軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:勇者とゴゾー

ワタル・ニシミは勇者である。

だが勇者と言えど金貨2300枚の借金は少し……いや、結構……いや、かなり痛い。

そんなわけで、スイートルームはキャンセルし、食事もランクを下げた。

宿代はハクから支給されたものだったが、仕方ないので返済に充ててもらうことにした。

通常部屋に移ったワタルだったが、別段困ることも無く、むしろお布団はかなり快適だった。今度来るときは最初からこっちに泊まってもいいな、と思う程に。

それに、どちらにせよ温泉には入り放題だし、遊戯室も使えるのだ。

ダンジョンのことが無くても温泉宿として泊りに来たい場所だった。

「……でも借金は痛いよなぁ……はぁ」

食堂でクリームシチューを食べつつワタルはため息をついていた。

「おう? どうしたよプリンの兄ちゃん」

「あ、どうも。……えーっと、ドワーフさん?」

「ゴゾーだ。昨日はプリンあんがとよ、で、どうしたよ溜息なんてついて」

「あ、ワタルです。ああいえ、ちょっとですね。借金ができてしまいまして」

ワタルは自分をごまかすようにハハ、と軽く笑った。

「はぁ、そうなのか。昨日の今日で大変だな。ケーマを部屋に連れてった後か? 何があったんだ」

「いやはや、ちょっとコレをしましてね」

そう言ってダイスを見せる。

「少し自信あったんですけどね」

「気を付けろよ、賭け事は身を滅ぼすぞ? ここの受付で、イチカってヤツ知ってるか。あいつ、賭け事で借金重ねて奴隷に落ちたんだとよ。今はだいぶ幸せそうだけど……あいや、今日みたらこの世の終わりみたいな顔してたけど」

「あはは、気を付けます」

聞き覚えがあった名前だったので、それはおそらく罰を受けたんだろうな、とワタルは苦笑した。

「つーと、相手はケーマか。アイツ自身がなにか賭けてるところを見たことないが……ここだけの話、俺とケーマはよく話す仲でな。なんなら少しくらい支払い待ってもらえるように言ってやるが」

「ハハ、ありがとうございます。……ケーマさんには無利子の分割払いで良いといわれたので、まぁ大丈夫ですよ」

「おおそうか。そりゃよかったな」

言いながらゴゾーは、土瓶の酒をぐいっと飲んだ。

「あれ、それお酒ですか? ここの宿、お酒は取り扱ってないって聞いてましたけど」

「ああ、持ち込みだ。商人と直接取引して、自分で買った分を持ち込むくらいは大目に見てもらえてるんだ。宿内で暴れたりしなければな。……飲むか? 昨日プリン奢ってもらったしな」

「いただきます」

実のところ、ワタルは酒を飲んだことは無かった。17歳でこの世界に召喚され、日本の習慣のまま20歳まではお酒もタバコもやらないようにしていた。で、よくよく思い返せばもう20歳。もう飲酒していい年齢だったが、たまたま飲む機会がなかった。

ワタルは、ゴゾーから土瓶を受け取って、ぐいっと中身の酒を飲む。

……どろっとしていて、アルコールの味が結構キツイ酒だった。が、嫌いではないなとワタルは思った。

「ほぉ、良い飲みっぷりだ」

「お酒って初めて飲みましたが、美味いですね」

「初めてか? ふむ、そりゃ素質あるな。まぁ飲め、暴れそうになったら外つれてってやらぁ」

「……じゃ、お言葉に甘えて。いただきます」

「おう、嫌なことがあっても酒を飲めばバッチリよ」

ゴゾーはまた別に酒の入った土瓶を取り出し、自分も飲む。

2人で飲んでいると、そこにゴゾーの相方、ロップがやってきた。ゴゾーはドワーフだが、ロップは人間の女性だ。

「お、飲んでるね! そっちのボク、見ない顔だけど新入りさん?」

「あ、ワタル・ニシミっていいます。勇者です」

「へー、お前勇者だったのか」

「勇者?! Sランクてことじゃないの。へーすごい、知らないで一緒に飲んでたの? ……あるある!」

と、ロップも酒を飲み始めた。

幸か不幸か、止める人は居なかった。

「ええっ、金貨2300枚! そりゃすごい巻き上げられたわね」

「そーなんですよー。ケーマさん、鬼です! 悪魔です! ケーマさんです!」

「おいおい、失礼だろ。鬼や悪魔なら金貨50枚くらいで許してくれるんじゃないか?」

「うう、半年はみっちり稼がなきゃ……」

「ええ、それで払えるの?! Sランクってすごいわねー」

「手段選ばずに本気出せば1カ月でもいけますけどね! 恨まれるのでやりませんが」

「そうだなぁ、恨まれるのはよした方が良いなー。まぁ飲め飲め、今日は俺の奢りだ」

「いただきまぁす!」

ゴゾーが出した酒を、出されるままに飲んでいくワタル。

「ねぇねぇ、ワタル君。ケーマさんに何かしたの? 金貨2300枚とか尋常じゃないと思うけど」

「いやぁ、ちょっとした勘違いで……昨日ここで給仕してた犬耳の子いるじゃないですか。あの子のことで」

「ああ、あの嬢ちゃんかぁ。ワタルはああいうのダメなのか?」

「ははは、そうですねぇ、小さな女の子がひどい目にあってると思ったら……助けられるなら助けたくなるじゃないですか、男としては」

「わー、ワタル君カッコイー。……でもダメよ? 奴隷はその人の財産なんだし。それに、あの子ケーマさんにぞっこんだから、今の立場に全く不満ないのよ」

「そうみたいですね……はぁぁ、余計なことしちゃったばっかりに借金金貨2300枚……2300万リオンかぁ」

「よし飲め。 今日は俺の奢りだ、酒はまだある!」

「いただきまぁあす!」

ゴゾーの出した酒を、勢いに任せてどんどん飲んでいく。ぷはぁ、とワタルは飲み干した土瓶をテーブルに置いた。

「ねぇゴゾー、カンタラのとこに行った方が早くない? 酒がまだあるって言ってもおいてあるの鍛冶場のとこでしょ? それに、あっちならもっと騒がしくしても大丈夫でしょ」

「おぉ、そうだなロップ頭いいな! おーいキヌエさん、ツマミになりそうなもんくれや。あっちで飲むぞワタル、ついて来い!」

「ついてきますゴゾーさんっ!」

「あ、キヌエさん。これ代金。できたら持ってきてくれる?」

「ええ、かしこまりました。レイに持って行かせましょう。芋の薄揚げでいいですか?」

「ホクホク揚げも欲しいかな」

こうして、ワタルの不満を吐き出しているうちに意気投合した彼らが、のちに「チームバッカス」と呼ばれて世界をまたにかけて旅する仲間になるのは、また別の話。

尚、「チームバッカス」の主な活動目的は『世界中のお酒を美味しく飲み尽くす』である。

*

「いやー、お酒ってあんな美味しいもんだったんだなー」

翌日、ワタルは二日酔いすることも無くすっきりとした目覚めを迎えた。

元々の素質か、はたまた勇者の力で耐性が付いているのかは分からないが、お酒を楽しめて翌日も元気というなら気にする必要もなかった。これからもいけるな。

今日もダンジョン『欲望の洞窟』へ行く予定だったので、二日酔いになってたら予定を変更していたところだ。

そして、そろそろ一度帰らなければならないので、今日あたりがガッツリとダンジョンを探索できる最終日だろう。

なので今日は潜れるところまで潜ってみるつもりだった。

「……いくか」

ワタルは勇者としての装備を手に、ダンジョンへ向かった。