軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

81 敵地でのアイス比べ

アルメとファルクはキャンベリナのアイス屋の玄関扉を通り抜けた。

二人でこそりと囁き合う。

「ひとまず、中に入れましたね。潜入成功です。……中にキャンベリナさんがいたら、追い出されるかもしれませんが」

「警戒しておきましょう」

さりげなく周囲に目を向けてみたが、キャンベリナの姿は見えなかった。彼女の姿を探しつつ、店内の様子も観察しておく。

外観だけでなく、店の中の造りも煌びやかだ。シャンデリアの下に優美なテーブルと椅子が並ぶ。

アルメの店と違ってアイスカウンターはなくて、席について注文する形式らしい。

店員に案内されて、二人は窓際の席についた。ここまでは順調だ。そしてここからが、偵察の本番である。

アルメは渡されたメニューを見て、アイスの種類を確認した。

「苺アイス、マンゴーアイス、蜂蜜レモン、オレンジ、コーヒー、……そして、白鷹様アイス」

「アルメさんのお店と同じメニューですね。でも、最近出した新しいアイスはなさそうです。アイスキャンディーとか。そのうち追加されたりするのでしょうか……?」

「う~ん、どうでしょうね。アイスキャンディーは安価な庶民向けですから。棒を持ってかじりつく、というのは、貴人が相手だとウケない気がしますが……」

溶けて垂れてくるアイスをぺろぺろしながら食べる、というアイスキャンディーは、格式の高い店には受け入れられない気がする。

あれこれ小声で喋りながら、二人はとりあえず注文を決めた。

「私は苺アイスと白鷹様アイスにしてみます」

「では、俺は蜂蜜レモンと白鷹アイスを頼んでみましょう」

ファルクが店員を呼び、注文を伝えてくれた。

アイスを待ちながら、もう一度店内を見まわしてみる。

客は富裕層のみ。着飾った紳士淑女がお喋りを楽しみながら、上品にアイスを食べている。

今考えるべきことではないのだけれど、ふと、思ってしまった。この店の雰囲気には、洒落たパフェがよく合いそうだなぁ、と。

(この前作ったベリーパフェなんか、とても合いそうだわ。華やかで、色合いもお洒落で……)

