれは」

その剣は、どうやら睡魔を無差別にまき散らすという効果があったらしい。

2人が起きた頃には、壁を挟んですぐそばにいたフェンリルも寝ていたほどだった。

危なかった。無差別に攻撃、とかいう効果だったら安全地帯が崩壊していたところだ……いや、この睡眠も攻撃とみなされてしまうのであれば、既にこの安全地帯は安全ではなくなっている。

2人は、フェンリルの横をすりぬけ、脱出する。

「なぁ、寝てたら倒せないか?」

「やめとけ。何時間寝たかは分からないが、一撃で倒せなきゃ起こすだけだ。死ぬぞ、ムゾー」

「ああ。そうだな、ウゾー」

ぐにり。と、何か踏んだ。『グルゥ!』とフェンリルが唸る。

ダッシュで安全地帯に逃げ、入口に向かって武器を構えた。

「おい、ウゾー……尻尾踏むなよ」

「あー、その、スマン……」

しかしどうしたものか、フェンリルは起きてこちらを睨んでいる。……どうやら安全地帯はまだ有効なようだ。ほっと一息ついた。

「……ふぅ。ムゾー、どうするよこれ」

「どうもこうも、また持久戦かな」

と、その時だった。

「お、フェンリル発見。……やるか」

フェンリルの後ろから暗い赤髪の少年が歩いて来た。無造作に、躊躇もなく。まるで自分の家の庭を歩くような気楽さだった。

「おい、危ないぞ!」

「ん? ……ああ、冒険者か」

ぐわぁ、と噛みつこうとするフェンリルを、手に持っていた剣で受け流す。

勢いを逸らされたフェンリルは、顔から地面に突っ込んだ。

「こいつは俺の獲物ってことでいいか? いいよな。……もう手を付けたぞ」

「え? あ、い、いいけど」

自分よりも小さな少年が、自分よりも大きなフェンリルを翻弄する。そんな冗談みたいだが、冒険者にはたまに、しかしよくある状況に、ウゾームゾー兄弟はただ見ているしかできなかった。

数分後、あれだけ脅威に感じていたフェンリルは傷だらけで地面に倒れ込む。

「よし、死んでないな。生け捕り成功だ。……ああ、そうだな。まったく、面倒なことを言うよあのジジイは」

剣に向かって話しかける少年。火を纏っていることもあったし、間違いなく魔剣だ。

しかし、剣に話しかけるのは少し引いた。いや、喋る魔剣があるのかもしれないか?

「今日はこのくらいでいいか。……邪魔したな」

「あ、いや。おかまいなく」

「なに、手間が省けたよ、ハハハ」

「……そうか。じゃ、俺はこれで」

そう言って少年は来た時と同じように歩き去っていた。ただし今度はフェンリルの尻尾をつかんで引きずりながら。

「なんか、助かったな、ウゾー」

「あ。お礼を言い忘れたな……次会ったらちゃんと言わないとな、ムゾー」

よくわからないが、あれほどの実力者だ。名前を聞き損ねたが、冒険者ならばそのうち名を上げることだろう。そうしたら礼を言いに行くのも良いし、また偶然会うことがあればその時に言ってもいい。

ともあれ、フェンリルという脅威がいなくなったので、2人はほぼ無傷のままラヴェリオ帝国の帝都まで帰ることができた。

ダンジョンから戻った2人の手元には、魔剣が1本。

……これでケーマに対して面目は立たなくもない。約束の魔剣を手に入れられたのだ。

「ついに魔剣を手に入れたが……これはなぁ」

「デメリットのある魔剣か……使いどころが難しいな。それこそ、今回みたいな偶然でもないかぎり、だ。一応鑑定してもらおうか? ムゾー」

「そうだな、一度店に持っていこう。これを売れば貯蓄と合わせて魔剣が買えるはずだ」

鑑定の結果、周囲に眠気をばらまく効果があり、それは無差別であるという事が分かった。そして、付けられた価格は金貨1枚。……ただの剣ならともかく、魔剣としてはかなり足元を見られている。

