軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女の本気(2)

まずは1個、土板に魔法陣を刻んでもらう。

そしてそれを【クリエイトゴーレム】で柔らかくした鉄に押し付けて――正確には溝にぴっちり入り込むように操作して、魔法陣の型を取る。これで『原型』ができる。

次は別の鉄を【クリエイトゴーレム】で柔らかくして、そこに『原型』を押し付ける。

『原型』を離せばそこに魔法陣の溝が、そのまま残る。

あとは普通に魔石を溶かし込んで魔法陣の完成だ。

「できあがりっと」

「うわぁー……」

そしてこの魔法陣、魔石を流し込むとちゃんと動作してくれた。助かったよ。

完成した魔法陣を見て、ネルネは驚いていた。

「こんな手があるなんて……すごいですー、これならいくらでも作れますねー?」

「だろ? 100個でも200個でも、だ」

要するにハンコ……いや、版画かな。これでいくらでも量産できるという寸法だ。

「でもこれ、マスターじゃなきゃできないですねー」

「ん? そんなことは無いだろ。型を作るのは面倒だけど、型があれば魔法陣を刻むのは粘土にしてやるとかでいい。保存性を高めるなら粘土を焼けばいいし……衝撃に弱いのは、まぁ粘土のままにしておくとかやりようはいくらでもある。……そうだな、なんなら『型を作る型』を作って、土型を量産。量産した土型を使って鉄の魔法陣を作り、土型を壊せば……とかな?」

そう告げると、ネルネはしばし固まった。

頭の中で本当にできるのかを考えているのだろう。

……というか、封蝋だってハンコなんだし、これくらいの発想があってもおかしくないとは思うんだけどなぁ。魔道具の価値を高めるために秘伝にされてるとか? あり得るな。

「マスター、それ、……できるじゃないですかー?! 技術革命ですよー?!」

「ついでに、頻出の記号や文字だけをバラバラに型にして、組み合わせて使うとかどうだ?」

「やだー?! このマスター平然と歴史を塗り替える発想をー?! メモするから待ってくださいー!!」

ネルネはばたばたとメモをとりだした。そんなに慌てなくてもいいだろうに。

しかしこうして、ガーゴイル量産の目処が立った。

もっとも、リンがしっかり防衛してくれるだろうから、万一の備えになるわけだけど……聖女の本気がリンを超えないとも限らないからな。

それになんか封印とかされてて落ち着かない。寝る気が遠のいてしまう。となれば、暇つぶしがてらガーゴイルを量産してもいいじゃない、というわけで。

せっかくなので、ネルネと一緒にひたすら作ってみることにした。

*

本気を出した1日目。1日目だが、聖女は初日のうちに決着をつける気でいた。

ダンジョンをすいすいと進んで黒い狼が陣取っている部屋の直前まで行く。慣れたものだ。それに、今は儀式によって発動した魔法【トリィティ】の効果により、ダンジョンが弱体化した状態になっている。尚更楽に進めた、と思う。

弱体化したダンジョンは、新たにトラップが増えたり、部屋が増えたりということが無くなる。ちょうど3日間という制限はあるが、ダンジョン攻略する時にはとても有用だ。

特に、弱体化中はボス部屋のモンスターが復活しない。おそらくこのダンジョンのボスである黒い狼、こいつも例外ではないはずだ。

ならば、一度でいい。ここで刺し違えても殺せれば、それでいいのだ。そうすれば後はトラップに気を付けてダンジョンコアを探せばいい。

……おそらく、強さから言ってこの黒い狼がダンジョンボスに違いない。最深部まで攻略されていないダンジョンで、低階層にダンジョンボスが顔を出すことがある。これはダンジョンではたまにあることなのだ。