そんなことを考えているうちに、注文したアイスが運ばれてきた。給仕がテーブルに並べる。

出てきたアイスを前にして、アルメとファルクは目をまるくした。

「これが白鷹様アイス!?」

「ずいぶんと頭身が高くなっていますね!」

白鷹様アイスは、なんと三頭身くらいになっていた。

アルメの店の白鷹ちゃんアイスは、まるっこい一頭身のヒヨコである。対するこちらの白鷹様は、ちゃんと鷹らしい造形をしていた。白い彫刻のようだ。

アルメは頭を抱えた。

「ぎ、技術が、すごい……。ミルクアイスでちゃんとした鷹を作り上げるなんて。お菓子職人さんの腕を感じますね……私にはできないです。……負けました」

「しっかりしてくださいアルメさん。俺はヒヨコの方が好きですよ。というか、ここまで精巧に作られると、逆に食べづらい気がします」

ファルクはスプーンの先で、白鷹様アイスをつついた。カツカツと音が鳴る。固く凍らせたミルクアイスを彫ることで、鷹の形を作っているらしい。手が込んでいる。

アルメの前世には高速鉄道というものがあり、確かその中で販売されているアイスはカチカチに凍っていた。なんとなく、そのアイスを思い出した。

「さぁ、ほら、まずは食べてみましょう。評価はそれからです」

「そうですね……いただきましょう」

二人はスプーンを握って、白鷹様アイスに差し込んだ。固くて少々食べづらいが、なんとか一口分を削り出して頬張った。

口の中で溶かして、ミルクアイスを味わう。

しばしの無言の後、感想を言う。

「白鷹様アイス、立派な見た目の上に味まで負けてしまったら、もう私のアイスなんて……――と、思ったのですが。これは……」

「なんでしょうね。味が薄いような……?」

「薄い、といいますか、あっさりしているといいますか」

二口、三口と食べてみると、段々はっきりとわかってきた。こちらの店のミルクアイスは、さっぱりとしていて口当たりがいいが、コクがない。

「う~ん、牛乳の違いでしょうかね」

「冷たい食べ物は味が飛ぶので、個人的にはアルメさんのお店の、濃厚なミルクアイスの方が美味しく感じられます」

「練乳とかを足したら、ちょうどよくなりそう」

ケチをつけるのは申し訳ないが、濃厚なミルクアイスに慣れた舌だと物足りなく感じた。

この味ならば、アルメの店のミルクアイスでも十分に戦える気がする。

――アルメの完敗に終わるかと思われたミルクアイス戦は、思わぬ勝機を得た。

持ち直した気持ちのままに、苺アイスの方も食べてみる。

「苺アイスの方は、あまり違いがわかりませんね」

「蜂蜜レモンも大きな違いはないように思えます」

二人でもぐもぐと食べ進めながら、なんとも曖昧な意見を交わし合う。

アイスのようにキンと冷えた食べ物だと、味の微妙な違いを感じとるのが難しい。

これがあたたかい料理であったなら、もっとはっきりと優劣がついたのだろうけれど。

感想を言い合っているうちに、アイスの皿は空になった。食べ終わったところで、アルメは総評を述べた。

「うん。ミルクアイスもフルーツアイスも、美味しかったですね。とはいえ、自分で言うのもアレですが、うちのお店のアイスも同じくらい美味しいと自負しているので、勝ち負けは決められないように感じました。店の規模が違うので、引き分け、というのも微妙なところですが」

「俺はヒヨコアイスを気に入っているので、アルメさんのお店に票を入れたいですね。三頭身の鷹は、少々食べにくさもあり」

「職人さんの技術は素晴らしいですけどね。うちの白鷹ちゃんも、せめて二頭身くらいには……いや、ヒヨコを二匹重ねただけになりそうだわ」

「それはそれで可愛らしいと思いますが」

食休みをしつつ、こっそりと会話を交わす。アルメは肩の力を抜いて、ホッと息を吐いた。

「――とはいえ、もっと打ちのめされるものかと思いましたが、それほどダメージを食らわずに済んでよかったです」

この一ヶ月、ずっとこわばっていた心がほぐれた心地だ。

開店前に見たキャンベリナの態度から、ティティーの店の名を汚すような酷い店になるのでは……と心配していたのだけれど、思ったより店内の雰囲気はよかった。

それに提供されているアイスも、まったく勝ち目がない、というほどの際立った差はなかったように思う。

ミルクアイスに至っては、アルメの店の方が濃厚で美味しく感じられたくらいだ。

そういうわけで、少し気持ちがやわらいだ。

この気持ちと諸々の情報を得られたので、ひとまず、敵情視察作戦は成功ということにしておこう。

「それじゃあ、そろそろ出ましょうか。ここでコソコソ話を続けるのも、落ち着かないので。続きは馬車の中でしましょう」

「えぇ、そうですね。では会計を――」

一息ついた後、二人が動き出そうとした時。アルメのすぐ脇を給仕がすり抜けた。

それと同時に、足元でガシャンと音が鳴った。

給仕が、客の元に運んでいるアイスの皿を落としたらしい。皿は派手に割れて、アイスが飛び散った。

給仕は青い顔をして、大慌てで謝ってきた。

「申し訳ございません! お怪我はございませんか!?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「本当に、大変な失礼をいたしました! ドレスルームにご案内いたしますので、お召し物のお傷みはそちらでご確認を――」

給仕は急いで女性店員を呼び、アルメの椅子を引いてくれた。

そんなに大袈裟な対応など、しなくてもいいのだけれど……格式の高い店とはこういうものなのだろう。

ひとまず給仕の言葉通り、ドレスの裾にシミができていないかだけ、確認してこよう。

アルメはうながされるまま立ち上がった。

「すみません、ファルクさん。ドレスの裾だけ、ちょっと見てきますね。すぐ戻ります」

「俺のことは気にせずに。破片がついているかもしれませんから、お気をつけて」

「はい。では、失礼して」

女性店員に案内されて、アルメは席から離れた。

ドレスルームへと歩いていくアルメ。

その姿を見送って、アイス屋のオーナー、――キャンベリナはクスリと笑った。

アルメと入れ替わるようにして、店の奥から歩き出た。

ふわふわの金髪を揺らし、舞い上がるような気持ちで白鷹の元へと向かった。