軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53 アイスキャンディーの試作と同居人

翌日の夜、アルメは店を閉めた後、調理室でフルーツと向き合っていた。

テーブルの上には大粒ブドウとオレンジがいくつか。そして蜂蜜と魔導具のミキサーと、マドレーヌの型。

これから始めるのはアイスキャンディーの試作である。昨日顔合わせの食事会で盛り上がったので、早速作ってみることにしたのだ。

「よし、まずはブドウからいきましょうか」

エプロンを整えて、赤いぶどうの房を手に取った。

洗いながらブドウの粒を房から外して、半分に切る。種を取り除いて、どんどんミキサー容器に放り込んでいく。ブドウの山の上に、最後に蜂蜜を垂らし入れた。

しっかりとふたをして、ミキサーに風の魔石をはめ込んで起動させる。ブドウは皮ごと、トロリとしたなめらかなジュースに変わった。

出来上がったブドウジュースを、マドレーヌの型に流し込む。

マドレーヌ型は手のひら大の、貝殻のような形をしている。アイスキャンディー用の型がないので、今回はこれを使うことにした。

ジュースを型に流し込んだ後、スプーンを頭の部分だけ浸して、そっと添え置く。これは持ち手の棒代わりだ。本当は木のアイス棒が欲しいところなのだけれど……ないものは仕方がない。

マドレーヌ型は十個一気に作れるプレートを使っている。スプーンを十個分並べ浸して、両手を向けて氷魔法を使った。

型が小さいこともあって、あっという間に固まった。スプーンの柄を持って、慎重に型から外してみる。

ブドウアイスキャンディーの出来上がりだ。鮮やかな赤紫色と、貝殻の形が可愛らしい。

「なんだかペロペロキャンディーみたいね。もっとこう、細長い形の方がアイスキャンディーっぽいのだけれど」

出来上がった試作品を眺めながら、独り言をこぼす。

家にあるもので適当に作っただけなので、やはり少しイメージとは違う仕上がりとなった。

アルメがイメージしているのは前世で食べたアイスキャンディーだ。細長い形で木の棒部分をもって食べる、アレである。

店で出すとしたら、子供が気軽に買えるようにしたいので、大きさを抑えて価格も低くしたい。――そうなると、このマドレーヌ型だとちょっと大きい。

もっと細長く、棒に添った形がベストなのだけれど。

「型も棒も、特注で作ってもらうしかなさそうね。アイススプーンを作ってもらった工房にお願いしようかなぁ」

今、店でアイスの取り分けに使っている丸いアイススプーンは特注品である。ちょうど腱鞘炎を起こしかけた時に注文したものだ。

アイスを楽に綺麗にすくえるようにと、料理道具の工房にお願いして作ってもらった。火の魔石で熱を送る仕様で、スルリとアイスをすくえる素晴らしい品だ。

アイスキャンディーの型と棒も、また同じ工房に頼んでみようと思う。

ふむ、と予定を決めたところで、ブドウアイスキャンディーにかじりついた。さっぱりとした甘さが上品で美味しい。

「子供向けにするなら、もうちょっと甘くてもいいかしら」

あれこれ考えながら、一つぺろっと平らげてしまった。

ミキサーに余ったブドウジュースを別の容器に移して、一度洗う。次はオレンジの試作だ。

包丁で皮をむいたオレンジを半分に切って、種を取り出す。房を分けながらミキサーに投入して、蜂蜜をたっぷりと垂らした。

ふたをしたらミキサーを起動して、オレンジジュースを作る。こちらも黄色が鮮やかで綺麗だ。

出来上がったオレンジジュースを、またマドレーヌ型に注いでいく。スプーンを添えて氷魔法で固めたら完成だ。

オレンジアイスキャンディーをヒョイと持ち上げて、シャリシャリと試食する。甘さと爽やかな酸味が絶妙だ。

「うん、美味しい! 店に並べるなら種類を増やしてカラフルにしたいわね。あとはやっぱり、棒の部分に『あたり』の字は外せないわ」

前世での経験だが、棒アイスを食べた後に『あたり』の字が出てくると、なんとなく気分が良いものだ。是非、今世のアイスにも採用したい。

きっと子供たちにも喜んでもらえると思う。――そしてアイス好きの、常連客の神官様にも。

アイスを頬張って嬉しそうな顔で笑うファルクを思い浮かべて、ほっこりとしてしまった。

アイスキャンディー専用の型と棒は、なるべく早めに注文しておこう。

試作品を食べながら、アルメはテーブルの端に置きっぱなしになっている、一つの 空(から) 魔石へと手を伸ばした。

これは魔法補充の作業が途中になっていたものだ。

アイスを味わいつつ、空いた手で魔法を込めて作業を終わらせておく。

魔法補充の副業は、日中店の仕事をしながら、隙間時間に一個一個こつこつとこなしている。今日の作業ノルマは、この一個を終えたら無事に終了だ。

アイスを食べ終わると同時に、魔石も氷魔法で満たされた。透明だった空魔石は氷のような薄い青色に染まった。

調理室の端に置いてある魔石入れの荷箱を持ってきて、テーブルの上に置く。鍵を使って錠を開けると、シャラリと精霊の光が舞った。

箱の中には二つの巾着袋が入っていて、その中に魔石が収められている。巾着袋は二つあり、一つには魔法封じの呪文が刺繍されている。魔法を込めた後の魔石はこちらの袋に入れる。

丁寧に魔石をしまって荷箱を閉じた。またしっかりと鍵をかけて――というところで、ふと思った。

精霊スプリガンの姿を、もう一度よくよく見れないものか、と。

契約をした瞬間、一瞬だけ見ることができたけれど、すぐに消えてしまった。あの時は不意打ちをくらったので、あまりじっくりと見られなかった。

普通に暮らしていたら、精霊の姿なんてなかなか見る機会がないので、もったいないことをしたなぁと、少し後悔していた。

アルメは荷箱をじっと見つめて喋りかけてみた。

「スプリガンさん、もう一度出てきてもらうことはできないのでしょうか?」

返事はない。精霊には人の言葉が通じないのか、はたまた無視されているだけなのか。

う~んと考え込んだ後、オレンジアイスキャンディーを手に取ってみた。食べ物でつれたりして……なんてことを考えて。

「出てきて、アイスでも食べませんか? 美味しいですよ?」

冗談っぽく言ってみたら、近づけたアイスの先にシャラリと光が舞った。思わず驚いて飛びのいてしまった。

目をパチクリさせながら、手元のアイスを確認する。すると、アイスの端っこが小さく欠けていた。

「た……食べた……!?」

光が舞うだけで姿は見えなかったけれど、食べてくれたようだ。

なんだかちょっと嬉しい。懐かない動物が、手からご飯を食べてくれたような感動がある。

感慨深さにひたりながら、もう一度声をかけてみた。

「あの、明日はミルクアイスをあげますね」

応えるかのように、また光が舞った。これはなんとも楽しい交流だ。

これから先、見えない同居人を相手にした独り言が増えてしまいそうだ。