強く、好戦的なダンジョンボスであればあるほどその傾向がある。侵入者を見て有無を言わさず襲い掛かってくるほどの好戦的な黒い狼なんて、まさにその筆頭だろう。

……ぱちん! と頬を叩いて気合いを入れる。そして部屋に入る前から魔力を練り始めた。

ブツブツと詠唱を続けながら、部屋の中を覗き込む。黒い狼は入口の方に注意を向けてきている……さすがに小声でも気付かれるか、と聖女は心の中で舌打ちした。

詠唱が完了する直前に部屋に入る。

それに呼応するように、黒い狼が駆け寄ってきた。尻尾を振りつつだったらまだ可愛げがあるものを、大きく口を開けて牙を剥いて、食べる気満々だ。

『がぁあああああ!』

吼える狼。だが聖女にとって、今更この程度では足を竦ませるようなことにはならない。足を竦ませたらその時点で死ぬことを知っているからだ。

1撃目を身を引いて躱す。ガチン、とすぐ目の前で牙が閉じられた。……詠唱は途切れないように続ける。ピクリと右足の付け根が動くのを見て、聖女はしゃがむ。すぐさま続いて右前足が外から横薙ぎに襲い掛かった。しゃがんだ頭の上を狼の前足がごう、と空気を鳴らして通り抜ける。蹴り上げるパターンだったら危なかった。チリッと頭の端に掠り、数本の髪の毛が舞った。

ぞくりと背筋に冷たいものが走る。冷や汗が流れるが、まだ終わらないことはやはり経験で知っている。右前足を振りぬいた勢いをそのままに倒れ込むように突進してくる黒い狼。暴走馬車や落石の方がまだ可愛げがある。

聖女はしゃがむ勢いをそのままに左に転がり、避けた。

そして、ついに詠唱が完成した。都合よく、黒い狼の横腹が目の前にきていた。

右手を突き出し、叫ぶ。

「――【ジャッジメントレイ】!!」

聖女の詠唱完了と同時に、閃光が迸る。一瞬遅れて直線的な光線がリンの胴体を貫いた。体を貫通した光線は、そのまま天井にぶつかり、クレーターのような跡を刻んだ。

――勝負あり。聖女はにやりと口端を上げた。

が、黒い狼は倒れなかった。

聖女の視界がチカッチカッと点滅する。魔力切れにより、意識が遠のく。

気が付いたら、聖女は宿に居て、オフトンの中で横になっていた。簡易祭壇が見える。

「アルカ様、お目覚めでしょうか」

「……ええ」

何が起きたのか。聖女は死に戻りした直後のぼやけた頭を叩き起こして考える。

光属性王級魔法、【ジャッジメントレイ】。上級、特級よりさらに上のそれは、一撃で一軍を薙ぎ払う戦術級とも呼ばれる攻撃魔法だ。邪悪を打ち砕く正義の一撃。明らかに邪悪な存在であろうあの黒い狼に効かないはずはない……現に、黒い狼の胴体には大きな穴をぶち開けてやれた。

その大きさたるや、穴を通して反対側が見え、子供ならその穴を通って抜けられるほどの大穴だ。しかし、黒い狼は体にそんな大きな穴が開いているにも関わらず、噛みついてきた。突き出していた腕を食いちぎられ、あとは頭からがぶり。

うろ覚えだが、それが今回の死だった。

「【ジャッジメントレイ】を使われたのですか?」

「ええ、魔力切れになりました。やはり王級は消費が激しいですね」

切り札のひとつを切って、それでも食われて死んだか。と聖女はため息をついた。

「……しかしあれほどの大穴を開けたのです、今頃、死んでるはず……! この勝負は私の勝ちですね」

もっとも、勝てるまで何度死んでも続けるので、いつかは勝つのだ。今回は滞在時間が圧してしまっていて勝てずに帰らなければならないところだったが――勝てた。

とりあえずは、死体を確認して冒険者ギルドからの依頼を達成したと報告しよう。これでこのダンジョンにきた名目がひとつ果たせた。

聖女は、今度は満足げにため息を吐いた。