「睡眠導入的な効果で高く売れないだろうか。なぁウゾー?」

「ああ……普通は【スリープ】のスキルスクロール買う方が良いだろうし、売れなさそうだな。【スリープ】ならこの魔剣と違って対象は決められるし」

「魔力が無いヤツでもなければわざわざ必要もないかぁ。下手に寝るときに刃物を近くに置くのも危険性が増すだけだ、貴族向けにもならない」

「使い物にならないな。ああ、足元を見られるのも仕方ない……むしろ当然か」

はぁ、とため息をつく。

一応、コレの売値とこれまでの貯蓄を合わせれば新しい魔剣を買える、という見込みは外れてはいない。……この魔剣のようにデメリットのあり使い勝手の悪い魔剣しか買えないだろうけど。

「もう少し稼いで、少し借金すればデメリットのない魔剣あたりを買えるかな」

「だな……ちょっと帝都の高額依頼をチェックするか」

魔剣の売却は一旦おいておいて、帝都の冒険者ギルドにやってきた。

少し面倒だが金払いの良い依頼を見つけ、受理してもらった。

しかし、早速依頼に行こうとしたところで、意外な人物と再会することとなった。

「あれ、ケーマさんじゃないですか? 何でこんなところに」

「ん? 誰だ?」

そこには、命の恩人であるケーマが居た。が、いまいちこちらの事は覚えられていなかったようだ。

ケーマにとって人助けくらい日常茶飯事ということだろう。いちいち覚えていないのも無理はないし、逆に言えば見返りを一切期待していないということだ。

改めて命の恩人の器の大きさを感じ、必ず恩を返そうと心に決める。

話を聞くと、どうもあのダンジョンはだいぶ様変わりしたようだ。

あれから1年。そう、期限の1年だ。

「ああ――その、ケーマさん。ひとつ謝らなければならないことがある」

「1年で魔剣を手に入れて返す、と言ってたんだが、その、な……」

気まずさで言葉を濁すものの、それをケーマは察した。そして、

「なんだ、魔剣のことか。気にしなくていいぞ、別に俺はもう1年待っても」

やはり見返りを求めての人助けではないという事だろう。あっさりとそう言った。

そこに言い訳のように魔剣は手に入れることはできた、と口走る。デメリットのある魔剣しか手に入れられなかったというのに。

「よし見せろ。その魔剣を」

ケーマはそう言って、ウゾームゾーの手に入れた魔剣を見た。そして、鞘から抜き、そのデメリットすら確認して――

「こんな素晴らしい魔剣、他に見たこと無い。これでいい、いや、これがいいんだ!」

――力強く、この魔剣を欲した。

デメリットのあるこの魔剣を。ウゾームゾーが命がけで手に入れた魔剣を。

「ケーマさん……!」

「気に入った。もう返さないからな?」

心の底から嬉しそうだ。そう、それは魔剣なんかより、「1年で魔剣を手に入れる」という約束を守ってくれたことの方が嬉しいということだろうか。

「中古で悪いが、おつりだ。持ってけ」

「ケーマ殿、これは……」

「お前らがハマってた『強欲の罠』のところの魔剣と同じ奴な」

あろうことか、交換だといわんばかりに腰に差している魔剣をくれた。

しかも、これはデメリットもない、切れ味の増す魔剣。

さらにはこちらが2人だからという理由でもう1本。

「い、いいのか?」

「ああ、約束を守ってくれた礼だとでも思っとけ」

聖人か。

一応、形式としては恩は返せたものの、これはさらに恩を受けてしまった。なにせ1本の魔剣を渡したら2本の魔剣を貰ってしまったのだ。

今度は、返せと言われていないが――必ず、この恩に報いたい。

「ゴレーヌ村、だったか。ケーマさんが村長だそうだぞ、ウゾー」

「腰を落ち着けて村のために働く、というのも悪くないな? ムゾー」

とりあえず魔剣を買う必要もなくなったし、路銀も余裕がある。

今受けた依頼を片付けたら、村に行ってみよう。ウゾームゾー兄弟は、そう決めた。