軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87 お祝いパフェ(2章完結)

庭の中央に置かれた大きなテーブルに、持ち寄った料理と酒が並ぶ。

好きな酒を飲んで、好きなものを食べて、好きな人たちとお喋りをして――。

賑やかな時間が流れる中、アルメはキョロキョロと周りを見まわした。

(そろそろデザートを出してもいい頃かしら)

様子を見つつ、ふむ、と頷いた。

隣にいるファルクと、向こうで豪快に酒をあおっていたジェイラに声をかける。

「そろそろアイスを出しましょうか。お二人とも、お手伝いをお願いしてもいいですか?」

「えぇ、もちろんです」

「了解~!」

事前に二人には、アイスの盛り付けの手伝いをお願いしておいた。

これから作るのは、とびきり華やかなパフェだ。

早速動き出しながら、ジェイラはとある荷箱のふたをパカッと開けた。中には『小型花火』が入っている。

「アルメちゃん、パフェにこれ、仕込むっしょ?」

「はい。完成したら、グラスの脇の方に一本プスッと刺す感じで」

「おや、それは何ですか?」

ファルクが不思議そうな顔で覗き込んできた。そういえば、彼にはパフェを作ることは伝えていたが、花火を添えることは言っていなかった。

先にネタばらしをしてしまうよりも、体感した方がより楽しめるだろう。そう考えて、内緒にしておくことにした。

「これはパフェに花を添える仕掛けです。食べる時のお楽しみ、ということで」

「気になりますね。――さ、では、早く作りましょう!」

ファルクはそわそわしながら、驚くほどの手際のよさでグラスを並べ、パフェ作りの準備を整えた。

彼は並べたカクテルグラスにキャラメルフレークを入れ、甘く煮たリンゴのコンポートを敷いていく。

ジェイラがその上にミルクアイスを丸く盛って、仕上げにアルメがカットフルーツを盛りつけて飾る。

最後に生クリームをしぼって添えて、フルーツミニパフェの完成だ。

どんどん作って、テーブルに並べていく。カラフルなフルーツの色合いが目に楽しい。

並べたパフェを覆うように氷魔法を使うと、涼しい冷気に誘われて、みんなが寄ってきた。

エーナとアイデン、そしてチャリコットまで割って入ってきて、パフェ作りを見学しだした。

エーナは華やかなパフェを見て目を輝かせた。

「わぁ、可愛いわね! これ、前に試作をしたっていう、新作のアイス?」

「そう、フルーツパフェ。これはミニパフェだけど、主役のエーナとアイデンにはもう少し大きいのを作るわね」

エーナは顔をほころばせ、その隣で、アイデンはこっそりとフルーツをつまみ食いしていた。

花火の容器を覗き込み、チャリコットが一本、手に取った。

「この棒は? アイスに使うの?」

「あぁ、ちょうどよかった。チャリコットさん、その棒をパフェのグラスに一本ずつ刺してもらえませんか」

「え? こんな感じ~?」

チャリコットは言われた通りに、小型花火の棒をパフェに刺していく。

花火はペン先ほどの細さで、手首から指先くらいの長さだ。花火職人グラント・クレイの腕により、超小型化に成功した。

チャリコットも巻き込んで、四人でテキパキとミニパフェを仕上げていく。最後にエーナとアイデン用に、一番豪華なパフェを作った。

そこにもプスリと花火を刺して、スプーンと共に二人に手渡す。

まじまじとパフェを見つめている二人に、アルメはにこやかに言い放った。

「では、点火します」

「は!? 点火!?」

「待ってアルメ、アイスに火つけるの!?」

アイデンとエーナはギョッとして、守るように自分のパフェを引っ込めた。

側で見ていたファルクまで、目をまるくしていた。

「大丈夫、アイスを燃やすわけじゃないから! ちょっと火花が散るから、顔には近づけないように気を付けて」

各々の反応に苦笑しつつ、アルメは小さな着火器を取り出した。炎をそっと、二人のパフェの花火に近づける。

花火の先に火が移る――と、キラキラとした光の粒子が弾けた。

華やかなフルーツパフェを引き立てるような、美しく繊細な花火が舞う。

前世の線香花火よりも煌めきが強い。なにやら、妖精の魔法の粉を調合してあるのだとか。

「これって花火? だよな? いや、おもしろいな! 花火を仕込んだ食べ物とか、聞いたことねぇよ!」

「あっはっは! なにこれ! すごく綺麗ね!」

二人ともパフェグラスを掲げて、はしゃいだ声を上げた。

その様子を見て、他のゲストたちもワイワイと集まってきた。ミニパフェを手渡しながら、一つ一つ花火に火をつけていく。

奇抜で華やかな花火パフェに、パーティー会場は大いに盛り上がった。

チャリコットは自分のパフェに三本も花火を刺して、ジェイラと共に、ひときわ派手に輝くパフェに大笑いしていた。

よい退院祝いになったようだ。子供のようなはしゃぎように、こちらまで笑ってしまった。

「ファルクさんも、どうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

アルメとファルクも自分たちのパフェを手に取って、花火に火をつける。

「これは楽しいですね! デザートを花火で彩るとは!」

「煌めきが強いので、日の下でもばっちりですね」

手元でキラキラと輝く花火に、美味しそうなフルーツパフェ。そして周囲に満ちる、人々の明るい笑い声。

隣には、花火と同じくらい目をキラキラとさせて、楽しんでいる友人。

パフェを掲げて見つめながら、なんだかしみじみとしてしまった。

なんて素敵な時間なのだろうか。幸せだなぁ、なんて気持ちが、心に湧き上がってきた。

もし叶うのならば、自分もいつか、こういう幸せな祝いのパーティーを開きたいものだ。愛する人の隣で、愛する友人たちに囲まれて、大笑いできるような祝いの日を迎えたい。

のほほんとした顔でそんなことを思っていると、ファルクがこちらを向いた。

「どうしました? ぼんやりとして」

「なんだかパーティーの雰囲気に、しみじみとしてしまって。私も縁探しが上手くいったら、みんなでこういうお祝いをしたいなぁ、なんて。……まぁ、そのためには、まずは諸々を頑張らないといけないんですけど」

「気負う必要はないと思いますよ。縁探しはゆっくり、のんびり、慌てずに、いくべきかと」

ファルクはわざわざ言葉を区切り、強調して返してきた。他人事だと思って、悠長なことを言う……。

「……からかってます? そうしているうちに、行き遅れてしまいますよ」

「大丈夫ですよ。アルメさんは魅力的なお嬢さんですから」

「そんなよいしょをしても何も出ませんよ。――あぁ、アイスのおかわりくらいは、出しますが」

ファルクのからかいに対して、アルメは冗談を返して笑った。彼も笑いを返してくれるだろう、と思ったのだが――。

向けられた表情は、凛としたものだった。真っ直ぐな視線がアルメを捉えた。

「よいしょでも、からかいでもありませんよ。心からの言葉です。あなたは行き遅れる前に、きっとさらわれてしまうでしょうね。欲深く、身を焦がした男によって」

「え、なんか怖いですね……変なこと言わないでくださいよ」

なんだか占い師の予言みたいなことを言われた。アルメは将来、こじらせた変な男にでも誘拐されるのだろうか……。

そういえば前にエーナと寄った占い屋でも、ちょっと怖いことを言われたような……。

「ふふっ、どうかお気をつけくださいね」

動揺するアルメをよそに、ファルクは爽やかな笑みを浮かべていた。

話に区切りがついたのと同時に、パフェの花火が終わりを迎えた。

演出を楽しんだ後は、味を楽しむ時間だ。

スプーンでフルーツとアイス、そして生クリームをすくって、パクリと頬張る。やはり生クリームがあると、アイスとフルーツの美味しさが引き立つ。

みんな思い思いに感想をこぼしながら、パクパクとパフェを頬張っていく。

「冷たくて美味しい!」

「クリームうま~! アイスに合うな!」

「これ本当に美味いな。もうちょっと食べたい……ええと、おかわりは――」

見た目だけでなく、味も気に入ってもらえたようだ。

隣のファルクもニコニコしている。

「生クリームが加わると、さらに美味しいですね! 絶品です!」

「これからはお店でも、生クリームを添えたアイスを提供しようかなと考えています。牛乳屋さんで、新しく仕入れ契約を結ぶことにしたので」

「それは楽しみですね。是非とも、パフェもメニューに加えていただきたいです。――あ、アルメさん、口の端にクリームがついていますよ」

「あら。どっち側ですか?」

アルメはハンカチを取り出して、クリームを拭おうとした。けれど、ハンカチを持った手は、宙に浮いたまま止まってしまった。

アルメが動くより早く、ファルクの手が頬に届いた。

彼はアルメの頬に手を添えて、親指でクリームを拭った。そしてそのまま、指のクリームをペロリと舐めとってしまった。

流れるような一瞬の動作だった。

何をされたのか理解した瞬間、アルメの頬は真っ赤に染まった。

「な……っ、ちょっ……何を……!」

「拭って差し上げようかと思いまして。いけませんか?」

「そ、そういうことは、もっと親しい間柄でやるべきことかと……!」

「そうですか。では、これからもっと親しくなりましょう。こうした甘やかなじゃれ合いが許されるくらいに」

「からかわないでください……!」

照れに呻くアルメを見て、ファルクは目を細めて笑った。

いつもは暑さに汗を流すのはファルクの方なのだけれど。今日、この時ばかりはアルメの方が熱に参ってしまった。

アルメの赤い頬とは正反対に、ルオーリオの空は青く輝いている。教会の庭には日差しが降り注ぎ、人々の笑顔を照らす。

青空の下、賑やかなパーティーは日が落ちるまで続いていくのだった――。

(2章 おしまい)